証券会社は、株式の個別銘柄の調査を行い、その情報を顧客に提供しているが、これは、投資顧問契約に基づく助言に類似していても、法律上は異なるものであり、実は、法律上の付随業務ですらなく、単なる営業活動なのだと考えられる。
つまり、証券会社の業務が法律によって規制されているとしても、社会通念上は、商業には必ず営業行為が含まれ、営業には必ず情報提供が含まれ、情報提供には必ず推奨的要素、もしくは何らかの助言的要素が含まれるのだから、証券会社の営業も例外ではないと考えられるのである。
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さて、商業において、営業に要する費用が顧客に請求されないという意味は、商品の原価には含まれずに、販売管理費になるというだけのことで、究極的には顧客の負担となる。同様に、証券会社の顧客に対する情報提供に要する経費について、それが営業活動に要する販売管理費だとしたら、究極的には顧客の負担となるはずである。
そこで、証券会社の事業戦略として、顧客への情報提供を廃止し、販売管理費を削減して、その効果を委託手数料の引き下げとして顧客に還元することが考えられ、実際に、そうした戦略をとる会社もあるわけだ。しかし、こうなると、この手数料格差は、情報提供の有無によって説明されるほかなく、ならば、情報提供に要する費用は、本業での収益である委託手数料の原価ではないかとの疑義を生じる。
さて、金融庁は、金融機関に対して、顧客が負担する手数料その他の費用の詳細について、顧客が理解できるように、情報提供すべきであるとしている。この金融庁の施策のもとでは、明確な方向として、委託手数料の原価の開示は不可避になると思われるが、費用との関係において情報提供の価値を評価しない顧客が増えてくれば、証券会社の伝統的な事業構造は大きく揺らぐことになってしまう。
そのなかで、情報提供を廃止して、委託手数料の引き下げを図る、極端な場合、無料化する、あるいは、全く逆に、情報提供の質を高度化させることで他社との差別優位を狙うなど、証券会社の経営戦略の多様化が進むはずなのである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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