EV大手のテスラは、世界全体で売上が成長してきましたが、いま不振です。しかし日本は例外です。
2025年の国内販売数は10,600台(対前年9割増)。過去最高の2022年(5,900台)を大きく上回りました。
国内実店舗を増やした結果ですが、その方法が変わっています。
2024年までの店舗数は10店舗程度。そこで2025年は常設店を16店舗出店。しかもイオンモールなどの商業施設を中心に、直営店舗を展開したのです。
これは実に興味深いですね。
イオンモールのリアル店舗が効く理由は、EV未体験の消費者に、テスラ体験を提供できるからです。
テスラは直販で売っています。実はあなたのスマホでも、テスラはすぐ買えてしまいます。
しかしあなたが次の新車を探していて、「テスラはスマホですぐ買えますよ」と言われたとしても、「なるほど。ポチりました」…とはならないですよね。
EVは高価格です。安くなったとはいえ、300万円以上します。買うまでのハードルは極めて高いのです。
また先進国の中で日本はEV普及率が突出して低いので、そもそも従来のガソリン車とEVがどう違うか、多くの人は知りません。
加えてクルマは乗り心地が大事です。体験しないと買いません。
EVをスマホでポチって買うには、心理的ハードルは極めて高いのです。
一方で日本メーカーのEV品揃えはまだ少ないので、EVの中でも認知度が高いテスラは、今が販売拡大のチャンスです。
こうした状況を考えると、日本国内で、特に消費者が集まるイオンモールで実店舗を展開するテスラの戦略は、とても有効な打ち手なのです。
これはチャネル戦略上、示唆に富んでいます。
テスラのようにオンライン直販する企業をD2C(Direct To Consumers)企業と呼びます。
実はD2C企業ほど、リアル店舗の価値を認識しています。
2010年創業、今や企業価値が34億ドルに達しているワービー・パーカーも、メガネのD2C企業です。
「メガネのオンライン販売?」と思ってしまいますが、この会社は5フレームまで自宅で無料で試着できるようにして、成長しています。
創業者たちは当初、「実店舗は不要」と考えていましたが、注文殺到して試着を中断せざるをえなくなった際に、「オフィスで試着できる?」という顧客からの問合せが来て、オフィスで対応したところ、「対面は顧客関係づくりに大切」ということを実感。
そこでリアル店舗を展開しています。店舗自体がブランド認知の大きな向上に繋がるとわかったからです。
オンライン販売は万能ではない、ということです。
確かにチャネルとしてのオンラインは、消費者が「買おう」と思った時点で、取引が簡単にできます。
しかし商品を実体験できません。
オンラインは、消費者が「買おう」と意志決定させるまでが難しいのです。
ちなみにアマゾンはこれがわかっていたので、1995年のサービス開始の際は、売る商品として、新品の本を選びました。
一方で実店舗は体験が提供できます。消費者が「買おう」という意志決定まで持っていく上で有効なチャネルなのです。
以上をシンプルに整理すると、こうなります。
【買うまでの意志決定は】 リアル店舗
【意志決定後の取引は】 オンライン
まず、リアル店舗で商品を納得するまで体験させる。
その後、消費者があれこれ考えた末に買いたくなったら、スマホで簡単にポチる手段を提供する
…という導線を描くのが、オンライン販売全盛の現代におけるチャネル戦略なのです。
ファミマはこの状況を理解しています。
EV普及を契機に、日本市場進出を図る海外の自動車会社は数多くあります。代表は、中国のBYDや韓国の現代自動車(ヒュンデ)です。
彼らの悩みは、日本に自社店舗がほとんどないこと。
そこでファミマは、自店舗コンビニの駐車場を使って、EV体験できるようにしています。
たとえば、2025年4-5月にファミマの首都圏10店舗で、ヒュンデの小型EVの試乗会を行いました。結果は、試乗が300人。そのうち1週間以内の成約は数十台。想定外の効果でした。
店舗が少なく試乗できる機会が少ないヒュンデにとって、気軽に立ち寄れるコンビニとの相性は良かったのです。
そこで2026年1月、ファミマは全国の5000店舗を対象に、駐車場を新車販売の展示場として活用する戦略を発表しています。
国内の販売拠点が少ない海外メーカーに、消費者と広い接点を持つコンビニの強みを活かし、空き駐車場の収益化を図ろうとしているのです。
4Pの中でも、チャネル戦略は見落としがちですが、顧客に価値を伝えて届けるかを考える上で、実は重要なポイントなのです。
[参考資料]
- 「ファミマ、新型EVの試乗会」 日経MJ 2025.4.9
- 「コンビニで車が売れる時代 ヒョンデがファミマで試乗会、数十台成約」日経クロストレンド 2025.10.2
- 「ファミマ駐車場に新車展示」日本経済新聞 2026.1.16
- 「テスラ、店舗重視で販売倍増」日本経済新聞 2026.1.16
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年1月20日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。