フリードリヒ・メルツ独首相が24日から3日間の日程で訪中し、25日には北京で中国の習近平国家主席と会談する予定だ。メルツ氏の訪中と聞いて直ぐにアンゲラ・メルケル元首相の訪中を思い出した。メルツ氏もメルケル氏も共に「キリスト教民主同盟」(CDU)出身だ。メルケル氏は首相の任期16年間(2005~21年)で12回も訪中している。訪中の大ベテラン、といったところだ。
今月20日から2日間、第38回CDU党大会がシュトゥットガルトで開催されたが、メルケル氏も久しぶりに党大会に顔を見せていた。メルツ氏はメルケル氏に挨拶しているところがTVで放映された。その際、メルケル氏はメルツ氏に訪中の件で何らかのアドバイスを授けただろうか。

ドイツ・メルツ首相インスタグラムより
ドイツにとって中国は最大の貿易相手国だ。昨年、中国からの輸入が急増したことで、米国を追い抜いて再び最も重要な貿易相手国となった。2025年、両国間の貿易総額は約2,518億~2,530億ユーロ(前年比約2.1~2.7%増)に達した。その要因は、トランプ政権による関税措置でドイツの対米輸出が減少(前年比9.3%減)した一方、中国からの輸入(電気機器、データ処理装置など)が8.8%増加したことだ。 ただし、ドイツの輸出は9.7%減少、輸入は約8.8%増加した(ドイツ連邦統計局の発表)。
中国は世界市場のリーダーとなることを目指し、欧州の経済大国ドイツとの貿易関係に力を入れてきた。その結果、政府支援を受ける中国の製造業者は現在、ドイツ企業を国内市場から追い出してきている。その典型的な分野は自動車産業だ。例えば、ドイツの主要産業、自動車製造業ではドイツ車の3分の1が中国で販売されていた。2019年、フォルクスワーゲン(VW)は中国で車両の40%近くを販売し、メルセデスベンツは約70万台の乗用車を販売していた。
そのドイツの自動車産業がここにきて厳しい。中国の自動車会社がドイツ・メーカーより安価で品質も欧州車に負けない自動車を製造し、販売してきたからだ。ドイツ車の最大の購買先は中国市場だが、中国市場の競争が厳しくなってきた。特に電動車の分野で中国勢が急速に成長していることから、ドイツのメーカーは年々シェアを失ってきた。
中国製EVの急成長に恐れを感じた欧州の自動車産業界からの強い要請を受けた欧州連合(EU)欧州委員会は昨年12月16日、2035年から予定していたガソリン車などエンジン車の新車販売禁止措置を見直す方針を発表した。自動車製造王国のドイツではEU委員会の決定を歓迎する声が聞かれる一方、「EUと自動車メーカーは時間を稼いだと考えているが、実際は、中国メーカーは競争力をさらに強化するための時間を得たことになる。内燃機関の段階的廃止の終了は、ドイツの自動車メーカーにとって短期的にはプラスとなるが、長期的にはマイナスだ」といった専門家の声が支配的だ。
さて、本題のメルツ首相の対中政策だ。メルツ政権は経済安保の観点から中国依存からの脱皮を模索しているが、基幹産業(自動車、化学、機械)の収益が中国市場に深く根ざしているため、完全なデカップリング(切り離し)は現実的ではないと考えている。
メルケル氏は経済関係を深めれば中国も民主化・安定化するという考えが強かった。一方、メルツ氏は 中国を重要な市場としつつも、安全保障上の「競争相手」と定義し、過度な依存を避け、デリスキング(リスク低減)を推進。ドイツ企業に対しては「中国以外の市場(インドや東南アジア)」への分散を強く促している。そして中国に対しては、「公平な競争条件」を要求している。
西側指導者が中国を訪問した場合、経済協力が主要テーマであったとしても、中国の人権問題を無視して通過できない。中国共産党政権の少数民族ウイグル人への弾圧政策、法輪功信者たちへの弾圧と強制臓器摘発、宗教弾圧などの停止を中国首脳陣に訴えなければならない。
最近では、香港紙・蘋果日報(リンゴ日報)創業者の黎智英氏に対し、香港の裁判所は国家安全維持法(国安法)違反など3件の罪で禁錮20年の判決を下したばかりだ。ドイツのメディアもこの問題には強い関心があるだけに、メルツ首相は中国政府に再考を促すだろう。ホスト側が気分を害するから話さなかったとは絶対に言えない。経済関係優先のメルケル氏も会談の最後には人権問題に言及していた。
メルツ氏はウクライナ情勢に関連して中国によるロシアへの軍事転用可能な物資(デュアルユース)の支援問題を問い質したいところだ。中国はウクライナ戦争では中立を堅持し、キーウにもモスクワにも武器を供給していないと主張してきたが、中国製武器類が戦場で次々と発見されている。中国外務省は一貫して「紛争当事者への致命的な兵器(殺傷兵器)の供与は行っていない」と強く否定。発見された兵器については「関知していない」とし、軍民両用(デュアルユース)品の輸出管理は厳格に行っていると説明してきた。
「欧州の盟主」を自負するメルツ氏にとって、訪中は大きなチャンスだが、同時に、狡猾な中国外交の前に首相就任1年目にも満たないメルツ流外交の限界を感じる機会となるかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






