斎藤兵庫県知事が再選されて1年が経った。投票日の2日前に筆者は「トランプ2.0」を捩った「兵庫県知事選は『斎藤2.0』」なる記事で、「斉藤氏が100万票以上を取り、2位に10万票差で勝つ」と書いた。
投票率が上がり111.4万票 vs 97.7万票となったが、ほぼ予想した通りの結果だった。拙稿ではまた、斎藤氏とトランプ大統領に共通点があるとし、「既成の利権構造に抗って反撃に遭い、オールドメディアに叩かれている点だ」と書いた。
ここで先に本稿表題の解を述べてしまえば、その一つはオールドメディアが挙って行ってきた斎藤バッシングの偏向報道であり、他の一つは兵庫県が未だに「公用PCの中身」を公開していないことである、と筆者は考えている。
オールドメディアの偏向報道
本年3月19日に第三者委員会が公表した膨大な報告書を筆者も読み、そのまとめを本欄に寄せた。報告書は、元県民局長が昨年3月12日に10ヵ所に配布した「告発文書」(以下「文書」)の記述7項目のうちパワハラ項目を除く6項目を事実ではないと否定した。
それにも関わらず、オールドメディアは報告書が出た後も斎藤バッシングを続け、プロ野球の優勝パレードを巡る経費支出、県に贈られたワインの持ち帰り、PR会社を巡る公職選挙法違反などの告発にも発展した。
が、結局そのどれもがこの13日までに嫌疑不十分で不起訴となり、残るは後でも触れる、斎藤氏が自身への「文書」の作成者(渡瀬氏)に関する私的情報を県議に漏洩したとする告発(地方公務員法違反容疑)だけとなった。
斎藤氏はこの不起訴につき、「適正適法に対応してきたという我々の主張と一致する結論で、いったん決着したと考えている」としつつ、「漏洩に関する指示はしていないという認識に変わりはない。捜査機関に協力を求められれば応じていく」と述べた(以上、13日の『日経』記事)。
これら告発もトランプ氏と共通するが、明確な相違点がある。それは斎藤氏の「静」とトランプ氏の「動」だ。トランプ氏は自身のSNSで積極的に発信し続け、90余件の訴訟の大半を退け、昨年10月に捏造動画を流し理事長やCEOが引責辞任したBBCに10億ドルの賠償訴訟を起こすと述べるなど、今や反撃に転じている。
トランプ氏の反撃はオールドメディアに対しても容赦ない。即ち、BBCもそうだが、NYT、Washington Post、MSNBCなどが軒並みトランプ氏の軍門に下り、訴訟されたり、経営者が変ったり、アンカーが馘首されたり、それでも発行部数や視聴者が減少したりで、総じて低迷している。
その一方、Fox、Newsmax、WFB、ブライトバードなどの親トランプメディアが読者・視聴者を増やした。「真実」に光が当てられれば、さすがトランプ嫌いのオールドメディアも偏向報道を続けられないということだ。
兵庫県問題における我国報道界の特徴は、斎藤氏を擁護するメディア、つまり『Fox』の不在である。多くの問題では『産経』がその役割を果たしている。拉致問題然り、モリカケ然り。が、事この件に限っては『産経WEST』の偏向振りは左派紙に劣らない。
そうであれば、問題意識を持つ者の目が情報を求めてSNSに向かうのは成り行きだ。「東大卒ニート」なる方が「兵庫県告発文書問題まとめ」と題して掲載している、全てに出典が付されたその膨大な資料を読めば、この問題の「真実」がどこにあるのか推察がつく。
つまり、オールドメディア対SNSの情報の中身の違いが、最も顕著に出ている事案の一つがこの兵庫県の斉藤知事問題なのである。オールドメディアも意地を張らずに拳を降ろし、知っていることを全て正直に報じたらどうか。
公用PCの中身の非公開
百条委員会の委員長だった奥谷県議が16日朝の『時事』のインタビュー記事で、「告発文書の配布は、保護法の対象外となる“不正の目的”だとの指摘もある」や「問題の収束には何が必要か」との問いにこう答えている。
百条委の中で、元県民局長の公用パソコン中に「不正の目的」を示す証拠があるとの議論があり、調査を実施した。さまざまな資料を見た上で、百条委として「不正の目的」は認められないと結論を出している。
第三者委などが指摘した問題点を受け入れ、しっかり反省し再発防止策を提示することが、混乱を収める一番の方法だ。
奥谷氏と対照的に、片山元兵庫県副知事は同日同時刻に配信された『時事』のインタビュー記事で、「問題の収束には何が必要か」との問いにこう応じた。
元県民局長の公用パソコンには「不正な目的」があったことを示すメールがある。これについて県として調査を実施し、結果を県民に示すべきだ。また、現在空席の2人目の副知事に県議会との調整を担う人材を起用することが必要だ。
「公用PCの中身」と思しきものを入手した立花隆氏や丸山穂高氏、そして最近では新田哲史氏が、自身のyoutube番組や月刊誌などでその一部を公開した。新田氏に至ってはその真贋を兵庫県に公式に問う行動にまで及んだが、兵庫県は頑としてそれに応じていない。
斎藤知事は本年3月5日、(元県民局長は)「わいせつな文書を作成していた」「税金で買った公用パソコン。どういう使い方をしていたか、納税者は関心があると思う」とし、情報公開請求に対して公開が可能か検討する考えを示した。
が、県人事課は18日、情報公開条例で保護される個人情報に該当すると判断し、「(公開しても)公益性は考えられない」として、非公開を決めた(3月19日の『読売』記事)。
実は百条委員会緊急理事会は24年7月8日、「公用PCの中身」の公開について議論していた。議事録によれば、増山誠氏は同委員会の主たる目的が、「文書」が告発した7項目の内容が真実かどうかを調査することにあるとして、その全面公開を主張した。
竹内英明氏からは、県の情報公開条例の第6条で「個人として他人に知られたくない情報については非公開ということが条例で定められている」、「それをどこかに漏らしたり話したりすることがあれば」、「刑事訴追される可能性があると思う」などの意見も出た。
丸尾まき氏も、「竹内理事の発言のとおり、他の百条委員会を開催したところでも、名誉棄損等での裁判は起こっている。個人情報の取扱については十分に慎重にしないといけないと思う」という意見を述べた。
これらを受けて、最終的に奥谷委員長が「県当局、人事課に対しては、内部調査に関する資料のうち当委員会の調査事項に係る資料のみの提出を求めたいと考える」との結論を出した結果、今に至ってもその多くが公開されないままなのである。
トランプ氏も「エプスタイン文書」(「エ文書」)の公開に否定的だったが、MAGAの急先鋒だったM・T・グリーン氏が公開を躊躇うトランプ氏の姿勢を非難するに至り、彼女と袂を分かつと宣言、返す刀で17日、「エ文書」の公開法案が下院で可決されれば署名すると明言した(下院は18日に可決)。
下院での採決に先立ち与野党議員らと共に、「エプスタイン氏による性的虐待の被害者ら約20人が議会前で文書公開を訴えた」というから、「個人として他人に知られたくない情報」の程度は、元県民局長の「公用PCの中身」の比ではなかろう。が、トランプ氏は「真実」の解明に不可欠と考えたのだろう。
斉藤氏も人事課に公開を指示すべきではないか。既に元県民局長の私的情報を県議に漏洩したとする地方公務員法違反の告発を受けていることもあるし、全ての責任はいずれ知事が負わねばならぬ。こうした混乱が長引くことの社会的影響は決して小さくない。
たら話になるが、元県民局長を懲戒処分した昨年3月時点で、今やその真贋が定かでないまま漏洩しつつある「公用PCの中身」を公開していたら、おそらく百条委員会もなかったし、元県民局長や竹内県議が死ぬこともなく、大金を要した知事再選挙も不要だった。
オールドメディアにとってみも、拳を振り上げて斉藤バッシングする必要もなかったから、SNSとの情報内容の差を比較されずに済んだかも知れぬ。筆者には「オールドメディアの取材力あってこそのSNS」との持論もあるから、実は共存共栄を望んでいる。