7〜9月期のGDP改定値が下方修正され、実質成長率が年率2.3%減となった。設備投資が想定以上に落ち込み、実質GDPは速報値から下方修正され、国内の成長力の鈍化が鮮明になった。また、厚労省が8日に発表した10月の毎月勤労統計(速報)では、実質賃金が前年同月比0.7%減となった。名目賃金は増えているものの物価上昇に追いつかず、実質賃金のマイナスは25年1月以来10カ月連続となった。
その一方で、10月の経常収支統計では黒字幅が拡大した。だが主因は貿易ではなく海外投資収益であり、国内の豊かさには直結しない構造的な変化が一段と際立っている。
- 内閣府が8日に発表した7〜9月期の実質GDP改定値は、前期比0.6%減、年率2.3%減と速報値から下方修正された。設備投資の弱さなど最新指標の反映が要因で、国内の生産活動や投資の停滞が改めて示された。
- 一方、財務省が同日発表した10月の経常収支は2兆8335億円の黒字となり、前年同月比15.5%増となった。黒字拡大の主因は、第1次所得収支(海外投資からの利子・配当)であり、貿易収支の赤字を大きく上回る構造が続いている。
- 日本の経常黒字が所得収支主導となったのは2010年代からの流れで、企業が国内では投資採算が取れず、成長機会を海外に求めた結果である。円安が進むにつれ、海外子会社の利益は膨らむが、それらはGDPに含まれず、国内の雇用や所得に結びつかない。
- 「円安で輸出が増えて景気が良くなる」という考え方はすでに時代遅れになっている。輸出大企業は生産拠点を海外に移しており、円安メリットは本社の損益に限定される。一方で、国内雇用の7割を占める小売、飲食、医療、運輸などの内需サービス業は円安による輸入コスト増だけを背負い、実質所得は低下し続けている。
- 第1次所得収支の黒字拡大は見かけ上の経常黒字を押し上げるが、国内成長力の弱さを逆に示す側面が強い。高市政権は投資促進を掲げるが、国債発行の拡大で長期金利が上昇すれば、民間投資が「クラウディングアウト」されるリスクがさらに高まる。名目GDPはインフレで膨らむ一方、実質GDPは伸びず、国民の生活実感は改善しない。
今回のGDP下方修正と経常黒字の拡大は、日本の産業構造の空洞化と、円安下での実質所得の低下という問題を同時に浮き彫りにした。海外投資のもうけで経常収支が黒字でも、それは国内の成長や賃金にはつながらず、国民の豊かさを示す GDP も押し上げない。日本経済の課題は、黒字の数字よりも、国内で投資と所得を生み出す力が弱まっているという現実そのものである。

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