イランはなぜ経済危機に陥ったか

イランは原油と天然ガスの埋蔵量では世界有数の資源大国だ。9000万人の国民の教育水準は高い。当方は数人のイラン人ジャーナリストを知っているが、彼らは優秀で勤勉だ。彼らは自分たちがペルシャ人であり、アラブ人ではないことを密かに誇っている。そのイランの国民経済は現在、破綻状況にあり、通貨イラン・リアルは急落し、インフレ率は40%台で、若者の失業率は高い。

統治能力が問われる86歳のハメネイ師 写真はIRNA通信 2026年1月3日

イランで先月28日、為替レートの急落がきっかけで首都テヘランで、商人たちが政府の為替政策に抗議して自発的に街頭に繰り出した。通貨リアルは今月、史上最低水準に達した。長年にわたる紙幣増刷によって通貨リアルの価値は劇的に下落している。

その抗議デモは大学にも波及し、テヘラン市内の7つの大学でデモが行われた。そして抗議デモはすぐに政治指導部への反発へと転じ、体制批判に焦点が移ってきた。抗議デモはテヘランだけではなく、全土に拡大。聖職者支配体制のムッラー政権は治安部隊を動員してデモ参加者を強権で取り押さえている。ファルス通信は1日、デモ隊と治安部隊の衝突で西部ロレスタン州などで5人が死亡したと報じている。

穏健派のペゼシュキアン大統領は融和的な姿勢を示している。生活費の高騰という危機について抗議活動の指導者たちと対話することを約束し、経済の自由化についても言及した。同大統領はまた、当局の政治・金融政策の不備を認め、「責任は我々にある」と述べ、国民との対話を模索している。医者出身の大統領の融和路線が抗議デモを鎮静できるかどうか、現時点では不明だ。

1979年、亡命先のパリから帰国したホメイニー師によるイスラム革命後、聖職者支配の専制体制がイランで構築され、今日まで続いてきた。国内の反体制派指導者や組織は国外に亡命していった。国内には反体制派と呼べる指導者、グループは存在しない。

イランの企業は80%が国有企業だ。経済の大部分は、政府、宗教団体、軍事コングロマリット(複合企業)によって支配されており、純粋な民間企業はほとんど存在しない。そして最高指導者ハメネイ師は数十億ドル規模のコングロマリットを率いる中心的人物でもある。ハメネイ師の経済帝国は石油産業から電気通信、金融、医療に至るまで、経済の多くの分野をその管理下に置いている。また、イラン革命防衛隊も石油とガス産業、建設と銀行だけでなく、農業と重工業にも組み込んでいるコングロマリットを所有している。要するに、ハメネイ師を筆頭としたイランの聖職者体制は同時に、同国の経済を完全に掌握しているわけだ(「イランはクレプトクラシー(盗賊政治)」2022年10月23日参考)。

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資源大国イランのムッラー政権は、反イスラエル政策を掲げて地域の武装勢力を支援することでその資源を枯渇させていった。イランはこれまで、パレスチナ自治区のイスラム過激派テロ組織「ハマス」、レバノンの民間武装組織ヒズボラ、イエメンの反体制派武装組織フーシ派に軍事支援してきた。同時に、シリアのアサド政権に対してもロシアと共に軍事支援してきた。しかし、イスラエル側の攻撃を受け、それらの武装勢力は悉く弱体化。イランは核兵器開発のために巨額の資金投入を繰り返してきたが、昨年6月にはイスラエルと米軍の軍事攻撃(12日間戦争)で主要な核関連施設は破壊された。そしてイランの核開発に関連する国連の経済制裁が復活した。

それだけではない。昨年は20の州が数十年ぶりの最悪の干ばつに見舞われた。水危機は深刻化し、イランの首都テヘランに水を供給する5つの主要貯水池の1つであるアミール・カビール・ダムの水位が歴史的な最低水準まで下がり、イラン北西部の同国最大の湖ウルミエ湖は干ばつにより大部分が干上がり広大な塩の砂漠と化し、周辺地域の農業にも深刻な影響を与えた。ペゼシュキアン大統領は、年末までに雨が降らなければ首都テヘランから避難を命じると宣言したほどだ(「イラン、干ばつで深刻な水不足」2025年11月18日参考)。

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イランでは誰もが変化を望んでいる。強硬派は過去への回帰を望み、改革派は未来に向けた変化を期待し、多くの穏健派は何らかの変化を望んでいる。現状に満足している人は誰もいない。

ところで、イランの最高指導者ハメネイ師は3日、国営テレビで、「イラン当局は外貨レートの高騰への解決策を模索している」と強調する一方、「暴動はイランの国内外の敵による陰謀であり、一貫して阻止しなければならない」と述べている。

86歳の高齢で病気持ちのハメネイ師には後継者問題が常に囁かれてきた。ハメネイ師の後継者と見られたライシ大統領は2024年5月19日、搭乗していたヘリコプターの墜落事故で死去した。後継者候補者が集まっていた同国安全保障に関する最高意思決定機関「国家安全保障会議」のメンバーの半数はイスラエル軍の攻撃で殺害された。有力後継者というべき人物がいなくなったのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。