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「とりあえず、これ読んでおいて」
正直に言う。この言葉を聞くたびに、腹の底がざわつく。
人材派遣の営業をしていた頃、何度この光景を見たことか。入社初日、期待と不安でガチガチになった新人が席に着く。目の前にドサッと置かれる分厚い資料。
『新人社員が職場に定着する入社初日の魔法』(瀬戸山孝之 著)WAVE出版
そして、この一言。それきり、誰も声をかけない。周りは忙しそうにキーボードを叩いている。新人はページをめくるふりをしながら、実際には何も頭に入っていない。当たり前だ。
「とりあえず」の正体とは
この「とりあえず」、翻訳すると「今あなたに構っている暇はありません」である。もっと言えば、「しばらく黙って時間をつぶしていてくれ」だ。
歓迎? どこが。これは放置という名の、静かな拒絶だろう。
いや、悪気がないのはわかる。本当に忙しいのだろう。準備が間に合わなかったのだろう。でも、それは受け入れる側の都合であって、新人には関係ない。
彼らはこの数時間で、「この会社に自分の居場所があるか」を全身で感じ取っている。
実際、初日に放置された新人が早期離職するケースを、私は何度も見てきた。彼らが言うことは、だいたい同じだ。
「歓迎されていないと感じた」
「自分は必要とされていないと思った」
たった数時間の体験が、退職届に変わる。大げさじゃない。本当にそうなのだ。
資料を渡すならこう言え
別に資料を読ませること自体が悪いわけじゃない。問題は渡し方だ。たとえばこうだ。
「まずは2ページから30ページまで読んでみて。30分くらいで読めるから、そのあと一緒に確認しよう。わからないことがあれば遠慮なく聞いてね」
読む範囲、所要時間、フォローの約束。たったこれだけで、「あなたのことを気にかけていますよ」というメッセージになる。
新人は上司や先輩の些細な言葉や態度を、こちらが思っている以上に見ている。というか、それしか見るものがないのだから当然だ。おもちゃコレクターの北原照久さんがこんなことを言っている。
「心は聞いた言葉でつくられる。未来は話した言葉でつくられる」
入社初日の一言が、その人の未来を変える。大げさだと思うだろうか。でも、あの日放置された新人たちの顔を思い出すと、私にはそうは思えない。
ひとつだけ、付け加えておきたい。「とりあえず」を言ってしまう側もまた、かつて同じことをされた経験があるのではないか。放置の連鎖は、意識しなければ止まらない。だからこそ、あなたの代で断ち切ってほしいのだ。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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コメント
私は今まで歓迎されていない、放置されたり期待されていないと燃えるタイプです。
あまり構われたくない。
「経験者だから要領わかりますよね?」とかすごく好きです。だからじゃないけど新人の人に寄り添う事が難しいかもしれません。とりあえず、これやってもらおうか、と言われたらすごく嬉しい。とりあえずから道が開ける感じがします。私がよく使うのは「なるべく」です。
たとえばどういう風に言うかというと
「なるべく他の皆さんのストレスにならないように気をつけて」みたいに。
1人前の大人の社会人として扱ってあげるのがスマートだと思います。