固定資産維持費の多い日本政府:固定資本減耗の国際比較

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1. 政府の固定資本減耗

前回は政府の稼ぐ付加価値について国際比較してみました。

稼いだ総額である付加価値(総)から、固定資産の維持費用とも言える固定資本減耗を差し引いた付加価値(純)が正味での稼ぎとされます。

付加価値(純) = 付加価値(総) – 固定資本減耗

今回は、日本の政府の固定資本減耗に着目してみましょう。

政府の固定資産は例えば国公立の学校、病院、官庁舎、研究施設などの建物、道路・橋梁などのインフラなどが含まれます。

これら固定資産への投資が多いと、それだけ固定資産残高が蓄積し、その価値の目減り分となる固定資本減耗も多くなります。

図1 付加価値・固定資本減耗 一般政府 日本
OECD Data Explorerより

図1は日本の政府の付加価値(総)付加価値(純)固定資本減耗の推移です。

前回ご紹介した通り、日本政府の稼ぐ付加価値(総)は停滞傾向ですが、固定資本減耗は拡大傾向のため、差引の付加価値(純)は一時期よりも目減りしています。

付加価値(総)に占める固定資本減耗の割合は拡大傾向を続けていて、日本経済のピークとなった1997年では32.5%でしたが、2023年には41.6%に達しています。

一般政府の固定資本減耗は、役所や公立学校、公共施設と言った建物や、道路・橋梁などが該当すると考えられます。

経済活動別に見れば、役所などの建物は公務、公立学校は教育、道路・橋梁などは運輸・倉庫業に区分されると推測されます。

2. 1人あたりの推移

日本の政府の固定資本減耗は国際的に見て多いのか、国際比較していきましょう。

まずは人口1人あたりのドル換算値からです。

図2 固定資本減耗 1人あたり 一般政府
OECD Data Explorerより

図2が政府の固定資本減耗について、人口1人あたりのドル換算値です。

金額的な水準として多いかどうかを計算した結果となります。

日本(青)は1990年代にかなり高い水準となっていて、その後もやや増加傾向で、相対的に高い水準が続いたことが確認できます。

2022年以降は円安の影響もあり、ドイツやOECD平均値を下回りますが、それでもイギリス、イタリア、韓国を上回っています。

多くの指標で日本は近年G7最下位となっていますが、政府の固定資本減耗は比較的高い水準が継続している事になります。

3. 1人あたりの国際比較

政府の固定資本減耗の水準について、もう少し幅広く国際比較してみましょう。

図3 固定資本減耗 1人あたり 一般政府 2023年
OECD Data Explorerより

図3がOECD34か国による国際比較です。

日本は1,227ドルで、34か国中17位で中間的な立ち位置となります。

多くの指標で20位台後半ですので、相対的に政府の固定資本減耗が多い事になります。

4. 対GDP比の推移

続いて、もう一つの評価方法である対GDP比についても確認してみましょう。

GDPに対する政府の固定資本減耗の占める構成比を計算したものになります。

図4 固定資本減耗 対GDP比 一般政府
OECD  Data Explorerより

図4が政府の固定資本減耗について、対GDP比を計算した結果です。

日本(青)は主要先進国の中では、フランスに次いで高い水準となっています。

やや拡大傾向なのも特徴的ですね。

カナダも高めの水準ですが、近年では韓国が追い付きつつあります。

5. 対GDP比の国際比較

最後は対GDP比の国際比較です。

図5 固定資本減耗 対GDP比 一般政府 2023年
OECD Data Explorerより

図5はOECD34か国における、政府の固定資本減耗 対GDP比の国際比較です。

日本は3.6%で、OECD34か国中6位、G7で位とかなり高い水準となっています。

いわゆる公共投資が相対的に多かった事もあり、蓄積した政府の固定資産が多く、その償却費用も多いという解釈ができそうです。

フランスの水準もかなり高いのが特徴的ですね。

フランスは政府や公共的な産業の多い国という特徴があるようです。

6. 政府の固定資本減耗の特徴

今回は政府の固定資本減耗について、国際比較をしてみました。

日本の政府は稼ぎ出す付加価値はそれほど多くありませんが、固定資産の維持費用と言える固定資本減耗は比較的多い事になります。

資本の維持費が嵩んでおり、それだけ正味の付加価値となる付加価値(純)が目減りしていそうです。

政府の付加価値(純)については、次回ご紹介する予定です。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。