タブー視されてきた核保有問題で日本とドイツの共通点と相違点

日本とドイツは第2次世界大戦の敗戦国という点もあって、機会ある度によく比較される。世界の情勢が混乱し、既成の秩序がもはや維持できなくなりつつある今日、安全保障分野で両国でも新たな動きが見えだした。これまでタブー視されてきた核保有問題だ。

高市首相、イタリアのメロー二首相と首脳会談,2026年1月16日、首相官邸公式サイトから

前日のコラムでドイツで核保有問題が議論されてきたことを書いたが、日本でも昨年12月18日、高市内閣の官邸内の安全保障問題担当官のオフレコ発言というかたちで、「日本も核保有が必要だ」という発言がメディアで流出して物議を醸したばかりだ。

そこで日独の核保有問題の共通点と相違点をまとめてみた。日本もドイツも第2次世界大戦の敗戦国だったこともあって、その後の軍事分野の議論は久しくタブー視されてきた。両国はNPT(核不拡散条約)の加盟国として、国際的に核保有を断念している。日本は韓国、中国に対して、ドイツはイスラエルとの関係において、戦争での加害国意識が先行し、冷静な安保問題議論が出来なかった経緯がある。

核保有問題で日本とドイツを取り巻く状況は共通点と相違点がある。日本もドイツも戦後、「米国の核の傘」に依存してきたが、ドイツの場合、北大西洋条約機構(NATO)枠組みで米国の核を国内配備。有事の運用訓練も実施済みだ。一方、日本の場合は、「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則により、持ち込みすら公式には認めていない。だから、日本の場合は核保有関連の発言はドイツ以上に厳しい自己検閲が働き、与野党の関係なく、政治家が核保有の必要性を公の場で話せば、メディアから一斉攻撃を受けることは避けられない。その点、ドイツは米国の核が国内に配置されていることは自明のことだ。

ちなみに、ドイツ国内で米国の核兵器(戦術核)が保管されている場所は、ビュッヘル空軍基地内の地下シェルター(WS3システム)だ。保有数は約15~20発のB61核爆弾(重力爆弾)と推定されている。NATOの「ニュークリア・シェアリング(核共有)」枠組みに基づき、この基地でB61核爆弾が管理・運用されている。ドイツの他にイタリア、オランダ、ベルギー、トルコの基地にも米国の核兵器が保管されている。

次は「核保有能力」だ。日独は高度な原子力技術と経済力を持ち、政治的決断があれば短期間で核武装が可能とされる「潜在的保有能力」を有している点が共通している。ユーリッヒ原子力技術研究所で30年以上核技術の研究に携わってきた化学者ライナー・モーアマン氏は独週刊誌シュテルン誌に、「技術的に言えば、ドイツ製の原子爆弾の製造は問題ないだろう。グローナウ濃縮工場で既にウランが濃縮されている。そこで兵器級物質を製造するには、施設をある程度改造するだけで済む。必要なのは十分な数の遠心分離機だけだ。ドイツにはこの分野で十分な専門知識があるから、3年以内に原子爆弾を製造できるだろう」と予測している。日本の場合も核保有能力ではドイツと同じ水準だろう。

核保有論争がここにきて浮上してきた背景には、日本とドイツを取り巻く安全保障問題が緊張を高めてきていることがある。ドイツの場合、ロシアの脅威だ。ウクライナ戦争が勃発し、欧州に戦争が戻ってきたのだ。ロシアのプーチン大統領はウクライナを支援するドイツや欧州諸国に対して核の脅威をちらつかせている。一方、日本の場合、中国共産党政権の台湾の武装統一が囁かれている。その上、朝鮮半島には核戦力を強化している北朝鮮が存在する。日本は複数の核保有国に取り囲まれている。

新しい懸念事項は、同盟国・米国の関与だ。日本もドイツも米国の核の傘に依存しているが、その米国のトランプ政権が今後もドイツと日本の安全保障に責任を有するかどうか、分からなくなってきたのだ。トランプ大統領は米国、ロシア、中国の3国の世界支配構想を抱いているともいわれる。「米国が自国の犠牲を払ってまで守ってくれるか」という不安が議論の火種となっているのだ。

代替案の有無だ。ドイツはフランスや英国との「欧州独自の核抑止」という多国間連携の選択肢がある。一方、日本の場合地域の多国間同盟がなく、米国の傘に代わる枠組みが乏しい。国民感情では、ドイツの場合、「自国保有」には慎重だが、核共有の維持には一定の理解が広がりつつある。日本の場合、唯一の被爆国として核保有には強い拒絶感がある。

参考までに、日本が核保有することで潜在的敵国の核攻撃を回避できる確率が高まる、という論理がある。核保有していない場合、日本が世界唯一の被爆国だといった歴史的な事情とは関係なく、敵国は戦略核兵器で攻撃したとしても報復の核攻撃を恐れる必要がない。核兵器は非人道的な武器だ、という道徳を敵国の指導者に期待するのではなく、日本が2度目の被爆国にならないためにも、核保有すべきだというシナリオは説得力がある。

ただし、日本が核保有に舵を切れば、NPT体制は崩壊し、周辺国に核武装のドミノ現象が生じる懸念が出てくる。そこで現在は、直接的な「保有」よりも、米国の核を共同運用する「核共有」や、核を搭載可能な潜水艦の共有といった「拡大抑止の強化」を検討すべきだという折衷的な意見が聞かれるわけだ。いずれにしても、被爆国・日本も現実的な核の抑止力を検討してもいい時だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。