「なんでもあり?」ニデック不正会計入門

ニデック元会長の永守氏は、自身が去った後のニデックを「白いキャンバス」と表現した。次世代を担う者たちが「白いキャンバス」に歴史を描き始めるのだという。

白い? 冗談じゃない。第三者委会員報告書を見る限り真っ黒だ。本稿タイトル「なんでもあり」は誇張ではない。不正は売上関連だけでも

  • 支払合意がなくても売り上げる
  • 製品が引き渡せなくても売り上げる
  • 実質「借入」でも売り上げる
  • 不良品でも取り消さない
  • 回収できなくても取り消さない

など、なんでもありだ。売上以外にも「空っぽの段ボールを資産計上する」「入力ミスでも利益増なら訂正しない」など、ここまでやるか? という事例が並ぶ。ニデックはこれら細かい不正を「1397億円」の影響額にまで積み上げた。ニデックの三大精神「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」が、「不正をやる」に向かってしまったのではなかろうか。

本稿では、報告書に記されたニデックの不正手法のうち、費用の先送り・隠蔽の手法を解説する。まず、費用の先送りからみてみよう。

ニデック公式チャンネルより

費用の先送り

費用を先送りするにはどうすれば良いか。(ニデック含む)メーカーならではの方法がある。

「モノを作ったことにすればいい」

のだ。たとえば、モノを作る部門の従業員の給料は、給料を払った期の費用にはならない。モノが売れた期の費用になる。人件費だけではない。原材料費はもちろん、工場の賃借料・光熱水費なども同じ。一旦は「製品」「仕掛品」などの資産になり、売れた期に「売上原価」として費用になる※)

※)主に直接製造にかかわった者 その企業の原価計算方式により異なることがある

よって、より多くの費用を先送りしたければ、「モノを作らない部門」の人たちも作ったことにすればいい。そうすれば、その人件費を来期以降に先送りし、当期の利益を多く見せかけられる。

ニデックの関連会社では、試作品開発部門の人件費のほか、品質改善活動費、生産準備費などを「製品」「仕掛品」などの資産に計上し、費用計上を先送りし、当期の利益を多くみせかけた。

派生版として、こんな方法もある。

「設備や工具を作ったことにすればいい」

例えば金型(金属などを成型するための型枠)だ。すでに使い終わった金型を、当期作ったことにして、その分の従業員の給料を「工具」などの固定資産にしてしまう。

固定資産なので、全額が当期の費用にならず、減価償却費として複数年にわたり費用になる。耐用年数が2年なら、半分だけが当期の費用になり、もう半分は来期の費用になる。この方法でも、費用計上を先送りし、それぞれの期の利益を多くみせかけられる。では、何を作ったことにしたのか? これも「なんでもあり」だ。

  • 減価償却が終わった固定資産
  • 顧客から預かった金型(顧客に所有権がある)
  • 購入した金型
  • 記帳漏れで固定資産台帳に計上されていなかった資産

中には、減価償却が終わり古く錆びついているのに「作りたて」の金型もあったという。

当然、バランスシート(貸借対照表)の「製品」「仕掛品」「固定資産」の額は実態を表さない。ニデックでは、不正会計により、実態と額が大きくかけ離れた資産を「負の遺産」と呼んでいる。「負の遺産」が放置できたのは、隠蔽により表ざたにならなかったからだ。その隠蔽の事例を二つみてみよう。

隠蔽の手法

一つ目は、自社の経理部門での隠蔽である。

あるニデック関連会社は、複数のサプライヤー(仕入元)に「将来返金することを前提」に特別協力金を請求していた(将来返金するお金、すなわち負債である。当然、収益や費用のマイナスにはできない)。

この取引に合意しないサプライヤーもいたことから、以下二つの書面を作ることにした。

  1. 協力金に合意したという「合意書面」
  2. 「合意書面を解除したという」書面

合意しなかったサプライヤーも、「2」によって特別協力金を支払う必要がなくなるため承諾したと思われる。

同社は、この特別協力金の額を売上原価からマイナスして利益を多く見せかける一方、経理部門に対しては、二つの書面のうち「1. 協力金に合意したという合意書面」だけしか提出せず、実質「負債」であることを隠蔽した。

二つ目は、会計監査法人に対する隠蔽である。

あるニデック関連会社は、外注業者に対し技術サポートを行ったとして「開発協力金」5億8000万円を受け取る旨の覚書を取り交わそうとした。

だが、外注業者は、

「寄附金に該当する可能性がある」
「高額な(サポート)作業の実態が証明できない」

と応じなかったため、ニデック関連会社は覚書(裏付け証憑)がないまま、「役務収益」として計上した。ニデック内部資料には、「人数は適当」「5億8000万円にするには、ここの人員を大きくするしかない」といった記載があり、実態が無かったことが窺がえる。

その後、ニデック関連会社は、外注業者と以下2つの書面を取り交わした。

  1. 「業務委託契約書」(金額記載無し)
  2. (債権債務関係がないことを確認する)「業務委託契約書に関する補足契約書」

ニデック関連会社は、「1. 業務委託契約書」の別紙に金額5億8000万円を「追記」し、会計監査法人(PwC京都)に提出する一方、「2. 業務委託契約書に関する補足契約書」は提出しなかった。

「負の遺産」の清算

これらの事例から、都合の良いものだけを見せ、都合の悪いものは隠すという体質が窺がえる。かつて、買収対象企業の在庫評価方法や、設備の耐用年数の違いを補正し、BSを再構築していた永守氏はどこに行ってしまったのか。

永守氏は、「ニデックという私の物語は終わり」だという。いや、まだだ。

3月11日には、アクティビスト(物言う株主)オアシス・マネジメントが、「退職者を含む役員、特に永守氏への責任追及はきわめて重要」との声明を発表。13日には、ニデック取締役会で永守氏(含む役員)の法的責任を調べる「役員責任調査委員会」設置が決議されている。

私が静かに去ることで生まれるこの空白は、ニデックの次世代を担う者たちが新しい歴史を縦横無尽に描き始めるための「白いキャンバス」になるのです。

すべてのステイクホルダーの皆さんへ~ニデックの新しい幕開けのために~

ニデックに残る人たちの最初の仕事は、「白いキャンバス」に新たな歴史を描くことではない。「負の遺産」を清算し、キャンバスを真っ白にすることだ。

【参考】
・ ニデック 第三者委員会調査報告書 他

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