中国はどこまで暴れる気なのか、たぶん、その答えは高市氏を首相の座から引きずりおろすまで、これが習近平氏の「個人的対日バトル」の勝利を意味するものだと思います。現在の中国の狂ったような一連の行動は習氏に対する忖度の影響が極めて大きいと考えています。

日中首脳会談 10月31日 高市首相Xより
この忖度は昨日今日に始まったわけではなく、何年も続いているわけですが、共産党にとって習氏の思惑通り物事が進んでいれば問題はなかったのです。例えば先般の韓国でのトランプ氏との会談でも会議の席に並んだ中国側のトップたちは極度の緊張で、習氏以外は会話をさせないという皇帝のような振る舞いを見せたとされます。周りの閣僚は太鼓持ちなのでしょう。
その中でも王毅外相は習氏からのウケが良いとされ、党大会時に68歳を超えていれば引退するという年齢制限を復したうえで要職に就いたのも外交実績と習氏の評価があるからです。現在72歳となる同氏は外交の実務に精通し、習氏との信頼関係、さらには日本語も堪能な日本通(ある意味逆の意味かもしれないが)であることを武器に習氏があまり望まなかったとされる高市氏との会談をセットしたとされます。
が、その会談からまだ日が浅いうちに高市氏から例の発言が飛び出したことで最大のとばっちりを受けたのが王毅氏だとされます。王毅氏は下手したらクビになるわけで、日本への怒りはさぞかしでしょう。よって氏の人的コネクションを頼りに必死に欧州の首脳に「日本は酷い」ということを触れ回りますが、王毅氏は常に習氏の顔色を伺っているのがありありと見えてしまうのです。
当然ながら他の政治局員たちも習氏の怒りに対して各部署がさまざまな「対策」を講じ、「私はこれをしました」「私はこうです」「こんな実績が上がりました」…といった成果報告をしているものと思われます。そうであれば文化大革命の時の紅衛兵とさして変わらないのではないかと感じてしまいます。ただ、習氏の目標はそんな目先の日本苛めではなく、冒頭申し上げたような高市氏を首相から引きずりおろすことだろうと思われ、そこまでしなければ習氏は矛先を収めることはない気がします。
私が気になるのはトランプ氏も習氏に言いくるめられた可能性です。トランプ氏と習氏が電話会談を1時間した際のメインテーマは本件だったとされます。ウォールストリートジャーナルが11月27日号でトランプ氏が日本に抑制を求めると報じ、木原官房長官がそんな事実はないと即座に打ち消したことがありました。ただ、同電話会談で習氏が日本に対して怒りまくり、聞き役に回ったトランプ氏が「ちょっと面倒だな」と思ったのは事実だと思います。
というのはトランプ氏は自身の保身的理由で中国との外交、貿易について一定の着地点を考えたいと考えているはずで当然ながらそこには「美しい結果」を引き出せるような環境づくりが必要なはずです。なのに同盟を結び、歴史的にも密接な関係がある日本の外交に足を引っ張られるのは口には出さないけれど芳しくないわけです。
例えばレーダー照査事件についてもワシントンは明白なコメントを出していません。どう見ても「stay away」(=トラブルに巻き込まれないよう離れること)状態に見えます。ここに実は私は日米安保のほころびを感じるのです。アメリカは日本を守ると日本は信じているかもしれませんが、私はこのブログでずっと言い続けているようにアメリカが日本のために血を流すことはないと考えています。まだ世界大戦をやっている時代ならともかく現代社会が複雑になり、人権、法律からガバナンスといったがんじがらめの社会の中でたった一つの契約書を盾に「記載文言の通り実行してくれる」と信じるのはお人よしと申し上げます。
法律、裁判の世界では判例主義と制定法主義という2つの流れがあります。制定法主義、つまり成文法に基づくもので法律や契約でこう書いているからこれが正しい、よってそれに基づき判断するというもので日本では制定法主義が基調になっています。ところが北米は判例主義が基本であり、法律にどう書いてあろうが、ケースバイケースで判断し、必ずしも法文に乗った形にならず、時代の要請に基づく判決が出ることが多くなっています。
これと同様、日米安保も日本とアメリカではその捉え方に温度差があるはずで、アメリカはご都合主義的な解釈、つまり平時には安保を盾にいろいろ要求し、緊急時にはそんな昔の約束を言葉通りに実行できないという可能性は大いにあるのです。もちろん、日本が国際世論から100%の支持を集め、アメリカ世論も日本を支援すべき、一緒に血を流すという事態が生じれば別ですが、そんなことは現代社会ではほとんど起こることはないのです。
習氏はそこまで読んでいると思います。トランプ大統領を困らせたのです。その上で「台湾問題に茶々を入れると中国は本気で行動を起こす」ということを日本に対して示したとも言えるでしょう。
日経に習氏が怒る本質は日清戦争ではないか、とする編集委員記事があります。私は中国の「恨みの100年」とされるアヘン戦争から日中戦争までの一連の動きの中で対日関係の歴史的事実全てがその背景にあるとみています。台湾を取られた直接的理由は日清戦争の結果ではありますが、習氏がそこにこだわっているとは私は思えないです。なぜなら当時、中国(清朝)から見て台湾は「化外の地」であり、そこには中国の重要なる文化的足跡があったわけではないのです。単なる島です。それよりも台湾の近年の著しい経済的発展が魅力だったのでしょう。香港と同じです。習氏の「上から目線」を通した影響力の行使、これが全てではないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月10日の記事より転載させていただきました。





