ITが苦手な高齢者に配慮は要らない

黒坂岳央です。

病院の受付で「今後はアプリで予約してください」と言われ、72歳男性が激怒した話が話題となっている。スマホを持っていないと告げると「ご家族にお願いしてください」と返され、憤慨したという。この手の話題はいちいちニュースにならないだけで、実際には全国あちこちで起きているだろう。

そして必ずと言っていいほど出てくるのが「高齢者は弱者なのだから配慮すべき」という意見だ。銀行の通帳有料化、コールセンターの自動音声対応、窓口削減なども同様に、「高齢者が置いていかれるのは可哀想だ」という声は多い。

だが筆者は主張したい、「ITが苦手な高齢者に配慮は要らない」と。自分は考えなしにいじわるで言っているのではない。これには複数の理由がある。

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配慮は他者の負担を強いる

「自分は弱者なのだから配慮しろ」という言葉はある種の暴力である。配慮される側は得をするが、それをする側は必ず損をする構図になっているからだ。

そもそも病院も銀行も、なぜアプリ予約や自動化に舵を切る理由は、現場の人手が足りないからである。

受付窓口を維持するには人件費がかかり、電話予約にはオペレーターが必要になる。紙の通帳を発行すれば印刷・物流・管理コストが積み上がる。つまり「我々のために有人対応を残せ」という要求は、突き詰めれば「そのコストを現役世代が払え」と言っているのと同じだ。

確かに高齢者は「フィジカル的な弱者」である。高齢者になると視力が落ち、指が震え、認知機能が衰える。これ自体は気の毒なことだ。

しかし、社会的・経済的な立場においては決して弱者ではない。医療費の窓口負担や税負担は現役世代より軽く、年金制度によって守られており、政治的影響力も絶大だ。「高齢者=社会的弱者」という前提は、現代の人口動態と社会保障制度の実態に即していない。

選挙では最大のボリューム層であり、政治的影響力も絶大だ。もちろん全ての高齢者が裕福なわけではないが、「高齢者=社会的弱者」と一括りにするのは、もはや現実を反映していない。

真の弱者とは、「逃げ場がない。負担が大きい。選択肢が少ない」人である。この条件に最も当てはまるのは、重い社会保険料を天引きされ続ける現役世代だ。

高齢者に配慮をする余裕があった時代は終わった。少子高齢社会で今後は現役世代の数は減り続け、配慮できるキャパは年々低下し続けている。今後もこのメガトレンドは既定路線だ。

まだなんとかなる内に早くDX化を進めるべきであり、いつまでも高齢者を配慮し続ける余力はもうないのだ。配慮できないのはいじわるではなく、限界なのだ。

ITについてこられないのは自己責任

よくこのように言われる。「高齢者はデジタル機器に弱いから配慮が必要だ」と。

しかし、それを言い訳に使うには苦しい事情がある。Windows95が出たのは30年前、iPhoneが出てもうすぐ20年が過ぎようとしている。現在70代の人が40代の働き盛りだった頃から、社会のIT化は叫ばれ続けてきた。つまり、新しい技術に適応するための移行期間は、すでに数十年も用意されていたという客観的事実がある。

長期間の変化を無視し続けた結果を「分からないから出来ない」の一言で現役世代に負担させるのは無理がある。十分に長い移行期間があった、というのが客観的事実である。

しかし、20年近く存在している技術を「今さら受け入れられない」という前提で、社会全体に配慮を求めるのは妥当だろうか。また、今どきスマホの使い方は学ぶことが出来る。書籍、動画、そして街のスマホ教室である。筆者の住む街にもスマホ教室があり、必死に学ぶ高齢者の姿もある。

筆者の親族はずっとガラケーから頑なに変えようとしなかったが、いざ孫が生まれたのを機にビデオ通話がしたくてあっという間にiPhoneユーザーになった人もいる。つまり、ITは年齢が決定的なのではない。意欲の問題だ。意欲の欠如を現役世代に負担させるのは無理があるだろう。彼らは「分からないから出来ない」というが、厳密には「やりたくない」と言っているのである。

高齢者への敬意を持つことと、システム維持のコストを現役世代に押し付けることは全く別の問題だ。筆者は祖父母にかわいがられたので、高齢者嫌悪の逆の感情を持っている。だが、自助努力を放棄し、周囲の配慮を当然の権利とする態度は、限界を迎えている現代社会において成立し得ない。

海外には「ついてこられない人は置いていく」のが普通の国もあるが、日本は高齢者に優しい国家だ。まだ余力がある内に、自分で学び時代についていく努力をする意識が必要なのだ。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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