日本のイスラエルとの安全保障協力は本当に賢い選択か

1月5日〜8日にかけて、日本の国会議員団がイスラエルを訪問した。団長は自民党の小野寺五典・安全保障調査会長であった。同行議員には自民党・維新の会など複数議員が含まれていた。訪問目的は、防衛・安全保障技術の視察と意見交換で、レーザー兵器、無人機(ドローン)、AI関連システムなど、イスラエルの先端防衛技術の実情を視察した。ネタニヤフ首相をはじめとする外務大臣らイスラエル政府要人との面会も行われた。

ネタニヤフ首相と自民党の小野寺五典議員 イスラエル政府HPより

この訪問は、大きな波紋を呼んだ。SNSでは、批判的な意見が、溢れている。論点は大きく三つの領域で存在している。

第一が、戦争犯罪問題に対する立ち位置である。自民党の安保調査会長をはじめとする相当数の国会議員が、ICC(国際刑事裁判所)から訴追中のネタニヤフ首相と会談して握手し、にこやかに集合写真におさまった。ネタニヤフ首相からは、「これまでの日本の支援に感謝する」という言葉が出た。

高市首相(首相官邸HP)とイスラエル・ネタニヤフ首相(Wikipedia)

もしこれが日本だったら、日本政府関係者はICCローマ規程の締約国としての国際法上の義務にしたがって、ネタニヤフ首相を逮捕して、移送しなければならない。日本政府高官は、所長が日本人の赤根智子氏であるICCを支えて国際社会の法支配を推進する、といったことを繰り返し述べてきている。

もちろんイスラエルには日本の領域主権が及ばないため、逮捕はできない。しかしだからといって、にこやかに握手して談笑するのは、常識感からすれば、一貫性のない態度だと言われても、仕方がないだろう。

イスラエルは、ナチス時代にユダヤ人移送局長官で、アウシュヴィッツ強制収容所へのユダヤ人大量移送に関わったアドルフ・アイヒマンを、逃亡していたアルゼンチンで密かに拘束してイスラエルに連行し、人道に対する罪や戦争犯罪の責任などで裁判にかけ、死刑判決を下し、絞首刑に処したことがある。アルゼンチン当局には一切告げずに行った作戦であった。

日本人の言い訳は、イスラエル側には伝わらないようなものである。

第二に、イスラエルからの武器購入だ。東京新聞は、1月9日に、「ガザ攻撃開始後にイスラエル製武器を日本政府が241億円分購入と判明」との記事を掲載した。記事によれば、「パレスチナ自治区ガザでイスラエルの大規模攻撃が始まった2023年10月以降、日本政府がイスラエル製の武器・装備品を計241億円分、購入していたことが分かった。すべて随意契約で製造企業名は公表していない」という。

ガザ攻撃開始後にイスラエル製武器を日本政府が241億円分購入と判明 「購入は虐殺への加担」との批判も:東京新聞デジタル
パレスチナ自治区ガザでイスラエルの大規模攻撃が始まった2023年10月以降、日本政府がイスラエル製の武器・装備品を計241億円分、購入...

競争公示を通じた部分でも、これまでも国会で、1円でイスラエル企業が試験機の納品を受注し、その後に本格的な契約を通じた大型契約につなげるやり方などが問題視されてきている。

イスラエル製攻撃型ドローン/防衛省が導入検討/山添氏「軍需産業支援やめよ」/参院外防委

これらの兵器は、戦争犯罪行為と直接的に結びついている恐れがあり、「ジェノサイドで実験された兵器をあえて購入している」という指摘を受けても、あながち否定はできない。外交的な含意が大きい兵器購入について、国会での審議はもちろん、公的な告知のないままに進めていいのか、については、疑問の余地がありうるだろう。

第三に、そもそもの日本とイスラエルの間の二国間安全保障協力の展開の問題がある。今回の訪問団は、イスラエル政府の最高意思決定レベルの要人と、政策的な意味での安全保障協力のあり方について協議を進めたと言えるだろう。今後、日本とイスラエルの関係が、準同盟関係に入っていくような状況も視野に入れた動きと言える。

実際のところ、特にドローンなどの情報集約性の高い兵器をイスラエルに依存することは、自衛隊の作戦体系にイスラエルの情報システムを浸透させること意味する。イスラエルは、世界有数の諜報国家だ。最悪の場合には、イスラエル側に、自衛隊の情報が漏れていく恐れもないとは言えない。信頼のおける国からでないと、ドローンなどの兵器を取り入れることはできないはずだ。日本とイスラエルは、そのような信頼関係で結ばれている、ということだ。

これについては、専門家層で、前のめりの擁護論が打ち出されている。

イスラエルは、日本の同盟国であるアメリカと同盟関係にある国だ。その意味では、システム上の連動性を持つ対象として候補になりうることは確かだろう。恐らくは日本とイスラエルの関係発展は、アメリカにとっても望ましい。しかし果たして本当にイスラエルは、そのように日本にとって信頼に足る国か。

世界の大多数の諸国は、イスラエルに悪感情を持っている。ハマスとの停戦合意の違反行為に該当するイスラエルの軍事行動も続いている。イスラエルとの防衛面での協力を進めることが持つ、外交的含意を考慮してもなお、イスラエルを準同盟国扱いしていくことに、日本の国益上の意味が大きいと言えるか。疑問あるいは少なくとも議論の余地があると思われる。

本来であれば、日本の防衛費の大幅拡充は、日本の防衛産業の育成を通じた日本経済への貢献の意味も持たせることが、理想であった。実際には、高額兵器・最新AI兵器などは、アメリカやイスラエルに依存しながら、購入計画を進めていく様子が、明らかになっている。システム構築を前提にした兵器体系は、一度イスラエルから取り入れてしまえば、その後もイスラエルに依存する形で維持し続けていかざるをえないのが、当然のこととなる。

その点も含めて、日本政府・国会議員のイスラエル詣でに、長期的な国益から見た時の意義があると言えるか。

日本政府関係者や、防衛専門家・国際政治学者層は、特にロシアのウクライナ全面侵攻後、欧米諸国との関係を深めながら防衛費の大幅増額を達成していく路線を強く推進してきた。その一方で、中国を仮想敵国とみなす風潮を強く助長してきた。

現在、日本は、ロシアに制裁を科し、ウクライナに多額の財政支援をしているが、それは非欧州地域ではかなり稀有なレベルでのことになっている。その一方で中国との対立関係も深めている。世界でロシアと中国と同時に対立関係を深めている稀有な国が、日本だ。

しかし聞こえてくる主張は、ロシアにも中国にも勝ち切るしかない、というようなものであり、そこでなりふり構わずイスラエルとの関係も深めたい、ということになるようだ。

残念ながら、北東アジア諸国だけでなく、東南アジア諸国との外交関係の深化や、インドとの関係発展、さらにはその他のインド太平洋地域の諸国との外交関係の発展に、目立った努力がなされている様子が乏しい。やっていない、という意味ではないが、本当に熱心に外交努力を払い、その成果が見えてきていると言えるか、疑問の余地がある。

果たしてこのような「日本はロシアにも中国にも勝たなければならない」路線に、持続可能性があるのか。日本が置かれた国際環境と、疲弊していることが隠しようもない国力に、見合った態度と言えるか。私個人は、かなり真剣に疑っている。

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