15歳でフェレロ・テニス・アカデミーに入部した
アルカラス選手は9歳の時にテニスを始めた。彼の父親は短い期間であったがテニス選手として活動していた。彼が15歳の時にファン・カルロス・フェレロ氏が設立したフェレロ・テニス・アカデミーに入部した。
フェレロ氏は世界ランキング1位になった経験を持っている選手で、引退後に自分の郷里であるアリカンテ県ビリェナ市でテニス・アカデミーを創設した。
フェレロ氏の指導のもとにアルカラ選手は頭角を表すようになった。ラファ・ナダル選手の長年コーチを務めた叔父(父親の弟)のトニー・ナダル氏によると、アルカラス選手は現在まで280勝を記録し、24個のタイトルを獲得、賞金額は4900万ユーロと指摘した。更に、同氏は345試合に参加し280勝を挙げての勝率は81.8%であることを述べて、素晴らしい選手であると称賛した。と同時に、これだけの偉業を成し遂げた選手とコーチのコンビが別かれることに驚きを見せた。(12月18日漬け「マルカ」から引用)。
選手が望んでいることをコーチが言ってくれることを期待している
そこにはトニー・ナダル氏が常に指摘しているように、「選手は望んでいることをコーチが言ってくれることを期待している」ということだ。
ひとりの選手がまだ無名であった時代はコーチが厳しく指導しても、選手はそれに服従する。しかし、一旦名選手として評価されるようになると、コーチの言っていることに不満も生まれる。それが積もり積もって来ると、コーチの指導に満足しなくなる。
それをフェレロ氏は認識していたようで、もうひとりチームにコーチを加えて新鮮な雰囲気をつくろうとした。それがサム・ロペス氏である。今回アルカラス選手が専属コーチとして契約した人物だ。
いつもフェレロ氏の厳しい指導にロペス氏は柔和な雰囲気を与えた。勿論、ロペス氏はフェレロ氏の指導を背後から十分に学んでいた。その厳しさにロペス氏は柔和さを加えたということだ。それはアルカラス選手にとって緊張を解してくれるように感じたのであろう。
トニー・ナダル氏のラファー選手への指導方法
トニー・ナダル氏はラファ・ナダル選手を幼少の頃から非常に厳しく指導した。練習予定が1時間でも、それを1時間半や2時間に延ばしたり、ラファ選手が水を飲みたくてもトニーは飲ませなかった。二人が甥っ子と叔父という関係からラファ選手は叔父の言うことに不満があっても、それに従った。叔父が望んでいたのは、試合は不利であっても最後まで諦めるなということを精神面から指導したのであった。ラファー選手の精神面の強靭さは彼の叔父からの指導が影響している。
新しいコーチはアルカラス選手の3番目のコーチであった
しかし、アルカラス選手はトニーとラファの叔父と甥っ子の血のつながりの関係とは異なる。一旦、ランキングの頂上に上り詰めると我儘になる。コーチの厳しい指導に不満も生まれ、それに耐えて行くことに苦痛を感じるようになる。だから来期のプラニングについてもアルカラス選手はこれまで以上に自分の要求を主張するようになったのであろう。
だからこれまでのフェレロ氏の指導を踏襲しながらも、もっと柔和な「選手がの望んでいることも受け入れてくれる」コーチの指導を望むようになった。しかも、それが同じチームの3番目のコーチとして存在していたというのであるからアルカラス選手にとっては都合が良い。なお2番目のコーチはフェレロ氏の恩師アントニオ・マルティネス・カスカレス氏で、彼は選手の指導には実際にはタッチしていない。アカデミーの管理とアドバイサー的な存在だ。
このような背景からアルカラス選手がフェレロ氏と別れることを決めたのであろう。フェレロ氏はアルカラス選手を今後も指導していくことを望んでいたようだ。アルカラス選手を来期から指導しないということは足元をすくわれたという印象であろう。また彼の部下であったロペスコーチがアルカラス選手の専属コーチになったというのはフェレロ氏にとっては裏切り行為とも受け受けられる。だからフェレロ氏は強いショックを受けているということだ。ロペス氏がこれまで指導した選手には一流選手はいない。だからアルカラス選手の専属コーチになるというのは大きな飛躍となる。
フェレロ氏は自ら世界1位になった経験もあるから、それを維持する厳しさを知っている。だから、アルカラス選手を常に厳しく指導していたようだ。
そこで再度トニー・ナダル氏の言葉を思い出して戴きたい。「選手は望んでいることをコーチが言ってくれることを期待している」という指摘を。恐らく、フェレロ氏はアルカラス選手が望んでいることにも反対していたのであろう。一度、アルカラス選手が長い休暇を取った時に、それに反対するフェレロ氏の記事が紙面に掲載されていたことがあったのを筆者は記憶している。
指導が甘いと選手の寿命も縮まる
ラファ・ナダル選手が引退することを決意したのも、トニー・ナダル氏が引退して、新しく友人で元テニス選手カルロス・モヤー氏を専属コーチに選んだことが影響していると筆者は推測している。
モヤーコーチはラファ選手と同年代だ。二人は友人のような関係だ。だから筆者には叔父がコーチだった時の厳しさが欠けているように感じていた。それがラファ選手の引退を早めたのではないかと筆者は勝手に想像している。
アルカラス選手とサム・ロペス氏の新しいコンビの最初のデビューはオーストラリアオープンから始まる。
フェレロ氏にヤニック・シナー選手が指導を望んでいる
フェレロ氏は今回のショックから立ち直るには2・3か月が必要だと表明している。しかし、ヤニック・シナー選手が彼の指導を望んでいるようだ。それに対してフェレロ氏はもう少し落ち着きを取り戻した時点で考えたいと表明している。フェレロ氏には内心アルカラス選手が彼の指導をまた望むようになるのではないかと内心期待しているようでもある。何しろ、アルカラス選手がまだ少年の頃から彼を指導して世界ランキング1位にまで育てたという子弟関係はフェレロ氏の方では容易に崩れるものではないからだ。
バルトリ選手が抱くアルカラスへの不安
アルカラス選手がフェレロコーチと別れた件について、2013年ウインブルドンで優勝したマリオン・バルトリ選手が、この出来事に非常に不安を抱いている。ビョルン・ボルグのように25歳でテニス界から去るのではないかと危惧している。
サム・ロペス氏が新しいコーチになるが、彼女が指摘しているのは「最初の6カ月は新しいコーチとのコーチングに慣れる過程でミスの繰り返しになる」という点である。そして彼女は「次のオーストラリアオープンとパリ・オープンでシナーと対戦するようになり、勝てないと、またフェレロとコンタクトするようになる」と言っている。
彼女も私と同様に、サム・ロペスコーチの指導能力に疑問を持っているということだ。サム・ロペス氏はこれまで超一流選手のコーチングをした経験がなく、また選手時代も秀でた選手ではなかった。唯一、彼はフェレロコーチの助手として、時に大きな試合でフェレロコーチの代行を務めたというだけである。彼の性格が柔和であるということが、アルカラス選手にとって惹きつけられるものがあったのだろう。
フェレロの厳しさとアルカラスの未熟さ
フェレロコーチは自分が世界ランキング1位になった経験もあり、頂上にのぼるまでの厳しさを知っている。だからこそ、それを長く維持していくためにアルカラス選手を厳しく指導した。アルカラス選手はその厳しさに嫌気がさしたのだろう。アルカラス選手はまだ若く、人間としての幅もラファ・ナダル選手に比べて狭い。要するに、人間として軽いということだ。
一方のサム・ロペス氏にとっては棚から牡丹餅が落ちたようなもので、彼は名声を求めた。フェレロコーチの依頼でチームに加わったにもかかわらず、フェレロ氏の足元をすくうかのようにアルカラス選手の専属コーチになるというのは、道義的に許されるべきことではない。






