マツダが今年度導入した希望退職制度で、予定上限の500人に早くも到達した。業績悪化による「リストラ」と受け取られがちだが、今回の制度はその文脈とは異なる。日本企業で早期退職制度が「ルーチン化」しつつある中、マツダのケースは新たな人事モデルの転換を象徴する事例とも言えそうだ。
- マツダは1日、今年度に設けた希望退職制度の応募者が上限の500人に達し、予定より早く募集を終了した。
- 当初は2025〜26年にかけて最大4回の募集を想定していたが、2回目で上限到達という異例のペースとなった。
- 背景には、トランプ米政権の関税政策などによる収益圧迫はあるものの、会社側は「経営不振によるリストラではない」と明確に説明している。
- 希望退職の扱いは「自己都合退社」であり、一般的な構造改革局面で見られる「会社都合退社」扱いではない点が特徴。
- これは、マツダが「辞めさせる」のではなく、キャリア形成として転職を希望する社員を会社が支援する姿勢を示すものとされる。
参照:マツダの希望退職者500人募集は何を意味しているか?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】 グーネットマガジン
- 日本企業ではかつて一部で提唱された「40歳定年」構想が、形を変えて制度として浸透しつつあり、黒字でも早期退職を募る企業が増加している。
- 三菱電機・パナソニック・日産などでも同種の制度が続き、早期退職が完全にルーチン化する動きが強まっている。
- 日本企業が長く育成してきたゼネラリスト型人材は市場で専門性が弱いため、シニア層は転職時に希望年収と現実の求人水準のギャップが生じるケースが多いと言われている。
- ただし近年は、専門性を磨き、FIRE可能な資産を築いた人が制度を利用して「次のキャリア」に進む成功モデルも増えてきている。
- 若手の間では「とにかく出世」よりも、最初からジョブ型キャリアを前提に「卒業」を計画する生き方が主流化する可能性がある。
マツダの希望退職上限到達は、単なる人員削減ではなく、日本企業全体の「キャリア観の転換」を映し出す出来事である。終身雇用を前提としたゼネラリスト型から、市場で通用する専門スキルへ。希望退職はもはや異常事態ではなく、企業と個人が次のステージに進むための「通常のキャリア制度」として定着していくだろう。
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