イラン攻撃をコスト面から考察する:日本の存立危機事態の可能性は(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷 昌敏

現在、米国は、ウクライナに対して520億ドル超の軍事支援、財政支援378億ドル、人道支援約 106億ドルと総計約1,004億ドル(約1兆5,780億円)という膨大な支援を行っている。ウクライナ戦争は、ロシア・プーチン大統領の強硬姿勢により、5年目に入ったが、停戦の目途が立っていない。

こうした中、2026年2月28日、米国はイスラエルと組んで、イラン全土に対して指導部・軍事拠点を狙う大規模攻撃を実施した。米国は、主にイランの核開発問題を挙げて攻撃に至ったものである。

この攻撃に動員された兵力は、現時点では原子力空母エイブラハム・リンカーン(USS Abraham Lincoln)を旗艦とした空母打撃群(Carrier Strike Group:CSG)が米中央軍(U.S. Central Command:CENTCOM)の管轄区域(Area of Responsibility:AOR)に入ったほか、原子力空母ハリー・S・トルーマンの空母打撃群(USS Harry S. Truman CSG) が紅海で展開を延長した。

(公式に参加しているのが確認されているのはリンカーンのみ。加えて原子力空母カールビンソンの空母打撃群(USS Carl Vinson CSG) が中東へ向けて展開中とも言われる)

※米中央軍の管轄区域

中東・北東アフリカ・中央アジア・南アジアにまたがる21ヵ国で構成され、米軍の戦略上もっとも不安定かつ重要な地域の1つ

トランプ大統領は、もうすぐ終わると言いながらも、イランの出方次第では地上軍の派遣もあることを示唆しており、今後の展開は不透明だ。

こうした大規模な作戦は、どれほどのコストを米国に課すものなのだろうか。

これまでも中東においては、複数の米軍の作戦が展開されたが、いずれも米国に大きなコストを強いてきた。主な戦争について整理してみる。

  • 湾岸戦争(1990–1991)
    イラクのクウェート侵攻を機に米軍が多国籍軍を主導し、イラク軍をクウェートから排除した。総費用は 約610億ドルだが、日本・サウジなど同盟国が約80%を負担したため、米国の実質負担は 約70億ドル前後 だった。
  • イラク戦争(2003–2011)
    米国が「大量破壊兵器保有」を理由にイラクを攻撃し、フセイン政権が崩壊した。戦後、イスラム国(IS)台頭へつながる。後日、イラクの「大量破壊兵器保有」は虚報であったことが判明した。総費用は約2.0兆ドル以上だが、退役軍人関連費用を含めると 3兆ドルを超える。
  • アフガニスタン戦争(2001–2021)
    9.11同時多発テロを受け、アルカイダ掃討を目指し、中東・南西アジア地域における米軍最大規模の長期戦になった。総費用 約2.3兆ドルは、 対テロ戦争全体の中で最大規模であった。

出典:Costs of War Project(ブラウン大学)

いずれも膨大なコストが米国にかかっているが、今回のイラン攻撃はどうなのだろうか。

米中央軍によれば、兵力5万人以上、戦闘機200機、 空母2隻(空母打撃群)が動員され、開始後約2000カ所を攻撃し、イラン艦船17隻を破壊したと発表された(各報道2026年3月4日)。

今回の海上戦力(空母・ミサイル・航空機中心)のみの攻撃の場合、どれほどのコストがかかるものなのか簡単に計算してみた。

通常、空母打撃群は、人員約7,500名、原子力航空母艦1隻、戦闘機など約70機、タイコンデロガ級巡洋艦1隻(防空指揮、空母護衛)、アーレイ・バーク級駆逐艦2~5隻(対空・対潜・対艦戦闘、巡航ミサイルトマホーク)、原子力潜水艦1隻程度(対潜、対戦闘艦、情報収集、特殊作戦支援、トマホーク攻撃)、補給艦1~2隻(燃料・弾薬・食料の洋上補給)で構成される。米軍の空母打撃群1個当たりの運用コストは1日約650万ドル(約10億3,000万円)~900万ドル(約14億3,000万円)ほどだ。

現実の作戦では、 2個空母打撃群と航空機、基地の航空機、ミサイルなどによる統合戦力で運用され、今回のイラン攻撃の場合は推定値だが、1日のコストとして、空母2群1,300~1,800万ドル、空軍機・ドローン約1,000~2000万ドル、基地・兵站約200万ドル〜500万ドルの合計1日当たり2,500万ドル(約39億5,000万円)~4,000万ドル(約62億5,000万円)ほどかかるとみられている。

こうした数字はあくまでも仮定の運用コストだが、長期化し陸上戦力を投入するような事態になれば、ミサイル、ドローン、弾薬の大量消耗、戦車、航空機、艦艇の損失、死亡・重軽傷者の増大はウクライナ戦争への兵器支援も抱える米国を大いに苦しめることになる。米国としても長期化は最も避けたいシナリオのはずだ。

日本の対応は

一方、日本政府は、いち早く今回の攻撃を「存立危機事態ではない」としたが、存立危機事態の定義は、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生」「そのまま放置すれば日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由が根底から覆される明白な危険」「他に適当な手段がない」の3項目だ。

今後、「ホルムズ海峡の完全封鎖が長期化し、代替手段がなくエネルギー供給が途絶する」「米軍がイランと全面戦争に入り、米軍が攻撃されて、米軍から日本に後方支援を要請される」「日本のタンカーが攻撃される」などの事態になれば、それは「武力攻撃事態」または「存立危機事態」となる可能性がある。日本にとって、今回の事態は決して対岸の火事ではないのだ。

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学特任教授(危機管理論)。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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