
マーケティングは、手間がかかる定型業務が意外と多い仕事です。
大量の情報を分析し、膨大な顧客情報を整理して、ターゲット顧客に刺さるメッセージを作るなど、やり始めるとキリがありません。クリエイティブに見えて、コピペ作業も意外と多かったりします。
こうしたマーケティング業務を劇的に効率化したのが、AI企業アンソロピックのマーケティング担当者オースティン・ラウさんです。
2026年1月26日、アンソロピックは「ラウがAIを駆使して広告制作を30分から30秒に短縮した」というブログを掲載して話題になりました。

ちなみにラウさんは、同社でグロース・マーケティング担当として、製品認知の拡大を図るために、社内の膨大な情報を集約して日々様々なキャンペーンを仕掛ける仕事をしています。
そんなラウさんの仕事で常に発生するのが、グーグル広告です。
グーグル広告では、製品マーケティングやブランドのチームが作った膨大な情報を参考にして、ターゲット顧客に刺さりそうな広告を15種類作り、それらを数週間毎に更新し続ける必要があります。
このために、広告メッセージ案を何十種類も考える必要があります。手間がかかる作業です。
引用先のブログによると、ラウさんはAIを駆使し、この作業を劇的に効率化しました。
では、どうやって効率化したのか?
当初ラウさんがやっていたのは、同社の製品マーケティングやコピーライティングのチームが既に作っていた製品情報・ブランドルール・既存コピー案などを探し出して、読み込んだり手作業でコピペして、グーグル広告案をいくつも考え出す、というやり方です。一つの広告に30分かけていました。
でも考えてみたら、広告案のベースとなる情報は既にあります。
ラウさんは「何がいい広告か」を知っていますし、ネット広告の知識も多少は活かせますが、こうして見ると定型作業が多いですよね。
そこでラウさんは、同社のAI(Claude Code)を使って、AIが様々な情報を読み込み、広告案やデザイン案を出力する仕組み(具体的には、デザインツールFigmaのプラグインや、Google広告案のCSVファイルを出力するワークフロー)を作りました。
こうしてラウさんの仕事は、30分のコピペの手作業から、AIが出力した広告案から、自分の経験に基づいて「ターゲット顧客に何が刺さるか」を判断して選ぶ30秒の業務へと、劇的に効率化したのです。
ちなみにラウさんは技術的な知識はなく、かつてAIを使う時はエンジニアに依頼していたほどでした。
しかし社内エンジニアチームが作ったClaude Codeのインストールガイドを読み、コードを書かずに、まず簡単な計算機アプリを作るところから始めました。
その後、「自分のこのマーケティング業務を自動化してほしい」とAIと対話しながら、この仕組みを作りあげて、実際に成果を出しました。
こうしてラウさんは、ただ広告を回すだけの担当者から、自分で仕組みを作れるマーケターに進化して、この経験を社内に拡げています。
こうした事例から、AI時代のマーケティングのあり方が見えてきます。
① 情報を組み合わせるだけの作業は、AIにお任せ
既存の情報を組み合わせてAIで広告案を出力するように、形式知を繋げるだけの単純な定型作業は、AIで自動化できます。ここは人間よりもAIの方が圧倒的に速い領域です。人手で抱え込むよりも、まずAIに移せないかを考えるべきです。
② あいまいでモヤモヤした作業は、人がやることの価値が上がる
意味づけ、身体知の深掘り、関係者との利害調整といった作業はマーケティングに限らずビジネスで重要な仕事ですが、AIは苦手です。こうした人間にしかできないような「あいまいな作業」の価値は大きく上がりますし、時間もかけられるようになります。
③AIを活用するために、言語化能力を磨くべし
「定型作業はAIに任せろと言うけど、ウチは体制が整っていないよ」という人もいるでしょう。
そこで必要なのが、言語化をキッチリやることです。
同社の製品マーケティングやコピーライティングのチームは、自分たちが考える「アンソロピックらしさ」を、ブランド戦略、ブランドや製品のメッセージ、製品情報という形式知に言語化していました。
またラウさん自身も、自分がやっている業務のフローを細分化した上で、自分が困っている部分を特定し、自動化したい部分をAIと対話しながら仕組み化していきました。ここで必要なのも、自分の業務の言語化です。
さらにラウさんは自身のマーケターとしての経験に基づいて、広告でアピールできるように「何がいい広告か」「何がNGか」を言語化して、AIに実装していたようです。
こうして自分たちの知識(暗黙知:言葉にしにくい直観や経験知)を形式知化する言語化能力が、AIを活用する上で前提条件になります
④ AIからの学びも重要になる
自分の学びを深めて、知識(暗黙知)を増やすパートナーとしてAIを活用すべきです。ラウさんもAI活用によって、自身のスキルレベルを大きく上げました。
以上から学べるポイントは、大きく二つに集約できます。
一つ目は、定型業務の劇的な効率化です。ラウさんがAIで劇的に業務を効率化したように、同社のデジタルマーケティングチームも、AIで生産性を5倍に向上させたそうです。
もう一つは、人間の知識(身体知や暗黙知、言語化能力)が重要になることです。ラウさんも、AIが出力したコピー案が適切か否かを判断する段階で、マーケターとして研ぎ澄ました身体知と暗黙知を発揮されています。さらにAI実装には、言語化能力を鍛えることが前提条件になります
つまり「AI時代は、効率化が進み、人間の知恵が重要になる」という世の中でよく言われていることが結論ですが、こうして解像度を高めて考えることで、自社でいかにAIを実装すれば良いかが見えてくるのではないでしょうか?
ちなみに野中郁次郎先生は、日経ビジネス2021.3.15号の記事『世界の最新経営理論 野中郁次郎の「人間的」経営論⑨』で、こう述べました。
「そもそもデジタルとアナログは一見、相反しているように見えるが、実は相互補完的な性質も持っている」
AI時代こそ、AIを駆使することで、人が持つ様々なアナログ系の知識の価値が高まっていくのです。
AIはマーケティング業務を代替するのではありません。
マーケティング業務を「手を動かして量をこなすこと」から「仕組みを作り、判断し、改善サイクルを回すこと」に移行させるのです。
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年3月31日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







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