サイゼリヤは「劣化」より「値上げ」を

日本にあるファミリーレストランの中でサイゼリヤは私が最も好きなチェーン店の1つです。

もちろんクオリティは客単価が数万円の高級イタリアンと比較するレベルではありませんが、ワインを飲んでも1人3000円程度の会計の価格を考えれば、極めて高いコストパフォーマンスの「イタリアン料理店」と言えます。

グラスワインが税込み100円。ミラノ風ドリアが300円台、ほうれん草のソテーは200円(写真)。1000円のボトルワインでも充分おいしく、会計をするといつも驚かされます。

しかし、最近のサイゼリヤのお料理は以前よりもクオリティーが落ちてきたように思います。

サラダの盛り付けが貧弱になり、イカ墨パスタはセピア風パスタと名前を変えてイカ墨パスタとは別ものになってしまいました。

セピア風パスタは商品性を変更しただけという見方もありますが、以前の真っ黒なパスタを食べたいと思うのは私だけではないと思います。

価格を維持するという経営方針であれば、食料品や人件費が上昇を続けている経済環境下で同じ価格で品質を維持する事は難しいのかもしれません。

であれば、コストが上昇したにも関わらず価格を維持して品質を「劣化」させるのではなく、コスト上昇分を価格に転嫁する商品があっても良いのではないかと思います。

サイゼリヤはそもそも強い競争力がある低価格に設定されています。もし一部の商品を値上げしたとしても、引き続き低価格というイメージは維持できて価格競争力は十分にあるのではないでしょうか。

それなりものを安く提供するよりも、きちんとしたものを格安に提供する。そんな「価値>価格」が利用者に理解されれば、価格が上がっても満足度が下がることがありません。

品質やボリュームの劣化が続けば、来店者は単に安さを求めるだけの客層だけになってしまいます。そうなれば客単価も上がりませんし、店内の雰囲気も乱れていくことになるでしょう。

すべての商品の価格を上げることが難しければ、一部の商品に限定して高めの価格帯にしていくことが考えられます。評判が良ければそのようなカテゴリーの商品を増やせば良いのです。

インフレが進む中で無理に価格を維持する事は、むしろサイゼリヤの魅力を弱めることになりかねないかと危惧しています。

コストの価格転嫁が難しい業界だと思いますが、安かろう悪かろうではなく良いものを安くという視点を失わないでほしいと思います。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。