先日、隣のマリーナに停泊しているボートのオーナーから「今夜、集まりをやるので来ないか?」と誘われ、他の用事があったのでちょっとだけ顔を出すことにしました。氏の持つ船は95フィート、プレジャーボートとしては相当の大型、買えば10億円はするでしょう。独身の氏は週2回ぐらいの頻度で10人程度を呼んでパーティーを続けているそうです。その氏が「これが今日のディナーの主役だよ」と見せてくれたのが㌔当たり2万円もする和牛の塊でざっと10㌔はあります。
氏が自ら調理し、ワインをふるまい、至福の時を過ごすのでしょう。残念ながら和牛を頂く時間はありませんでしたが、氏が言うのは「レストランなんていけないよ。高いし、大したもの出てこないし、時間的制約や空間的制約がある。ここなら何時までいてもよい」と。
私は氏に思わず、ほぼ失言で「あなたはギャツビーのように見える」と言ってしまったところ、「グレートギャツビーか?ははは」と複雑な笑いで返されたのであります。
金持ちはケチである、と言われます。それは1セント単位まで管理できること、対価として支払うその金額が妥当であるか見抜く力があること、価値があると考えればいくらでもそこに資金を投じやすいことなどが特徴だと思います。ケチに見えるけれど使うところでは使っているわけでくだらないモノには消費しないということだと思います。
先般、イベント出店をしていて改めて思ったカナダの消費癖。初めに来店してくれた時には一通り舐めるように商品を吟味し、一旦立ち去り、2-3時間後に再びやってきて購入される方が多かったことであります。衝動買いをしない、この傾向がここにきてより強まったと思います。グローサリーショッピングのように買うものが決まっている場合はサッサと買うものをカートに放り込んでいきますが、イレギュラーなものを購入する場合はより慎重になり、「比較買い」が顕著になってきています。
事実、私も先日、夏の洋服を買いに出かけたのですが、はじめの店でそこそこ気に入った服を見つけたのですが、あえて買わず、他の店を4‐5軒回り、試着したりかなり悩んで「やっぱり一番先の店の商品にする」と決めて戻って購入しています。
お仕着せの消費への疑問は確かに出てきています。レストランで食事をすることは楽しいのか、と言われれば会話をする場所や雰囲気として選び、食材への期待はそこそこであります。私の中のレストランの定義はソーシャライズするところであり、食事をするという意識が薄くなってきているのです。食事なら食堂や家で作るので十分なのです。
ショッピングをつまらなくさせた一つにアマゾン効果はあると思います。あれだけの商品構成で今やそれを使うのが日常的となれば買い物に行く行為、店を探す努力、そこに在庫がないことを知った時の脱力感や失望感からの解放は世界の人のアマゾンをはじめとするオンラインショッピングに魔力すら感じたわけですが、一方で街中からは小売店舗が一つ、またひとつ減って行っているのです。バンクーバーの繁華街に行けばFor Leaseの看板だらけ、かつては一等地ならすぐにテナントも埋まったけれど今や空きっぱなしの店舗スペースがごろごろしています。
レストランを新規で開業するには「空(から)家賃」をどれだけ払うか、という話になります。新規リースをして契約交渉の末、大家から貰える賃料無料期間は3か月程度。それに対して設計士に図面を書かせ、市から工事許可を得て内装工事を完了するのは1年から1年半はざら。つまり、多くのレストラン新規開業者は1年前後、売り上げゼロの期間の家賃を大家に払い続けているのです。ダウンタウンなら賃料や共益費の合算で月15000㌦程度はしますから、1年払えば円換算で2000万円は軽く超すのです。これに設計費や工事費と別にかかると思えばレストラン事業はリスクの塊と言われ銀行融資もかなり厳しい中で誰もビジネスを立ち上げられないのが実情なのであります。
先日新規に開業したおしゃれなパン屋。冷やかしに入ってみてたまげたのはマルチグレーンの食パンが一斤16㌦(1800円)だったこと。えぇ、一桁多いと思ったのは私だけではないでしょう。そんなパン、誰が買う、ですよね。結局、開業費、人件費、材料費を考えるとこんなバカげた値札しかつけられない社会構成になってしまったのです。
とすれば冒頭の金満氏が「レストランになんていけないよ」という意味が改めてよくわかるわけです。悪循環と言えば悪循環。新しい消費スタイルと言えばその通り。いずれにせよとばっちりを受けるのは従来型のビジネスをしている事業者ということでしょう。世の中の移り変わりは本当に激しいと感じます。
では今日はこのぐらいで。

west/iStock
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年4月27日の記事より転載させていただきました。







コメント