
※これは音楽論ではなく、「人間が本音を忍ばせる構造」についての文章です。
2025年の紅白の大トリは特別枠でまさかの「青い珊瑚礁」で締め括られた。 しかし、この曲は現在にこそ再評価されるべき名曲であることを、この機会に書き記しておかねばならない、と新年早々重い腰を起こし、意を決して書いている。
「陰のサビ」としての「あなたが好き」
この曲の最も優れているところはもちろんサビのメロディと松田聖子の歌声の奇跡的なマッチングにあるわけだが、それと同じぐらい重要なのが、サビ直前の「あなたが好き」なのである。
このサビ直前の部分は実のところ歌詞も歌もなくて良い。 ストリングスの駈け上がりだけで十分に気持ちよく盛り上がり、サビへの誘導として何の不足もない。 実際、イントロ、アウトロはこのフレーズで挟まれている。サビの繰り返しの繋ぎでも単独で使われる、陰のサビと言っても良いキラーフレーズ。何の装飾も必要ない。
しかし、1番と2番のサビ直前のこの部分になんと、歌詞とメロディーが乗る。 それが「あなたが好き」である。
この目立たない、あえて目立たせないある種凡庸な歌詞とメロディが慎ましやかにサビの前に入る。 そして、あの開放的で青春礼賛のサビが来るわけだが、だからこそ、このサビ直前のフレーズはとても「抑えきれない本音」が出てしまっているように聴こえる。 気持ちを全開放させる、鍵として、本当に言いたいことはコレ、という聴こえ方になる演出となっている。
サビ直前のフレーズをここまで有効活用した曲は他に類を見ない。
と、実はずっと思っていた。
TikTokでの発見と、現代的な共鳴
しかし、つい最近、もう一曲見つけてしまった。
それが目下、TikTokで大バズり中の「好きすぎて滅」である。
これはサビのフレーズで踊っている動画を有名人も一般人も投稿して楽しむ、という現代的音楽の消費方法の雛形となっている中の現時点での代表曲である。 この曲の動画をぜひ見て欲しいのだが、この曲はサビから始まらない。 その直前の「え、好き」というセリフから始まる。
踊ってみた動画を撮るなら、省いても良い箇所ではある。 しかし、どの動画もこのセリフから始まる。 ここまで読んだ人には説明不要であろう。
まさに、青い珊瑚礁の「あなたが好き」と全く同じ効果。 感情を全開放するサビの直前に密かに囁かれる本音である。
AIには見つけられない「人間の営為」
これは年々、日に日に、言いたいことも言えないポイズンな世の中に、本音を忍ばせるための手段と言えるのかもしれない。
とまで言うと言い過ぎだろうか。
ともかく、2025年の紅白の最後に、松田聖子の数えきれない名曲の中から、あえて「青い珊瑚礁」が選ばれ、歌われたのは、時代の要請であり必然であったと言えるのではないか。
これはまだAIには発見できまい。
人間の営為が続く限り、人間自身の感情を深く探っていく作業を我々はまだ止めてはいけないのである。
余談:松田聖子は過小評価されている
ここから余談として。 松田聖子は過小評価されている。
松田聖子のピークは3回。 この青い珊瑚礁を代表とする70年代の匂いを残した三浦徳子、小田裕一郎によるアイドル曲時代。 その直後、すべて名曲、質と量を兼ね備えた黄金の松本隆プロジェクト時代。 そして、自作時代である。
え、「あなたに逢いたくて」が自作だと? という話を書こうと思ったが、長すぎるので別で書く。
ともかく「青い珊瑚礁」
もう一回、原曲で聴いてみて欲しい
なんだこの声は
飛ぶぜ
編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2026年1月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。






