国の公的職業訓練「リスキリング」が、企業の採用ニーズとズレ続け、受講者の約3割が就職できていない実態が明らかになった。政府は年間1200億円超を投じていると言われているが、肝心の成果につながらず、「現場を知らない行政が机上で講座を決めているだけだ」との批判が強まっている。労働市場が硬直したままでは、いくら公費をつぎ込んでもミスマッチは解消せず、制度そのものが利権化しているとの指摘すら出ている。
参照:国主導のリスキリング、3割就職できず 人余り職種に偏る年1200億円 日経新聞
- 公的職業訓練の修了者の就職率はここ数年7割前後で推移し、国が最低基準とする「35%」を下回る講座も1割以上存在する。年間1200億円超の公費を投じても成果は乏しいと指摘されている。
- 人気分野のIT・デザイン講座は基礎的内容に偏り、企業が求めるAI・データ分析などの実務スキルと大きく乖離している。受講者1人あたり29万円が投入されても現場では評価されないという。
- 厚労省、都道府県、認定機関が縦割りで関与し、講座認定は形式基準に依存。申請の大半が機械的に認定される一方、「就職につながるか」という出口の視点は行政側に欠落している。
- 「民間企業で働いたことすらない官僚がメニューを作っていること自体が間違い」との批判が出ている。
- 労働市場の硬直性、特に「解雇できない正社員制度」こそミスマッチの根源だと指摘される。
- 雇用保険財源の余剰が、失業と無関係なリスキリングや雇用調整助成金に流用される構造も問題視される。
- 改善策として、上記の記事ではデンマーク方式のように労組・経営者団体が訓練を設計し、座学と企業での実習を一体化させるモデルが紹介されるが、それに対して日本では利権化した仕組みの抵抗が大きいとの声がある。
- 働く人の「稼ぐ力」を高めるには、まず金銭解雇の導入で労働市場を流動化させるべきだという意見が強い。リスキリングは国の補助金でぬるま湯化してやらせても意味がないとの厳しい声もあがっている。
労働力人口が急減する日本にとって、本来リスキリングは重要な政策のはずだ。しかし現状は現場ニーズと乖離し、利権化した制度疲労の象徴になっている。必要なのは講座づくりではなく、硬直した労働市場そのものを変える改革だ。金銭解雇制度を含む抜本的な雇用システムの見直しなくして、リスキリングの効果も賃上げも実現しない。政府が「予算を使って仕事をした気になる」段階はもう終わらせるべきだ。