7日はロシア正教会のクリスマスだった。敬虔な正教徒といわれるロシアのプーチン大統領はモスクワ地方の聖ゲオルギオス大殉教者勝利教会でクリスマス礼拝に出席した。

ロシア正教のクリスマス礼拝に出席したプーチン大統領 クレムリン公式サイト 2026年1月7日
ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのモスクワ特派員は「プーチン大統領が軍人や兵士、ロシア軍の守護聖人として崇敬されている聖大殉教者ゲオルギオス(聖ゲオルギオス)を記念する教会を訪れてクリスマスのお祝いに参加したことには意味があるはずだ」という。
プーチン氏は礼拝後、「ロシア軍の兵士たちが主の命に従うかのように、祖国と国民を守るという神聖な任務(holymission)を遂行している」と述べ、軍事行動を宗教的な正義として正当化している。礼拝には、現役の軍人やその家族、遺族らが同席しており、彼らに対する直接的な連帯と政府の全面的な支援を誇示する狙いがある、と受け取られている。
訪問先に選ばれた聖ゲオルギオス(ロシア語でゲオルギー)は古代ローマ末期(303年頃)に殉教したとされる聖人で「勝利の象徴」であり、ロシア軍の守護聖人だ。軍事的な栄光を象徴するこの教会で礼拝を行うことは、現在進行中の軍事作戦(特別軍事作戦)における「最終的な勝利」を国民に印象づける意図があることは明らかだろう。
礼拝参加前に公表されたプーチン大統領のクリスマス・メッセージは、ロシア正教会が社会の団結を強化し、歴史的・文化的遺産を守り、若者の愛国心を育む上で果たしている役割を高く評価し、欧米の「道徳的退廃」に対抗し、ロシア独自の宗教的・道徳的伝統を国家の精神的基盤(スピリチュアル・ファンデーション)として位置づける姿勢を改めて示している。
プーチン大統領は例年、地方の小さな教会を訪れることが多かったが、ウクライナとの紛争開始以降は、今回のようにモスクワ近郊や軍事に関連の深い教会で、軍関係者と共に過ごす傾向が強まっているという。
ちなみに、プーチン氏はロシア正教徒と知られている。本人の説明によると、1952年の誕生から数週間後、熱心なキリスト教徒であった母親が、共産党員であり厳格な無神論者であった父親に内緒で、彼を教会へ連れて行き洗礼を受けさせた。洗礼が行われたのは、当時のレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)にあるプレオブラジェンスキー大聖堂(主の変容大聖堂)。1990年代に母親から「洗礼十字架」を渡され、イスラエルを訪問した際に聖墳墓教会で祝福を受けて以来、この十字架を肌身離さず身につけているという(「正教徒『ミハイル・プーチン』の話」2012年1月12日参考)。
ところで、正教徒のプーチン氏がどうして隣国を軍事侵攻し、民間人を殺害できるのか、という素朴な疑問が出てくる。その理由としてプーチン大統領とロシア正教会の最高指導者のモスクワ総主教のキリル1世は、ウクライナとの戦争を単なる政治的紛争ではなく、キリスト教の価値観を守るための「聖戦」であると主張し、西側諸国を「世俗化し、サタン(悪魔)主義に陥った存在」と定義し、ロシアをそれに対抗する「神聖な法の守護者」と位置づけているからだ。
また、プーチン氏は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシは共通の信仰(正教)と歴史を持つ「一つの民族」であるという「ルースキー・ミール」(ロシアの世界)の概念を信奉している。ウクライナを独立国ではなく、ロシアの「精神的な空間」の一部とみなしているため、侵攻を「同胞を悪の影響から救い出し、本来の精神的一体性を取り戻すための行為」として正当化しているわけだ。
最後に、プーチン大統領はクリスマスの夜、聖ゲオルギオス大殉教者勝利教会で行われた礼拝に出席した後、教会で人々に語りかけている。クレムリン公式サイトからその一部を紹介する。
「メリークリスマス。まず初めに、本日の礼拝にいらっしゃる最年少の聴衆の皆さんにお話ししたいと思います。皆さんもご両親を誇りに思っていいのです。私たちの祖国ロシアの人々が常に戦士たちを誇りに思っていたように。今日は、キリストの生誕を祝う、素晴らしく輝かしい祝日です。キリストはすべての人々を救うためにこの世に来られたので、私たちはしばしばキリストを救世主と呼びます。そして、ロシアの戦士たちは、まるで主の命令であるかのように、常にこの使命を遂行しています。祖国を守り、祖国と国民を守るという使命です。ロシアの人々は常に、戦士たちを神の命令に従ってこの神聖な使命を遂行する者として扱ってきました」
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






