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不動産市場は、しばしば単純な「価格の上下」で語られる。しかし実態ははるかに複雑である。例えば地価公示は、あくまで平均的な基準値に過ぎず、実勢価格は立地条件、用途等の個別条件によって大きく異なる。さらに、同一エリアであっても、不動産ごとに値動きの方向やスピードは一致しない。
こうした現実を前提にすると、企業にとってより本質的な問いが浮かび上がる。
企業は、自社の不動産について何を基準に評価し、どう意思決定すべきなのか。
多くの企業では現在も、簿価、固定資産税評価額、地価公示といった指標が不動産の価値評価の判断材料として用いられている。もちろん、これらの指標が無意味というわけではない。しかし、これらはいずれも「会計上」あるいは「制度上」の指標であり、その不動産が企業価値にどのように貢献しているのかを直接示すものではない。
不動産戦略を考えるうえで、問うべきは別の視点である。
不動産の価値は「収益力」で決まる
不動産の本質的な価値は、「その資産が将来にわたって生み出す収益」によって規定される。
これは不動産評価の基本である「収益還元」の考え方であり、同時に企業価値評価とも共通する原理である。賃貸不動産であれば、賃料収入から運営コストや空室リスク等を差し引いた純収益が価値の源泉となる。
企業不動産も同様だ。重要なのは「いくらで取得したか」や「今いくらで売れそうか」ではなく、
- 事業活動にどの程度貢献しているのか
- キャッシュフロー創出にどう寄与しているのか
- 投下資本に見合うリターンを生んでいるのか
という点である。
言い換えれば、「不動産も企業も、価値は“価格”ではなく“稼ぐ力”で決まる」ということになる。
「価格」で見る判断の危うさ
実務の現場では、不動産はどうしても「価格」で語られがちだ。「この土地はいくらか」「含み益はいくらあるか」といった議論は分かりやすい。一方で、それだけでは戦略的な判断には至らない。なぜなら、価格はあくまで一時点の結果に過ぎず、その資産が企業にもたらす継続的・将来的な価値を示していないからである。
例えば、都心に高額な本社ビルを保有していたとしても、その不動産が事業効率・資本効率を下げていたり、過剰な資本を固定化していたりするのであれば、経営資源として最適な活用法とは言えない。一方、帳簿上の評価が低くても、安定的に高い収益を生み出している不動産は、戦略上きわめて重要な資産となり得る。
ここにあるのは、「価格と価値は必ずしも一致しない」という不動産戦略の出発点である。
不動産を「経営資本」として捉え直す
不動産戦略において求められるのは、不動産を単なる保有資産ではなく、「経営資本として再定義する視点」である。
不動産は、事業活動を支えるインフラであり、キャッシュフローを生み出す源泉であり、財務・資本戦略とも密接に結びつく存在だ。したがって、その評価軸は価格ではなく、収益性、資本効率、そして経営戦略との整合性でなければならない。
- 遊休不動産の活用や売却
- 低収益資産の用途転換
- 事業に不可欠な不動産の再配置
これらはすべて、「いくらか」ではなく「何を生み出しているか」「何を生み出し得るか」を基準にした判断である。
不動産戦略は「収益」を起点に始まる
企業が不動産を戦略的に扱うためには、「その不動産が生み出す収益と、その可能性を起点に考える」ことが欠かせない。
価格の変動に一喜一憂するのではなく、投下資本に対するリターン、代替手段との比較、全社戦略における役割を冷静に見極める。そのとき、不動産は「固定資産」ではなく、「継続的に見直し、再設計されるべき経営資源」として位置づけて考えるべきである。
次回:不動産をどう再設計するか
では、企業は自社不動産をどのように整理し、どのような軸で再設計すべきなのか。次回は、収益性と資本効率の観点から不動産を分類し、戦略的意思決定へとつなげるフレームワークについて掘り下げていく。







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