民度は国籍ではなく「経済力」で決まる

黒坂岳央です。

インバウンドの活況に伴い、街中で外国人を見かける機会が劇的に増えた。

「外国人はマナーが悪い」
「声が大きい」
「列に並ばない」

SNSにはそんな外国人への嘆きや批判で溢れている。確かに、一部では電車で爆音でBGMを流したり、テーマパークで踊りを録画する迷惑行為をする外国人観光客を見ることがある。

だが仕事や私生活で多くの外国人と接してきた筆者の結論として、民度は国籍ではなく経済力で決まるという感覚がある。

もちろん、お金の多寡だけで人の価値を決める、という暴論ではない。どこの世界にも例外はあるし、大多数の人はマナーを守って平和に生活している。だが、そこには無視できない「統計的な傾向」が存在する。

Masaki Kouda/iStock

「マナー」は有料コンテンツ

筆者がこれから引っ越しをするエリアは、近隣に多くの外国人が住んでいる。彼らの職業は会社経営者、国際的なデザイナー、外資系企業の幹部や開業医など多岐にわたる。物件内覧時に直接外国人オーナーとコミュニケーションを取ったが、驚くべきことに、彼らは皆、驚くほど物腰が柔らかく、静かだ。

コミュニティのゴミ拾いイベントなども自主的にやっており、ゴミ出しのルールも完璧、夜中に騒ぐことなど決してない。「とても静かで子供を育てやすいからここに住んでいる」といっていた。本棚には「JLPT(日本語能力試験 )」のテキストが置いてあり、彼らの多くは日本語を流暢に操る。日本の文化や慣習を深くリスペクトしている。

これは筆者が昔、東京の外資系企業に勤務していた頃も同様の感覚があった。六本木や麻布十番に住む本国から派遣された上級職社員は、総じてエレガントで、洗練されており、良いスーツを着て絵に書いたような「いかにもエリート」という感じだ。公共の場で醜態を晒すようなことはなく、とにかく「静かで落ち着いている」という感覚がある。

5つ星の高級ホテルにいっても同じだ。下手をするとホテルのスタッフもお客さんも「ほぼ外国人のみ」という状況になっている宿泊先も経験したが、とにかく物静か。レストランで騒ぐような人は誰もいない。親子で4-5人で静かに食事をしているので、パッと見で日本人と思ったが、お会計時に話した言葉で中国人だとわかったこともあった。

一方でドヤ街のバックパッカーにいる外国人は、振る舞いや声量はどうしてもそれとは変わることが少なくない。

日本に住み、日本人と関わるとつい忘れてしまうが、「マナー」は無料ではなく、本来はコストがかかる。他国の文化やルールを事前に学習する時間、周囲に配慮して行動を律する認知リソース、そして快適な環境(高級ホテルなど)を買う金銭的余裕。これらは全て「コスト」である。

つまり、高い民度とは、経済的・時間的余裕がある層だけが購入できる「有料コンテンツ」に近い側面があるのだ。

日本人も「貧すれば鈍する」

視点を変えて、日本人自身のことを考えてみたい。平均点としての民度についていえば、日本人の民度は世界トップクラスで間違いないだろう。社会全体でマナーの基準が非常に厳しく、逸脱するものはすぐに糾弾される。満員電車でBGMをうるさく出せば、即座に注意される。日本は世界的に見ても大変マナーが良い国なのだ。

その前提はありつつ、どうしても所得水準が落ちるエリアのマナーや治安は沈む傾向にある。全員とは言わない。だが、傾向は確実にある。筆者は東京のドヤ街、治安が悪いエリアに長く住んでいた時期があった。正直、治安が良いとは言えないし、民度も良くなかった。

ゴミの不法投棄は日常茶飯事で、壁は落書きがあったり、夜遅くまで怒号や騒音が響く。非正規雇用で働いている時や、工業高校時代は「万引き自慢」をする人や、腕力や暴力で相手をねじ伏せるのがカッコいい、という価値観を持つ人も少なくなかった。ゴミのポイ捨て、約束を守らない、借金の踏み倒し、携帯のブラックリスト入りという人たちもいた。

これは個人の体験による印象だけではない。警視庁の犯罪統計や、東京都内の所得別マップと粗暴犯の発生件数を重ね合わせれば、そこには明確な負の相関が見て取れる。所得が低い地域ほど、トラブルは多い。

これは「貧乏人は性格が悪い」という意味ではない。「衣食足りて礼節を知る」という古人の言葉通り、たとえ本来はマナーの良い日本人であっても、日々の生存や生活に追われ、精神的な余裕が枯渇すれば、他者への配慮というコストを払うことが困難になるのだ。

インバウンドの問題も同様だ。格安航空券で来る若者と、ラグジュアリーホテルに泊まる富裕層とでは、同じ国籍でもその振る舞いは天地ほど違う。 私たちは往々にして目立つ「マナーの悪い一部の外国人」を見て、それを「その国の人全員」の特徴だと錯覚してしまう。

我々は往々にして目立つ「マナーの悪い一部の外国人」を見て、それを「その国の人全員」の特徴だと錯覚してしまうのだ。しかし、実際には国籍より経済力が振る舞いを決める。

国籍ではなく「余裕の有無」を見ることこの方が、相手の振る舞いの良し悪しを判断材料となるだろう。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。