EU、域内のロシア資産を無期限凍結

今年下半期の欧州連合(EU)理事会議長国デンマークは12日夜(現地時間)、ウクライナへのロシア国有資産の利用に関する問題で、27加盟国中25カ国がEUに保管されている資金のロシアへの返還を無期限に禁止することに合意した、と発表した。ロシアの凍結資産を担保としてウクライナ向け融資の実現に向けての措置だ。ハンガリーとスロバキア両国は反対票を投じた。

ゼレンスキー大統領「ウクライナが外交で成果を上げるためには、最前線で成果を上げることが極めて重要だ」、ウクライナ大統領府公式サイト、2025年12月12日

今回の決定は、ハンガリーとスロバキアの意向に反して全会一致ではなく、特定多数決で行われた。ハンガリーやスロバキアがEUの制裁決定に拒否権を行使し、凍結資金の無期限凍結を阻止するのを防ぐためだ。両国は、EUの行動が、ロシアによるウクライナ侵略戦争終結に向けたトランプ米大統領の努力を危うくする可能性があると主張している。これまではロシア中央銀行の資金はEUの制裁決定に基づいて凍結されており、6ヶ月ごとに全会一致での更新が必要だった。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、EUは約2,100億ユーロ相当(約38兆円)のロシア資産を凍結した。加盟国は数ヶ月にわたり、これらの資金をウクライナへの融資に充てるかどうかを議論してきた。凍結資金の約1,850億ユーロはベルギーの金融サービス会社ユーロクリアが保有し、残りの250億ユーロは他のEU加盟国に分配されている。

EUはこれらの資金をウクライナ支援に充てる意向だが、ベルギーは法的リスクとモスクワからの報復の可能性を懸念し、躊躇している。同時に、ウクライナは今後2年間、軍事費不足と、米国からの援助の減少に直面、追加追加的な支援がなければ、ウクライナは早ければ3月か4月にも資金が枯渇する可能性があると予想され、ウクライナを支援する欧州は早急な対策が求められてきた。

なお、ブリュッセルからの情報によると、ロシアへの資金を無期限に凍結するため、EUは欧州連合機能条約第122条を発動させた。この条項は、EU内で深刻な経済困難が生じた場合、特定多数決により適切な措置を採ることができると規定している。今回同条約第122条を発動させた根拠として、ロシアによるウクライナ戦争が依然として深刻な経済的課題をもたらしていることが挙げられている。ウクライナ戦争は、とりわけ石油、ガス、食料価格の高騰を招き、エネルギー価格高騰による社会的・経済的影響を緩和するために加盟国が講じた措置は、2022年から2024年の間に数千億ユーロに上ったという。

ベルギーは12日、ロシア資産の永久凍結に賛成票を投じたが、その実際の使途については依然として懐疑的という。ドイツらは18日のEU首脳会談までにベルギーに対してロシアの資金の活用に同意するよう説得したい意向という。ベルギーの最大の懸念は、制裁解除後にロシアがユーロクリアが保有するロシア資産の回収を試みた場合、最終的にベルギーがそれらの資産の代金を支払わなければならなくなることだ。

一方、モスクワ中央銀行はユーロクリアを提訴する意向を表明した。提訴理由として、同銀行の違法行為と損失発生、そしてロシア資産を搾取するための提案されたメカニズムを挙げた。手続きはモスクワの仲裁裁判所で行われる予定だ。また、反対票を投じたハンガリーは、EUの決定に対し、欧州司法裁判所に異議を申し立てる権利を留保すると発表した。

EUは当初、ユーロクリアから約900億ユーロを無利子融資として借り入れ、その後、この資金をウクライナに融資として渡す計画だった。この場合、ウクライナは、ロシアから賠償金を受け取った場合にのみ、融資を返済することになる。

注・・・ドイツ通信(DPA)とオーストリア国営放送(ORF)ヴェブサイトからの情報を参考にした。

EU内での交渉は継続しており、EU首脳会議で合意に至らなければ、ウクライナは緊急に必要な資金を欠くことになり、キーウを全面支援してきた欧州は対応に一層苦慮することになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。