黒坂岳央です。
東京で年収1000万円を稼ぐ生活と、福岡で年収500万円で暮らす生活はどちらがコスパがいいだろうか?
「そんなの比較するまでもない。文化的価値、エンタメ、グルメ、キャリア、アカデミック、出会いなど、総合評価で東京に勝る場所は日本にはない」
多くの、特に東京在住者からはこのような反応が返ってくるだろう。自分自身、東京に住んで長く働いていたし、今でも毎月のように仕事や観光で東京を行き来している。東京は昔も今も大好きな街であり、目的なく山手線内側をウロウロ歩くだけでもとても楽しい場所である。
だが、あくまで「コスパ」という観点だけを見れば、高収入で東京に住むより、半分の年収で福岡に住む方が合理的だと思っている。
本稿は「どちらが優れているか?」という白黒思考の浅い煽りのつもりはなく、あくまで多面的な見方の1つを提供する目的で書かれた。
加えて本稿は“同一人物が住む場所を変えた場合”の比較であり、属性の違う集団比較ではないことを付記しておく。

年収と手取りはこんなに違う
まず直面するのは、日本の累進課税制度による所得の圧縮である。
東京で年収1000万円を稼ぐと社会保険料や所得税が跳ね上がり、手取りは約720万〜750万円となる。また、児童手当の所得制限や高校無償化の対象外となるなど、公的な補助が削られてしまう。その一方で福岡で年収500万円を稼ぐと、手取りは約400万円前後だ。
「年収」という額面では実に500万円の差があるが、手取りベースでは約320万〜350万円の差に縮まる。
東京は生活費が高すぎる
東京で年収1000万円の層が求める生活水準(都心へのアクセス、治安、住宅の質)を維持しようとすると、家賃コストが最大の重石となる。
東京都心に1LDK/2LDKで住むと、月額家賃相場200,000円〜300,000円となる。一方で福岡中心部の1LDK/2LDKに住むと70,000円〜100,000円である。
東京で相応の暮らしをすると、手取りの30%〜50%が住居費に消える。対して福岡では、天神や博多まで自転車圏内の好立地でも、手取りの25%以下で良質な住環境が手に入る。
住居費の差だけで、年間約150万〜240万円の開きが出る計算になる。総務省の消費者物価地域差指数に基づくと、東京と福岡では「1円の価値」が異なる。食料品などを入れずとも、住居費の差額だけで手取り収入の半分は差が縮まってしまう。
東京は本当に時給が高いのか
年収1000万円を維持するためには、相応の責任と長時間労働、そして激しい競争が伴うのが一般的である。一方、福岡の年収500万円層は、定時帰宅が可能な職種も多い。
東京の1000万円層は、満員電車による往復90分以上の通勤や、深夜までの残業、週末の接待や自己研鑽を余儀なくされる。この「仕事のために犠牲にする時間」を分母に置くと、福岡の500万円層の実質時給が東京を上回る、あるいは肉薄する現象が起きる。
これは机上の空論ではなく、筆者は複数の外資系企業で年収1000万プレーヤーのサラリーマンを数多く見てきたが、かなりハードに働いているのが普通だった。その中には日本駐在の外国人ビジネスパーソンもいたが、総じてハードワーカーで、あるドイツ人子持ちワーキングママも夜中まで働いていた。
一方、福岡で年収500万なら通勤時間が短く、精神的疲労が少ないため、余った時間を副業(クラウドソーシングや個人ビジネス)に充てることが容易である。
もちろん、筆者は「全部そうだ」と暴論を言うつもりはない。東京の年収1000万プレーヤーでも定時帰りの人もいるし、福岡で年収500万で遅くまで残業する人もいる。そんなことは当然、織り込み済みであり、ここでいっているのはあくまで統計上の傾向の話である。
さらに例外は存在するが、“例外でなければ成立しない前提”自体が、東京1000万円の脆さでもある。
上述の前提を考慮するなら、福岡の500万円層が副業で年100万円を稼いだ場合、低物価と相まってもはや生活水準は東京の1000万円層を凌駕する。
東京に住むプレミアム価値
一方で、東京には福岡では決して得られないプレミアムが存在することも事実である。
1つ目はキャリアの天井の高さだ。外資系企業、投資銀行、メガベンチャー、そして高度な専門職の求人は東京に一極集中している。
年収1000万円を「通過点」とし、将来的に2000万円、3000万円を目指すなら、東京に身を置くこと自体が人的資本への投資となる。そこまで目指さずとも、東京のキャリアには地方企業、ビジネスにはないブランド価値がある。地方の家族経営企業と、東京のグローバル企業とでは同じ業務でもキャリアにつく付加価値は全く違うことは誰の目にも明らかだ。
2つ目は文化体験である。東京には最先端の技術、一流の経営者、文化的なイベント、ハイエンドな人脈がある。
これらに物理的にアクセスできる価値は、数値化できない資産となる。筆者は今でも東京にちょくちょく行くのは仕事で呼ばれて、というのもあるが自らの意志でビジネスセミナーに参加したり、人と会ったり、東京にしかないイベントに触れたりといった理由がある。
だが、これは無理に東京に住む必要はないので、本稿で直接的なファクターではないが一応、触れておくことにする。
◇
結論として、東京に住むべき人は「高収入、ハイキャリア」が前提であろう。「人生はお金だけではない」という反論は当然わかるが、東京ほど何をするにもお金がかかる街はない。人との出会いにも相対評価が前提とする土地柄、ある程度のビジネス戦闘力は暗黙知で求められる。
一方で、福岡に住むべきは「すでに東京で人的資産を磨き上げ、家族持ちで広々とした家で割安でのびのび生活」という人である。つまり、筆者もその一人だ。
筆者は福岡ではなく熊本在住なのだが、東京の出版社、テレビ局、企業と取引しているが、物理的に体は地方なので気持ちの余裕が大きい。だが、それも若い頃に東京で人的資産を作ったからである。そう考えると、東京は修行の場、として見ると合理的と言えるだろう。
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