
2025年に入り回復を見せたJ-REIT(不動産投資信託)価格が再び軟化している。株式市場の変動や長期金利の上昇を受け、投資家心理が揺れ動いているためだ。
こうした局面では、J-REIT価格が現物不動産市場の先行きを示すシグナルとして語られることが多い。しかし、両者の価格形成メカニズムは根本的に異なる。J-REIT価格の短期的な変動を、現物不動産投資の判断材料として直接参照することには、構造的な無理がある。
本稿では、現物不動産投資家が、J-REIT市場の動きをどう解釈し、自らの投資判断にどう位置づけるべきかを整理する。
2020年以降のJ-REIT価格——現物市場とのズレ
グラフは、J-REIT価格(東証REIT指数)と現物不動産価格(国土交通省・不動産価格指数)について2020年1月を100として指数化し、比較したものだ。この乖離は明白である。

2020年3月、コロナ禍でJ-REIT価格は急落した。一方、現物不動産の取引価格には大きな影響は見られず、むしろ物流施設などは堅調に推移した。2022年以降の金利上昇局面でも、J-REIT価格は低迷したが、都心オフィスの賃料は下落したものの、住宅や物流の現物市場は底堅く推移した。2025年初頭、J-REIT価格は反発したが、現物不動産価格の明確な上昇トレンドとは必ずしも一致していない。
この乖離は、両者の価格決定要因が異なるために起きる構造的なものだ。現物不動産は、賃料水準、空室率、需給バランス、建築コスト、立地評価といった実体的要因によって価格が形成される。価格調整には時間がかかり、流動性が低い。
一方、J-REITは不動産を裏付け資産とするものの、金融商品として市場で取引されるため、金利動向、投資家のリスク選好、資金フロー、他の金融商品との連動性などの変化に敏感に反応する。短期的な価格変動という観点では、両者を同列に扱うことは難しい。
それでもJ-REIT価格が示唆する意味
では、J-REIT価格は現物不動産投資家にとって無意味なのか。必ずしもそうではない。
J-REIT市場は流動性が高く、資本市場の変化を比較的早く反映する。そのため、中長期的には「不動産投資に向かう資本の向き」や「出口環境の変化」を示す一つの指標として位置づけることは可能だ。
具体的には、以下の点で参考になる。
第一に、出口市場の厚み。J-REIT価格が低迷すれば、REITによる物件取得や増資が難しくなり、結果として大型物件の買い手が減少する。これは、現物不動産市場における売却環境に影響を与える可能性がある。逆に、J-REIT市場が安定していれば、出口市場の厚みは相対的に確保されやすい。
第二に、資本コストの変化。J-REIT価格の変動は、投資口価格を通じた資本調達コストの変化を映し、間接的に不動産投資全体の期待利回りやキャップレートに影響を及ぼす。
第三に、投資家心理の先行性。金融市場は現物市場よりも反応が早いため、J-REIT価格の動きは、将来的に現物市場でも起こり得る環境変化の兆候を含んでいる可能性がある。
もっとも、これはあくまで環境指標としての見方であり、直接的な価格予測に用いるべきものではないものと考える。
現物不動産投資家が持つべき距離感
重要なのは、J-REIT価格を「現物不動産の代替指標」や「短期的な先行指標」として過度に重視しないことだ。同時に、資本コストや市場環境の変化を読み取る材料として、一定の関心を持ち続けることも全く無意味なことではない。
現物不動産は流動性が低く、価格調整には時間がかかる。だからこそ、金融市場で先行して起きている変化を、過信せず、しかし無視もしない姿勢が求められる。
たとえば、以下のような活用法が考えられる。
J-REIT価格が大きく下落した際には、金利環境や投資家心理の変化を再確認し、自らの投資戦略を見直す契機とする。J-REIT市場が安定している局面では、売却タイミングの検討材料の一つとして位置づける。ただし、J-REIT価格の短期的な上下に一喜一憂せず、現物不動産の本質的価値——賃料収入、立地、需給——を軸に判断する。
また、J-REITに組み込まれている不動産のポートフォリオの変化に注視し、ファンドマネージャーがどのようなアセット(資産)を求めているのかを推察することは、今後の物件の組み換えの参考になるだろう。
おわりに
本稿でJ-REIT価格を取り上げる意義は、金融商品の値動きを論じることではない。それを通じて、現物不動産を取り巻く投資環境の変化を多面的に捉えることにある。
J-REITと現物不動産は、同じ不動産を扱いながら、異なる論理で価格が形成される別の商品だ。その違いを理解したうえで、J-REITを「答え」ではなく「参考情報」としてどう位置づけるか。それが、これからの不動産投資・不動産経営において、より重要になっていくのではないだろうか。






