兵庫県知事選は「斎藤2.0」

NHKより

兵庫県知事の件について筆者は9月初め、斎藤氏をやんわり擁護する立場から「兵庫県知事のパワハラ問題で一言」なる拙稿を書いた。その手前、この2ヵ月成り行きを注視してきたが、ここへ来てトリックスター立花孝志氏が斎藤支援目的と称して参戦したこともあり、「斎藤2.0」の目が大いに出て来た。

兵庫県知事のパワハラ問題で一言
目下、針の筵に座らされている感のある斎藤元彦兵庫県知事が、8月30日に開かれた兵庫県議会の調査特別委員会「百条委員会」で初めて証言した。告発文に「20メートル歩かされただけで怒鳴り散らした」とある問題については、「(公用車)の進入経路が確保...

そう思う理由の一つは、「斎藤追っかけ」とでもいうべき複数のYouTuberが都度挙げている遊説動画である。今日は但馬、明日は高砂と津々浦々を回って日々何ヵ所かで行う街頭演説には、老若男女を問わず大勢の聴衆が集まる。鄙びた沿道でさえ数十人、賑やかな都市部となれば数百人とも思しき人々で歩道橋も鈴なりだ。

そこで斎藤氏は百条委員会や記者会見で見せた例の淡々とした口調で、先ず自らの事で生じた県政の混乱を詫び、この3年余りの治績を語って皆さんの支援あってこそ、と何度も四方の聴衆に頭を下げる。演説が終われば一人一人と握手しながら目を合わせ、激励への礼を延々続け、その多くが求めるサインやツーショットにも丁寧に応じるのである。

もう一つは、改めて視聴した県議会百条委員会の様子だ。参考人の大学教授や弁護士は、後に自死した元県民局長(以下、告発者)が4月の公益通報に先立って3月に外部に配布した告発文書も公益通報に当たるとし、斎藤氏や前副知事らが告発者探しを行ったのは「公益通報者保護法」(以下、保護法)に違反するとの見解を披歴した。

これに対し斎藤氏は、3月の告発文書は「誹謗中傷の類」であって公益通報には当たらず、文書作成者を特定して処分を行ったことは間違っていないと一貫して主張、9月6日の百条委員会でもその考えは変わっていないと述べた。辞職した元副知事も3月の告発文書への対応について同様の見解を述べている。

百条委員会では委員である県議の多くが、2年前の保護法改正によって「通報対象事実」の真実相当性が必要なくなったとして、斎藤氏や元副知事のいう「嘘八百」や「居酒屋の噂話」であっても保護法が適用されると主張する。

が、普通の常識を以てこれを聞くなら、真実相当性の乏しい、すなわち虚偽の通報対象事実によって職を追われる事態などが生じるなら、それは法律の方がおかしい、ということになるのではあるまいか。消費者庁の公益通報者保護制度のサイトを見ると、次のように書いてある。

通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由が必要となります。これを「真実相当性」といいますが、単なる憶測や伝聞ではなく、通報対象事実を裏付ける証拠や関係者による信用性の高い供述など、相当の根拠があることを意味します。(太字は筆者)

当然のことだと思う。加えて以下の様に「不正な目的」でないことも、保護法のもう一つの重要な要件である。

公益通報は、「不正の目的」でないことが必要となります(法第2条第1項本文)。例えば、通報を手段として金品をゆすりたかるなどの不正の利益を得る目的であったり、対象事業者や対象行為者の信用を失墜させるなどの有形無形の損害を加える目的であったりというのが、ここにいう「不正の目的」に当たり、「不正の目的」がある場合は、公益通報にはなりません。(太字は筆者)

斎藤氏は百条委員会で3月の告発文書には、自身のことだけでなく他の人物の名前も出ており、このままでは兵庫県にとって好ましくない事態になると考えたとの趣旨を述べている。告発者と面談し、その公用PCを調査した元副知事は「クーデター」といった文言があったとした。好ましからざるプライベートなことも入っているとの情報も出てきている。

が、その判明が4月に入って告発者が公益通報した後のことであるなら、告発者探しをした3月時点ではその「不正な目的」と思しきことが判明する前となる。とはいえ、告発文書の内容は斎藤氏自身にとって身に覚えのない「嘘八百」であったのだろう。その百条委員会はまだ続く様だが、知事選の投開票は17日だ。

米大統領選ではトランプが圧勝した。「トランプ2.0」で4件の訴訟がどうなるかが話題だ。彼がバイデン政権による「司法の武器化」と難じる連邦訴訟事案の「J6」と機密文書の件は、有罪となっても自ら恩赦すると公言しているから取り下げられよう。ニューヨーク州の口止め料とジョージア州の選挙介入の件は州の訴訟事案なので前2つの様にはならない可能性もある。

果たして斎藤氏はどうなるか。が、彼とトランプには共通点がある。既成の利権構造に抗って反撃に遭い、オールドメディアに叩かれている点だ。安倍元総理はこれを話題にしてトランプの歓心を買った。筆者が冒頭の拙稿を書いたのも、斎藤バッシングに対する判官贔屓と首尾一貫挫けない彼の姿勢への驚嘆からだ。

筆者はこの17日の「斎藤2.0」実現を夢想している。数字の根拠は次のようだ。

斎藤氏が当選した前回21年7月の選挙は、有権者総数:453万人、投票率:41.1%(前々回40.9%)、総投票数:186万票、斎藤氏:85.9万票(46.2%)、金沢元副知事:60.1万票(32.3%)、他3名:40万票(21.5%)だった。

筆者の夢想は、投票率:50%、総投票数:227万票、斎藤氏:100万票、稲村氏90万票、他4名37万票だ。ここ最近の投票率は40%だがこれだけ話題になれば50%はあり得る。斎藤氏が前回86万人の9割を得れば77万票、投票率UP分41万票の半分がこれに乗れば100万票だ。残る127万票を稲村氏7割、他4名3割で分け合う。「斎藤2.0」はある。