アメリカ連邦準備制度理事会の連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを発表したパウエル議長。記者会見は東部時間午後2時半で遅れることはまずありません。パウエル氏が初めに声明文を読み上げ、その後、記者会見が行われます。記者が座る前の方の席はほぼ指定席状態で「資質ある」記者達の質問が先に展開されます。ある意味セレモニー的であり、波乱は少ない、それが今まで展開されてきた流れです。
FRBパウエル議長 Federal Reserve Xより
ちなみに主要金融報道関係者の中でも最も優秀な記者が集まる中、ウォールストリートジャーナルのニックさん(Nick Timiraos)はほかの記者に比べレベルが一つ上で、いつも彼の質問はいぶし銀のような鋭さがあります。日本の記者のレベルも揚げ足を取るような質問ではなく、良い質問だね、と言われるようになってもらいたいものです。半年ぐらい前にこの記者会見の際に日経の記者(日本人)が質問した時はパウエル氏が質問の意図を理解できず、答えに窮したこともあります。
昨日の記者会見は前段となるこの声明文がいつもよりかなり長かった(=言い訳がましい)、これがまず第一印象。そしてパウエル氏の表情が実に冴えなかったのです。まるで病気ではないかと言うほどでかなりストレスを溜めた状態だというのは一目でわかりました。それはその30分前に流れた速報がそれを意味していたのでしょう。「0.25%利下げ」これはともかく「判断割れる」この見出しが大きく取り上げられたのです。
結論から言うと利下げは行いました。ですが、心底利下げを支持した人は思ったより少ない可能性があるのです。12人の投票者のうち、2人は明白に金利据え置きを、1人は大幅利下げを主張、また残り9人からも様々な意見が出たとされます。また投票権を持たない7人を含めた19名が参加する金利の先行きを示すドットプロットから非投票権者7名のうち4名が金利据え置きを提示しているように見えるのです。一方、大幅利下げを主張しているのはマイラン理事で彼はトランプ大統領の代弁者と言ってもよいでしょう。
パウエル議長がいみじくも述べたのが「失業率は悪化傾向、インフレ率も悪化傾向、だけど使える手段は一つだけ、ならばどうするのか?」というキャッチ22(身動きが取れない)のようなコメントです。失業率を良化させるには利下げによる効果が大きく、インフレ率を静めるには利上げが効果的なのです。
多くの政策決定者が金利の維持を主張したのは政府機関の閉鎖の影響で最新の統計データが取れなかったことも影響しています。パウエル氏もごくわずかなデータで判断せざるを得なかったと答えており、そのあたりの判断に至る苦渋も垣間見られました。今までのパウエル氏ならばデータが少なければ政策変更の判断は見送るケースが多かったのにもかかわらず、それでも利下げを敢行したのはトランプ氏への忖度というより市場の強い期待感というか規定路線にすらなりつつあった利下げをせず、据え置いた場合の市場へのインパクトを考えた可能性は絶対にないとは言えない気がします。それは年末を控え、企業決算、個人の所得税の締めが近づく中、年末の株価崩落は企業、個人ともにあまりにも影響が大きすぎることがあるのです。
パウエル氏が来年5月に退任します。パウエル氏も人の子、できれば自分が議長の時はきれいに仕事を収めたいと考えるでしょう。とすればあまり市場や権力にあらがわず、最も中立的かつ適正な判断を行い、リタイア後に歴代議長の比較話が出た時、悪評が立たないようにしたいという気持ちは当然あると思います。
では2026年の混とんの予感です。次の議長はまだ確定していませんが、最有力候補はハセット国家経済会議の委員長とされます。そのハセット氏、FOMCの直前にFOXニュースで0.50%の利下げはありうると述べており、トランプ氏の意向が強く出ていると言えます。
ただ、ハセット氏にしろ、他の有力候補者の誰が議長になってもその資質は十分とされ、また一旦議長になればそのかじ取りは外野から放言するのは全く違うレベルになり、取りまとめが極めて難しくなるだろう、とされます。
カナダが昨日金利を据え置きましたが、目先のベクトルとしてはフラットからインフレ対策でやや上向きとされます。EUも同様でありますが、それぞれの政策金利が2.25,2.15%というレベルに対してアメリカの3.75%は1.50%ベーシスほど高めにあります。私は最近、これをアメリカ プレミアムだと考えるようにしています。日本は逆に1.50%ほどマイナス プレミアムで日米のプレミアムギャップは3.0%ほどあるとみています。この金利プレミアムこそ経済を発展させる力、つまり国が持つ総合力なのだと考えています。
トランプ氏が関税を駆使することでドル安を容認するならば金利を下げる余地が出てきます。一方、アメリカ経済を真の意味で筋肉質にするには関税を取っ払ったほうがプレミアムは更に上昇する余地が出てくるでしょう。
2026年のアメリカ金融政策が混とんとする可能性の理由はここにみています。つまりどのようなアメリカを作りたいのか、です。真の意味で強いアメリカなのか、小手先のテクニックで見栄えだけを良くしたいのか、この議論であり、金融当局者が分裂するのはアメリカの未来像に対する理想と現実の激論であると私は見ています。
これらの状況からは少なくとも26年春までは金利は据え置き、その先は現時点では予見しにくいと私は見ています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月12日の記事より転載させていただきました。