イランにホルムズ海峡を占領する権利はない。中国にも東シナ海を支配する権利はない。
この大前提を踏まえたうえで、既に一部進みつつある政策を、高市政権にはさらに加速してほしい。これらは戦争するためではない。対策を事前に講じることにより、中国に実行をとどまらせる抑止力になるものだ。重要なことは、武力行使させないことだ。
高市政権に進めてほしい「航行の自由を守る」という概念は、単なる中東タンカー護衛にとどまらない。それは、台湾有事、尖閣、そして日本のシーレーン防衛を一体の戦略として捉える発想である。

中東情勢に関する関係閣僚会議に出席する高市首相
首相官邸HPより
日本経済の生命線としてのシーレーン
日本のエネルギー輸入と貿易の大半は、ホルムズ海峡 → インド洋 → マラッカ海峡 → 南西諸島沖 → 太平洋という一本の海上ルートに依存している。
このルートが止まれば、日本経済は即座に機能不全に陥る。
だからこそ、中東危機と台湾有事は「別々の問題」ではなく、日本の国家存立を揺るがす一連のリスクとして理解すべきである。
米国の諜報機関は最近、「台湾有事の危険は当面高くない」との評価を示した。
しかし、過去20年の中国の行動を見れば、安心できる状況ではない。危機は「起きてからでは遅い」。これが現実である。
高市政権が進めるべき「航行の自由」戦略とは、
①中東のエネルギー輸送路、②台湾周辺・尖閣を含む東シナ海、③それを支える日米同盟の軍事インフラ。
この三つを一本の戦略線として守ることである。
台湾有事シナリオ:海上封鎖と尖閣占領
専門家の分析では、台湾有事は単なる「台湾本島への上陸戦」ではなく、複合的なシナリオとして進む可能性が高い。
シーレーン封鎖シナリオ
・台湾海峡・バシー海峡・宮古海峡を中国海軍・海警が事実上封鎖
・日本向けエネルギー・貨物の大動脈が遮断
・日本経済は短期間で深刻な打撃
尖閣先行・同時占領シナリオ
・無人の尖閣は「低コスト・高効果」の既成事実化ターゲット
・東シナ海の制海権・資源支配を中国が主張
・日本の実効支配が崩れ、シーレーンへの圧力が恒常化
長期封鎖+消耗戦シナリオ
・台湾・日本への海上封鎖が長期化
・エネルギー・物流・半導体供給が世界規模で混乱
・世界GDPが一時的に1割減という試算もある
東京大学・松田康博教授らが指摘するように、海上封鎖は全面侵攻に先立つ「事実上の戦争行為」である。
バシー海峡や宮古海峡が封鎖されれば、日本は即座に存立危機に直面する。
これは「台湾の問題」ではなく、日本自身の問題である。
「海上回廊」と航行の自由作戦(FONOPs)
高市政権が構築すべき「海上回廊」とは、有事でも日本にエネルギーと物資を届けるための安全な海上ルートを確保する構想である。
中東側
・ホルムズ海峡・紅海情勢の悪化に備え
・米欧・湾岸諸国と連携
・護衛、迂回ルート、備蓄を組み合わせて「エネルギー回廊」を維持
東アジア側
台湾周辺・南西諸島での封鎖を想定し、
・自衛隊・米軍による護送船団方式
・機雷除去・対潜戦能力の強化
・有事の代替港湾・代替ルートの事前設計
これらを組み合わせて「日本向け海上回廊」を確保する。
米軍のFONOPs(航行の自由作戦)
米軍は国連海洋法条約の原則に基づき、南シナ海などで航行の自由作戦を継続している。
台湾有事では、
・封鎖海域への進入・突破を試みる護送船団の護衛
・制海・制空権の確保
・ISR(情報・監視・偵察)とミサイル防衛
が米軍の中心的役割となる。
自衛隊は、
・南西諸島周辺での対艦・対空・対潜戦
・日本船舶・港湾の防護
・機雷除去・後方支援
・在日米軍基地の防護
を担う。
これら全体を「航行の自由を守る作戦」として統合することが、中東から台湾周辺まで連続した海上秩序を維持する鍵となる。
対米依存の強化という現実
台湾封鎖シナリオの多くは、米軍が介入しない場合、封鎖突破はほぼ不可能という結論を示している。
・CSISのウォーゲームでは、米軍不介入の場合、輸送船の約4割が撃沈
・日本が中立を維持しても、数千人規模の死傷者が出る試算
・日本は非核三原則のため、核抑止は米国の「核の傘」に依存
台湾が併呑されれば、次は日本が標的になるという懸念もある。
日本が米国を支援しなければ、米国が日本防衛から手を引くリスクも指摘される。
高市政権の路線は、「対米依存を前提に、その依存を戦略的に使い切る」という方向に近い。
自国防衛の強化:日本が自前で持つべき力
対米依存を前提としつつも、「すべて米軍任せ」は抑止力を弱める。
だからこそ、日本が自前で強化すべき能力がある。
・南西諸島防衛・島嶼防衛能力
・長射程ミサイル、レーダー、基地分散
・住民避難とインフラ強靱化
・護衛艦・潜水艦・哨戒機の増勢
・機雷戦能力の強化
・商船隊運用・護送船団方式の整備
・基地の分散・地下化
・エネルギー・食料・医薬品の備蓄
・法制度の迅速化(存立危機事態の認定など)
問われているのは、「米軍が来るまで耐える力」と「米軍と並んで戦える力」をどこまで自前で持つかという、極めて具体的な選択である。
まとめ:イラン情勢と台湾有事は「同じ問題」である
高市政権の「航行の自由」論の核心は、イラン情勢と台湾有事を別々の危機ではなく、日本の海上生命線をめぐる一つの戦略問題として捉える点にある。
・中東危機は日本のエネルギー供給を直撃
・台湾有事・尖閣・海上封鎖は日本の貿易・安全保障を同時に揺るがす
・対米依存は「選択肢」ではなく「前提」
・そのうえで日本が自前で強化すべき防衛力を明確にする必要がある
そして何より、国内でトランプ批判の大合唱をしている余裕など、日本にはない。現実の危機に備えることこそ、政治の最優先課題である。







コメント