「若者の〇〇離れ」はお金がないからではない

黒坂岳央です。

SNSを開けば、日替わりで「若者の〇〇離れ」という嘆きが流れてくる。

「若者が車を買わないのはお金がないから」
「海外旅行に行かないのは貧しくなったから」
「最近の若者が家から出ないのは経済的余裕がないから」

確かに、日本経済の停滞、増税による使えるお金の減少自体は事実だ。しかし、若者の行動変容のすべてを「貧困」で片付け、思考停止していないだろうか。

若者が街へ出なくなった大きな要因は、経済的な欠乏だけではない。結論から言うと「スマホ」が主要因と考える。

※ なお、本稿で論じるのは「すべての若者」ではない。あくまで「かつてのアナログな行動様式から離脱し、デジタルへ移行した層」に焦点を当てた分析である。

daruma46/iStock

「海外の若者」も引きこもっている現実

まず、「金がないから外に出ない(家にいる)」という仮説が正しいなら、日本よりはるかに豊かな国の若者は、アクティブに外出し、消費を謳歌しているはずだ。

ここで世界のデータを見てみよう。 アメリカのZ世代の平均賃金は、購買力平価で見ても日本より高い水準にある。しかし、現実はどうだろうか。

社会心理学者ジョナサン・ハイト氏の研究などが指摘するように、2010年代初頭からスマートフォンの普及と比例するように、現地の若者のメンタルヘルスは悪化、対面交流の時間は減少、代わりにスクリーンタイムが激増している。

アメリカのティーンエイジャーの1日平均スクリーンタイムは約7〜9時間と言われるほどのめり込んでいる。「Doom Scrolling(破滅的なコンテンツを延々とスクロールする)」が社会問題となっているのは、日本より経済的に豊かなアメリカの若者も同じ、いやさらに問題は大きい。

中国も同様だ。過去20年でGDPは爆発的に成長し、若者の所得も増えた。しかし、そこで生まれたトレンドは、過酷な競争を降りて最低限の生活で部屋にこもる「寝そべり(躺平)」族の急増である。

「所得が高い国の若者も、スマホに没入して外に出ない傾向がある」という事実は、「日本人が貧しいから外出しない」という主張だけでは、事象の全容を説明しきれない。経済力という変数は、この現象の決定的な要因ではないといえるだろう。

インフレでも「スマホ課金」は止まらない

次に、日本国内の「お金の使い道」に目を向けよう。「インフレや円安で若者の生活は苦しい、だから消費しない」という意見がある。確かに生活必需品のコストは上がっている。だが、詳細を見ると「選択と集中」が起きていることがわかる。

総務省の家計調査などの推移を見ても、若年層の通信費やデジタルコンテンツへの支出割合は、他の支出を削ってでも維持、あるいは増加させる傾向にある。 彼らは「お金がなくて何もできない」わけではない。「外出して2,000円のランチ」や「飲み会」に使うお金を、動画サブスクリプションや、ゲームの課金、クリエイターへの投げ銭に「あえて」回しているのだ。

なぜか? 理由はシンプル、彼らにとって 「リアルの体験」は、コストパフォーマンスが悪すぎるからだ。

あらゆる娯楽の競合はスマホ

過去10年で起きた最大の変化は、人類史上初めて「移動コストゼロ・ハズレなし・数秒でドーパミンを得られる」という娯楽装置が、全員のポケットに入ったことだ。

外出のコストを考えてみてほしい。身支度、移動時間、交通費、対人ストレス、そして当たり外れのある食事や体験。 対してスマホはどうだ。ベッドで寝たまま指一本。AIが自分好みに最適化した動画が無限に流れてくる。

この二つを天秤にかけた時、脳の報酬系の仕組みを考えれば、後者が選ばれやすいのは必然に近い。 かつて若者が車や酒、旅行にお金を使っていたのは、「スマホという強力な代替財」が存在しなかったことも大きいだろう。もしバブル期にiPhoneとTikTokがあったなら、当時の若者の時間の使い方も、今とは大きく異なっていたはずだ。

もちろん、若年層の経済的支援は必要だ。そこを否定するつもりはない。 しかし、大人が「若者が外に出ないのは貧しいからだ(だから景気が良くなれば解決する)」と考えるのは、論理的に間違っている。

たとえ明日、若者の手取りが倍になったとしても、彼らは高級なソファと最新のiPadを買い、Uber Eatsで少し高い食事を頼んで、結局は家で動画を見るだろう。一度知ってしまった「ドーパミン製造機」の快楽は、お金を持ったくらいでは抜け出せない。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。