
衆院選に大勝した高市首相
自民党HPより
選挙結果の概要と結果
2026年2月8日の衆議院選挙では3つの注目すべき事件が起きた。一つは自民党の歴史的勝利、二つ目は中道改革連合の壊滅的な敗北、そしてチームみらいの予想外の台頭である。本稿の目的はその理由をさぐることにある。
そのために前回総選挙からの継続アンケート調査を用い、人々の投票行動を追跡した。調査会社はfreeasyで20歳~69歳の男女、前回選挙と今回選挙の2回のアンケートに答えてくれた1699名が対象者である。データはパネルデータになっており、同じ人に尋ねているので、投票先の追跡ができる。
図1-1は、この1699人が過去3回の衆議院選挙の比例区でどこに投票したかの分布である。 各党3本の柱があるが、一番上の黒いバーが今回2026年の衆議院選での投票先、2番目のあみ線のバーが2年前の2024年の衆議院選挙での投票先で、そして一番下の白いバーが、5年前の2021年の衆議院選の時の投票先である。

図1-1
これを見ると、自民党へ投票した人の比率が2024年選挙で29.8%→22.4%と下がったのが今回は27.5%に上がっており、自民党が復調していることがわかる。
一方中道改革連動への投票率は12.0%であり、前の選挙の時の立憲民主党と公明党の獲得投票割合(16.0%と2.9%)を足した値に遠く及ばない。中道改革連合の得票率12%は、前回の立憲民主党単独のときの投票率16.0%よりも下回っており、1+1が2どころか1にも及ばず、1+1=0.8くらいの結果になってしまったことになる。
最後に、下から2番目の「その他」の7.2%の8割はチームみらいの得票である。初戦でこの高さは驚くべき高さであり、これも話題を呼んだ。
本稿ではまず自民党の勝利を分析する。あらかじめ結論を書いておく。
(1)高市自民の勝因は、第一に石破解散の時に自民党を離れた岩盤保守層を奪還したことである。しかしこれだけが勝因ではない。高市氏の保守性を嫌ってほぼ同じ規模の人が自民党から離れたからである。高市氏の勝因は、保守票の奪還に加えて、前回、投票所に行っていない若年層・女性の新規動員に成功したことである。この二つのグループだけで比例の自民票の5割を占めており、自民党投票者の構成は大きく変わった。
(2)新規動員に成功した要因として、高市氏への評価が自民党の歴代総裁の中で最も高いことが挙げられる。政策が良く、政治思想に共感でき、人柄が信頼でき、そして利権に捕らわれず、腹黒いところもないと思われている。頼りがいもある。これだけ評価が高いと、野党からの少々攻撃をうけても簡単には支持はさがらないだろう
投票先の追跡:自民党
図1-2はサンプル1699人の自民党投票者の投票行動の追跡結果である。
2021年の岸田総理の時の解散総選挙では自民党に投票した人は506人いたが、2024年の石破総理の解散総選挙ではそのうち169人が自民党への投票をやめており、離脱している。
この石破離脱者の保守度は0.467であり、保守思想の強い人たちで、石破政権のリベラル的性格に嫌気がさして岩盤保守層が自民党支持から離脱したためと考えられる注1)。その結果自民党投票者の保守度は低下し、0.214にまでさがった。
なお、ここで「保守度」とは保守リベラルの度合いの測定尺度であり、保守なら正の値に、リベラルなら負の値で、絶対値が大きいほどその度合いが高い。この尺度は人々への政治的課題についての意見からさくせいしたもので、作成方法については最後の補論を参照願いたい。

図1-2 自民党投票者の追跡
図中の人数はサンプル1699人中の該当者数、カッコ内は保守度
今回の選挙で、自民党への投票者は467人に増加した。新たな投票者は221人で、今選挙での自民党への投票者467人の半分はこの新たな投票者であり、いわば半分が入れ替わったことになる。
彼らは2種類に分けられる。ひとつは前回選挙(2024年選挙)では他の政党に投票していた人たち114人で、今回の自民党投票者の2割強を占める。このなかには前回に石破解散の時に離脱した人がふくまれており、彼らが帰還したことになる。帰還者は元もとが岩盤保守層なので、保守度は高い。実際、この114人の保守度は0.580と非常に高い。
具体的に彼らがどこからやってきたかを見るために、彼らの前回の投票先を見ると図3のようになる。意外に思えるかもしれないが、第一位は立憲民主党である。しかし、参政党・保守党、ならびに維新の会、国民民主党の保守系の党をあわせると5割をこえており、強い保守思想の投票者はこれらの党からやってきたと考えられる。2024年の石破解散の時に離脱した岩盤保守層は、これら保守系の党に分散して潜伏し、高市氏の登場で自民党に帰還したと解釈できる。
なお、立憲民主党から来た人が3割も占めるのはなぜかが気になるところであるが、これは後で考察する。

図1-3
高市自民に加わったもう一つの投票者は前回棄権していた人である。前回は投票所に足を運ばなかった人107人が自民党に投票しており、これも自民党投票者の2割程度をしめている。自民党にとっては新しい支持者を堀りおこしたことになり、ニューカマーとでも呼ぶべきであろう。
彼らのプロファイルを表1-1に示す。見ると、保守リベラル度は0.169で弱い保守傾向であり、中道保守といったところである。性別と年齢を見てみると、女性が多く、若年層が多い。他の自民党投票者では女性比率が42%であるのに、このニューカマーでは女性比率が56%になり、15%ポイントの差がある。また平均年齢も42歳であり、他の自民党投票者の平均年齢51歳より10歳程度若い。高市氏は政治に無関心だった女性かつ若年層の一部を掘り起こしたことになる。
帰還者とニューカマーを合わせて221人となり、全自民党投票者の5割を占めている。彼らは高市氏が引き出した支持者である。

表1-1
ただし、高市氏はその強い保守性ゆえに、自民党からの離脱者も生み出した。前回石破解散の時に自民党に投票した人で今回は自民党に入れなかった人が134人もいる。2024年時の自民党投票者380人の約3割にもなり比率として大きい。彼らの保守リベラル度は0.066で中道である。
自民党の支持者の中にはリベラルに近い人もおり、これが保守色の強い高市氏を嫌って自民党を離れたと解釈できる。離脱率3割は大きな数字であり、野党側がしかけた高市氏は戦争を起こすぞ!というキャンペーンが一定の効果をあげたと考えられる。
中道改革連合としてはこの離脱層が狙いどころのはずである。高市氏が右派であることは明らかなので、高市氏で選挙をやれば、自民党内のリベラル派がはみ出してくるはずである。立憲民主党はそのように考え、彼らの受け皿になることを願って中道路線をとったのであろう。
しかし、この目論見は失敗した。図1-4はこの高市離脱者の投票先である。これを見ると、離脱者の中で、中道改革連合に投票した人は20.9%で2割しかいない。維新の会、国民民主党へ同じく2割程度流れており、チームみらいにも1割流れている。中道改革連合が中道を狙うなら、この離脱者の半分程度は取れればよかっただろうがそうはなっていない。
高市自民になれば中道の人々が自民党から離脱してくるだろうという予想は正しかった。ただ、それが自分たち中道改革連合にはこなかったのである。

図1-4
高市氏への高い評価
ここまでを振り返ってみると、有権者の動きの点から見たときの高市自民の勝利の要因は二つである。
ひとつは岩盤保守層を奪回したことである。高市自民は、石破解散の時に維新・国民民主・参政・保守党等に流れた岩盤保守層を取り戻すことに成功しており、これは高市氏の保守的性格のたまものである。
しかし、これだけが理由ではない。代償として保守的性格ゆえの離脱者を出しているからで、図1-2を見れば、奪還が114名、離脱が134名でほぼ拮抗し、単純に見れば離脱者の方が多い。
そこで勝利の第二の要因が重要になる。それは前回投票所に行かなかった人を動員したことである。前回は投票所に行かなかったニューカマー107人が自民党に投票し、これが勝利の原動力になった。彼らの保守度は0.169と低く、高市氏の思想的な保守性に惹かれたわけではない。
ではなぜ自民党に投票したのであろうか? 投票所まで足を運んで投票させたものは何であろうか?
仮説を得るために、歴代の自民党総裁についてのイメージを聞いてみた。次の図1-5がその問いである。

図1-5 総理の相対評価
1〜3は肯定的なイメージ、4〜6は否定的なイメージである。それぞれのイメージにもっともふさわしい人がこの中にいればそれを選んでもらう。いなければ、5の誰にも当てはまらないを選ぶ。
その結果を人間単位で示すと図1-6のようになる。縦軸はパーセントでそのイメージに当てはまると考えた人の比率を示す。

図1-6 総裁への相対的イメージ(n=1699)
安倍氏は肯定的イメージもあるが、同じくらい否定的イメージも強い。岸田氏は否定的イメージのみが強く、石破氏は頼りない政治家を想われている。これに対し、高市氏のイメージはこの4人の中でずぬけて良い。
高市氏は、この4人の中では、政策が良く、政治思想に共感でき、かつ人柄が信頼できる人と思われている。また、腹黒くなく、利権に捕らわれているとも思われていない。頼りないとも思われていない。政権発足直後は期待を込めて支持率が上がりがちであることを割り引く必要があるが、それを考慮しても高い。
この図1-6は全国民についての結果であることに注意されたい。自民党支持者のみ、あるいは前回は投票所に行っていなかったニューカマー107人に限った場合、この傾向はさらに強まる。
図1-7がそれで、自民党支持者のみ、あるいはニューカマーのみに限った場合は、高市氏を肯定的評価する人はさらに増えている。また、図1-8に見るように男女別、年齢別でも同じ傾向であり、4人の中では高市氏の評価が最も高い。

図1-7

図1-8 相対イメージ:男女別、年齢別(n=1699)
この設問は、「誰にも当てはまらない」という選択肢があるとはいえ、4人並べてその中からあてはまる人を選んでもらっているので、積極的に相手の人柄がよいとか、あるいは腹黒くないとか評価しているわけではない。あくまで4人の総裁経験者の相対的な評価である。また、旧立憲民主党支持者・共産党支持者は石破氏への評価が高く、高市氏への高い評価は出てこない。
しかし、それでも全国民での、また自民党支持者に限った時での評価の高さは驚異的である。高市氏は自民党の歴代4人の総裁の中で最も政策が良く、思想に共感でき、人柄がよいとされている。さらに腹黒くなくて、利権に捕らわれず、頼れる政治家と思われている。
前回投票に行かなかった人が、雪の中でも投票所に行って高市氏に投票したのはこのためであろう。また、図1-3で他党から高市自民に移った人の3割が立憲民主党投票者から来た人であったのもこのためであろう。今回の勝利は高市氏の個人的な資質によっていると考えられる。
この仮説が正しいとすると、高市氏に致命的なスキャンダルがでれば自民党支持は大きく崩れるリスクがある。しかし、逆にそれが無ければ、高市政権への支持はそう簡単にゆるがないだろう。
この高い評価はテフロン・プレジデントと言われたレーガン大統領を思い起こす。レーガン大統領は就任中にイラン・コントラ事件など多くの失敗があったが、不思議と支持率が下がらなかった。レーガン大統領のこの不思議な性質を傷がつかないフライパン素材テフロン加工になぞらえてつけられたのが、テフロン・プレジデントというあだ名である。
なぜ支持率が下がらなかったのかについてはいくつか仮説があるが、有力なのはレーガン大統領が政策とは別に人間として“良い人”と思われていたという説である。レーガン大統領は元俳優でワシントン政治のアウトサイダーであり、楽観的で明るい語り口で、米国を愛する良き父親の立ち位置をとった。人々はレーガン大統領を人間として信頼し、少々の政策の失敗があっても支持し続けたのである。
高市氏の場合も、台湾有事の発言で中国との関係が悪化しても、不思議なことに支持率はたいして下がらなかった。これは少々の政策の失敗があっても、高市氏が信頼に足る良い人であるという評価があるので人々は支持を続けたと解釈できる。これはテフロン首相と呼ぶにふさわしい。
高市氏が歴代総理に比べてなぜこのような高い評価を得たかの理由はわからない。高市氏は派閥のようなグループを作らずにいたのが良かったのかもしれない。グループのボスになれば、お金の調達や人事抗争への介入など裏仕事がついてまわってイメージがダーティーになる。
あるいは女性であることも一助かもしれない。刑務所に入るのが圧倒的に男性であることでわかるように傾向としては男性の方が悪に手を染め、女性の方がクリーンである。また、東大などエリート校出身ではなく、親も普通の人で、渡米して帰国後松下政経塾をへるなど独力で人生を開拓したことも、人々に親近感を抱かせたのかもしれない。理由はわからず、これからの調査課題である。
もしこの仮説が正しいとすると、リベラル陣営にとって高市氏は手ごわい相手である。円安などの難しい問題での敵失、あるいは森友問題や政治とカネ、統一教会などのスキャンダルで相手に傷をつけることが難しいからである。
このような相手の失点を責め、国民からの政権への評価点を減点させていくやり方はこれまで野党が良く行ってきた戦法であるが、高市氏に対しては思うような成果をあげないだろう。そのような戦い方は相手を“下げる“戦いであり、相手がテフロンのように傷つかない時には有効ではない。
有効なのは、相手を下げるのではなく、自分を”上げる“方向であり、正面切ってこのような日本をつくるという政策論争を仕掛けていくことである。国民民主党の「手取りを増やす」、チームみらいの「AIで政治を変える」はその一例である。そのような提案側の政策論争は日本の民主主義の在り方としても望ましいはずである。
なお、ここまで勝利の要因があげてきたが、これだけでは圧倒的勝利の説明としては不十分である。図1-2を見ればわかるとおり、自民党の比例区に投票した人の数は増えたと言っても、2021年総選挙の時には及ばない。2021年の総選挙では自民党は勝ったとは言ってもここまでの圧勝ではない。
圧勝の理由は立憲民主党の自壊にある。これを次のノートで分析する。
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注1)田中辰雄、2024/10/28、「2024年衆議院選挙、自民党敗北の一因――強い保守層の離脱」 Synodos,
補論1:保守・リベラルの尺度
捕捉図1-1のように10個の政治的意見への賛否を尋ね、そう思うから思わないまで5段階で答えてもらった。
保守側の意見とリベラル側の意見があるので方向をそろえたうえで、「そう思う」を2点、「ややそう思う」を1点、「あまり思わない」をー1点、「思わない」をー2点、それ以外は0点として合計点をとる。方向は保守側が正になるようにそろえて点数をふる。そのうえで平均0標準偏差1になるように標準化すると、この値はその人の保守度を表し、正の値であれば保守、負の値であればリベラルである。
捕捉図1-1はこうして作った1699人の保守リベラル度の分布である。本論ではこの値を保守リベラル度あるいは保守度として使った。

捕捉図1-1

捕捉図1-2
ここで各政党への投票者別にこの値の平均値をとると、いわば各党の投票者の保守・リベラル度が出せる。捕捉図1-3がそれである。

捕捉図1-3 保守・リベラル分布
これをみるといろいろなことがわかる。自民党は保守政党であるが、自民党の投票者はそれほど強い保守思想の持主というわけではない。参政党の方が保守的である。ただし参政党の投票者も極右というほど保守度は強くなく、むしろ日本保守党の方が保守度が高い。
中道陣営では維新の会・国民民主党、チームみらいが中道で、そのなかで維新の会と国民民主党が中道保守で、チームみらいが中道リベラルである。中道改革連合とれいわ新選組が同じ位置におり、中道改革連合はその名称と異なり、投票者の政治思想は中道ではない。この点は重要な論点なので次のノートでとりあげる。
両端に位置する共産党・社民党と日本保守党の得票率は小さく、両端にいくほど人数が減ることを反映している。
編集部より:この記事は田中辰雄氏のnote 2026年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は田中辰雄氏のnoteをご覧ください。







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