黒坂岳央です。
コロナ禍で本格化したリモートワークから6年が経過した2026年、現在は世界的にオフィス出社回帰の流れが強まっている。アマゾン、JPモルガン、ゴールドマン・サックスといった大企業が相次いで週5出社を義務化しており日本企業もそれに続く格好だ。
リモートワークはいまや「生産性向上ツール」ではなく、優秀な人材を引きつけるための「福利厚生」へと位置づけが変わったことは疑いようもない。
そしてアメリカ人は「給与よりリモートワーク」を優先する。FlexJobsの「State of the Workplace 2026」レポートによれば、4000人超のアメリカ人回答者のうち、リモートワークの選択肢を最優先する福利厚生に挙げた割合は24%で、より高い給与の21%を上回った。
現在の仕事にとどまるか転職するかを判断する際の優先順位でも、リモートまたは柔軟な働き方が35%で1位、給与と福利厚生の33%を抑えてトップだ。
アメリカ人はいま、給料よりリモートワークを選んでいる。日本人はどうだろうか。考察する。

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アメリカ人がリモートワークを希望する理由
そもそも、アメリカ人がリモートワークを希望する理由はなんだろうか?「自分のペースで仕事ができるから」「通勤時間を節約」という意見が出そうだが、それは労働者側からの一方向の視点に過ぎない。
サボらせるために社員を抱える会社はこの世にないので、パフォーマンスが悪ければ当然に失業するだけだ。つまり、アメリカ人がリモートワークするのは「パフォーマンスを出しつつ、通勤時間の節約やプライベートの充実ができるから」とワークライフバランスを考えてのことだ。
アメリカは成果主義・ジョブ型雇用の国である。職務内容と期待成果が契約で明確に定義されており、リモートで成果が出なければ解雇される。会社側から見れば「結果が出なければ終わりにすればいい」という損切りオプションがあるため、リモートワークが機能しやすい。
そもそも、世界的にリモートワーク解除の流れが起きている今、リモートを条件に交渉できること自体が、その人の市場価値の高さを示している。優秀な人材がリモートを求め、企業がそれを飲む。その代わり会社の求める結果を出す。これがアメリカで起きている動きだ。
日本でリモートワークの定着が難しい理由
一方で我が国ではメンバーシップ型雇用の会社が主流である。職務の境界が曖昧で、評価は成果よりも「どれだけ貢献しているか」という定性的な判断に依存しやすい。
営業職はまだマシで売上という数字で評価される。だが管理部門、総務、経理、法務といったバックオフィス職種はどうだろうか。「何をしているかが見えない」「余剰はカットしろ」となりやすく、管理職は評価の根拠を失う。評価できないものを許可することは、日本型の組織運営においてリスクでしかない。
これは日本特有の文化の問題ではなく、雇用制度の問題だ。日本がオフィス回帰を進めているのは「昭和的な管理職が変われないから」という精神論ではなく、評価制度とセットでリモートを設計していないという構造的な理由によるものだ。制度を変えないままリモートだけ導入しても機能しないのは当然だろう。
SNSを見るとわかるが、「リモートワークでどれだけ結果を出したか」といった投稿より、「どれだけバレずにサボったか」「業務を自動化して副業で稼げたか」といったチート的文脈ばかりが発信されている。
アメリカでは結果を出さねばクビを切られる自浄作用があるので止まりやすい。だが、一度正社員雇用すると簡単に解雇できない日本では地雷社員を抱えると会社が沈む。この違いは決定的に大きい。
ホルムズ紛争でもリモートワークしない日本
日本でリモートワークが進みにくいもうひとつの要因がある。それはエネルギーコストだ。
現在、イラン問題をめぐる地政学的緊張が続き、ホルムズ海峡の不安定化懸念から原油価格は高止まりしている。東南アジアでは通勤コストが大きな問題となっており、リモートワークや週休3日制の導入を検討する企業や国が出ている。車社会の国において、毎日のガソリン代は無視できないコストだ。
だが日本の状況は異なる。政府はガソリン補助金を継続しており、価格上昇の直撃を緩和している。さらに都市圏では電車通勤が圧倒的主流であり、そもそもガソリン価格の上昇が通勤コストに直結しない。
他国でリモートや週休3日が「経済的合理性」として語られる文脈が、日本ではそのまま成立しないのだ。
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日本企業がオフィス回帰を選択しているのは、時代遅れでも後進でもない。日本の文脈において、それは現時点では合理的な判断に見える。
ただし、ひとつだけ懸念がある。それは優秀な人材が、その構造に満足し続けるかどうかだ。特に今の時代はボーダーレスで仕事は動く。日本の優秀層が国内企業より、「フルリモート+ドル建て」の外資を選べば日本の労働力のさらなる減少につながるだろう。
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