baona/iStock
日本のGDPは、2010年に中国に抜かれ、今では中国の1/4と大きく引き離されています。この間に東アジアのパワーバランスが大きく変化し、地政学リスクが高まっています。そして、地政学リスクは、海外投資/資産管理/移住を考える富裕層にとっても無縁ではありません。
そこで、①チャイナリスクと資産管理、②日本有事と海外移住、この二つの視点から、地政学リスクについて書いていきます。
香港に資産を置くストラクチャーはどういう形?
私が著書「富裕層3.0日本脱出」で述べている、海外移住/活用の必勝パターンは、「ビザを取得しやすく日本人が暮らしやすいタイ/マレーシアに住み、資産管理を香港で行う」というストラクチャーです。
具体的には以下の2パターンです。
- タイ/マレーシアの長期ビザを持ち、タイ/マレーシアに居住する。香港の銀行に個人口座を開設し、その銀行口座で資産管理をする。
- タイ/マレーシアの長期ビザを持ち、タイ/マレーシアに居住する。自分が株主・取締役として香港法人を設立し、その香港法人名義の口座を香港の銀行に開設する。香港法人名義の口座・個人の口座で、資産管理をする。
これに対して、「チャイナリスクが高まっていることを考えると香港での資産管理は危険。シンガポールの方が良い。」とコメントを頂戴することがあります。
香港は、中国本土によって、自由がどれくらい制限されているのか?
2020年6月30日午後11時から香港国家安全法が適用され、香港の自由が規制されています。
具体的には、①親中派以外の候補が選挙に立候補することは事実上不可能になり、②中国政府/香港政府を批判する言論は事実上不可能になりました。
しかし、ほとんどの経済活動、とくに資産を置くことについては、制限されていません。
香港国家安全法制定を祝う船がビクトリアハーバーを進んでいる光景(2020年7月1日)
筆者撮影
香港の財産が没収される危険はあるか?
とはいえ、「中国本土の支配が強まると、香港にある財産を没収されてしまうのでは?」とのコメントを頂戴することもあります。
今後、中国政府による香港支配が強まり、強権政治の程度が著しく高まったならば、香港にある財産を没収するなどの事態が起こるかも知れません。そして、政府が財産を没収しようとするとき、一番没収しやすいのは不動産でしょう。
しかし、私の提案したストラクチャーは香港の銀行口座に資金を置くだけであり、不動産を所有することまでは勧めていません。
さらに、「香港の銀行口座も封鎖されてしまうのでは?」とのコメントを頂戴することもあります。
しかし、銀行口座の封鎖は、共産主義だから行われるというより、経済が破たんすると行われる施策です。日本でも、第二次世界大戦後の1946年に実施されました。
今後、銀行口座の封鎖は、香港で行われる確率よりも、日本で行われる確率の方が高いかも知れない、というくらいの話です。
また、香港の銀行口座封鎖も恐れるのであれば、香港の証券会社などを経由して香港外の株式などを購入しておく方法を取ってもよいでしょう。
こうすれば香港に具体的な財産が無いのですから、万一、中国政府=香港政府が没収しようとしても、没収することは一層困難です。
シンガポールと比較すると?
では、シンガポールと比較するとどうでしょうか?
そもそも、シンガポールには政府批判の言論をする自由はありませんから、言論の自由という点では、違いはありません。
それでも、シンガポールは中国の支配下にないから安全度が高い、だから、香港よりシンガポールに資産を置きたいとおっしゃる方もいらっしゃいます。
でも、シンガポールで就労ビザを持って住んでいない限り、個人の銀行口座開設は極めて困難です。また、シンガポール法人の設立は容易ですが、シンガポール法人名義の銀行口座を開設することは極めて困難です。
シンガポールの日の出
筆者撮影
ですから、口座開設の難易度・金融機関の使い勝手・地政学リスクなどを総合的に勘案した結果、資産を置く場所としては、香港がベストではないかというのが私の現時点での結論です。
あり得る「日本有事」のシナリオは?
これまで、「チャイナリスクは主に香港や台湾が影響を受けている」と言っている余裕がありましたが、「台湾有事は日本有事になり得る」という趣旨の高市首相の発言があって以降、日中関係が揉めています。
日本有事になるとしたら、こういうシナリオが想定できます。
- 中国軍が台湾の近海で軍事演習を行う。
- この中国軍に対して沖縄から飛び立った米軍が攻撃する。
- 中国軍が沖縄の米軍基地に反撃する。
- 米国は日本への兵器などの支援にとどまり、もっぱら日本が中国との間で全面戦争を行う。
もし、こうした日本有事になったら、民間人の被害も不可避です。全面戦争になる前に日本を脱出したいという人は多いでしょう。
そのため、今すぐに海外移住する予定はなくても、海外の長期ビザを取得し、海外に資産を逃がしておくという準備をする方は多くいらっしゃいます。
日本有事になったら徴兵制は不可避?
日本は軍事費こそ世界第10位ですが、人員は多くありません。中国の兵員が200万人以上であるところ、日本の自衛隊員は約23万人と、10分の1です。
たしかに、現代の戦争はハイテク戦争だから人員は関係ない、日中間の戦争は陸続きではないから人員は関係ない、とも言われます。
しかし、ウクライナ戦争でも分かったように、大量の人員とローテク兵器が西側諸国製のハイテク兵器を圧倒することも可能です。また、沖縄から九州にかけての長い海岸線を考えると、実際に防衛にあたる人員の不足が顕著です。
そのため、日本と中国の対立が激しくなったならば、この人員不足を補うため、徴兵制が不可避になるかも知れません。
日本の憲法上、徴兵制を実施できるのか?
日本国憲法の第18条は「苦役からの自由」を定めており、徴兵制は認められていない、と考えられてきました。
しかし、与党である自由民主党と日本維新の会は、2025年11月13日、緊急事態条項創設を中心とする憲法改正についての議論に着手しました。
この緊急事態条項は、「内閣総理大臣が緊急事態を宣言した場合、国会の定める法律によることなく、人権制限を認められる」とするものです。
【参考】2013年衆議院憲法審査会事務局 「緊急事態」に関する資料
この緊急事態条項は、大規模地震やテロ対策であると主張されています。
しかし、東日本大震災や新型コロナでも緊急事態条項無しに対応できたことを考えれば、本音では、戦争(日本有事)をにらんだ準備とも言えそうです。
そして、緊急事態条項を入れた憲法改正が行われた後、日本有事になったら、徴兵制が実施される可能性もありそうです。
日本有事・徴兵制から脱出するための準備をする富裕層
前述のとおり、今すぐに海外移住する予定はなくても、海外の長期ビザを取得し海外の銀行に資産を逃がしておくという準備をしている方もいらっしゃいます。
彼らは、日本有事に巻き込まれるのを危惧しているだけでなく、自分や子どもが徴兵されることも危惧しています。海外に脱出することで徴兵される危険を避けよう、という考えです。
地政学リスクと海外資産管理/移住、極論と頭ごなしに排除するのでなく、対策を立てておくのが重要そうです。
■
フリーランス・スモールビジネスオーナーが海外移住して、税負担を軽くし資産形成、お子様をバイリンガルに育てるための裏技を詰め込んだ、最新ノウハウ本です。
「富裕層3.0 日本脱出」(小峰孝史 著)