ファンサブ(マンガの海賊版)についての調査

Palto/iStock

はじめに

海賊版がネットで論争になっている。事の起こりはXに自動翻訳機能がはいったことにより、海外で漫画の海賊版が出回っていることが日本語話者に露わになったことである。

海外では昔から海外で流通していない漫画をじぶんたちで翻訳して流通させるファンサブというのが行われており、広く普及していた。ファンサブで訳した漫画は著作権者に許諾をとってはいないので著作権法上は違法になり、いわば海賊版になる。しかし正規版が出ていない作品も多く、出ていても非常に高価であったり、翻訳の質が悪かったりして、漫画を読みたい海外の人には満足できる状態ではない。

かくして、多くの漫画が無許諾のまま翻訳されて流通していた。ファンサブは海賊版であり、違法ではあるが漫画の普及に役立っていると自負する人すらあった。

言葉の壁がとりはらわれ、これがあらわになると、日本人の中から海賊版は著作権者の権利を侵すものであるとして非難する論調が現れた。海賊版は無許諾であるので、著作権者の収入にならない。そもそも違法なことをしておきながら、漫画の普及に役立っていると正当化するのは許しがたいという批判が巻き起こる。

これに対し海外のファンサブの作成者は、そもそも正規版がないのだから被害は出ていないと反論する。日本人の批判者は著作物を盗んでおきながらそれを悪いことと思わないとは盗人猛々しいと憤激する。論争はヒートアップし、海外勢は、日本人は傲慢でケチだ、日本人に幻滅したと落胆し、日本人側は、外国人はモラルがない、漫画家への尊敬がないと憤る。ほとんどヘイトスピーチすれすれの言い合いすら現れた。

本稿の課題は、日本人のファンサブすなわち海賊版への反応を調査することである。ネットではヒートアップしたが、ネットの意見が日本人を代表するとは限らない。どのような人がどんな意見であるかを抑えておくことは、ヘイトを防ぐ意味で大切だろう。

あらかじめ結論をまとめておく。

  1. ファンサブについて日本人の意見は擁護と批判に割れる。ネット上では日本人はファンサブ批判一色のように見えるがそういうわけではない。
  2. ファンサブ擁護的なのはクリエイター、出版社、アニメ企業従事者など業界人である。ファンサブに批判的なのは、業界人以外の一般人、特に著作権教育を受けた人である。
  3. 本来誰よりも被害に敏感であるべき業界関係者より、そうではない人たちの方がファンサブに批判的になっているのは奇妙な現象である。実態を知らない人の方が批判的になっていることになり、これは別途説明を要することであろう。

別途の説明がなにかはにわかにはわからない。候補をあげれば、単純にファンサブの実態を知られていないためかもしれず、あるいは著作権教育の偏りのためかもしれない。これは今度の課題である。

1. 調査概要

調査は2026年4月24日に行われた。調査会社Freeasyのモニター5000人で、年齢は20~69歳、男女と年齢階層別に均等割り付けしてある。

ファンサブについて次の問いをたてた:

設問文

海外で日本の漫画が人気です。

ただ、正規版が出ていない事が多く、ファンが自分たちで翻訳して広めてきてファンサブと呼ばれます。無許諾なので、著作権法上は違法となります。著作権者の収入にならないので止めるべきと言う意見がある一方、このファンサブがあるから日本の漫画が世界に広まったという意見もあります。

これについてあなたはどう思いますか。以下にいくつか意見をあげますので、そう思うか思わないかあなたの意見をお答えください。

意見群

  1. 正規版がないのなら、無許諾のファンサブで読むのは仕方がない
  2. 無許諾のファンサブのおかげで知名度が上がり日本の漫画・アニメが世界に広がった面はあると思う
  3. ファンサブは海賊版であり、それを読むことは窃盗犯と同じである

回答選択肢

1)そう思う
2)ややそう思う
3)あまり思わない
4)思わない
5)わからない
6)この事件についてよく知らない

1と2はファンサブ擁護側があげる代表的な論拠である。

正規版が出ていない時、漫画が読みたい人はファンサブで読むしかない。そして正規版がない状態ではそもそも著作権者の収入は発生していないのだから収入の減少という被害は発生しない。そしてファンサブのような海賊版があるからこそ日本の漫画は世界の隅々にまで広がっていった。途上国の多くで漫画のファンがいるのはファンサブ海賊版のおかげであり、巨大な宣伝効果をもったとされる。

一方、3は批判側の中心的な論拠であり、海賊版は違法であり、対価を払わずに読むのは窃盗行為であるというものである。窃盗をしておきながら、それが結果として宣伝の役に立っているとか、被害を与えていないとか正当化するのは盗人猛々しい

この3つの意見に対して、そう思うかどうかを4件法(そう思う、ややそう思う、あまり思わない、思わない)で答えてもらった。それ以外に「わからない」の選択肢とともに「この事件についてよく知らない」という選択肢も用意した。そもそも海外の漫画のことに関心がない人もいるためである。

結果は図1のとおりである。まず、この事件についてよく知らないという人が半分程度で、意見を述べたのは半分である。漫画の海賊版というやや特殊なテーマなのに半分程度の人が意見を表明しているのは高いと言ってよいだろう。

図1

順に見て行く。

1の「正規版がないのなら、無許諾のファンサブで読むのは仕方がない」に同意する人(そう思う(3.5%))+ややそう思う(11.5%))は15%で、同意しない人(あまり思わない(12.7%)+そう思わない(18%))が30.7%であり、同意しない人の方が2倍多い。ファンサブ批判派が優勢である。

一方、「無許諾のファンサブのおかげで知名度が上がり日本の漫画・アニメが世界に広がった面はあるかどうか」については賛否が拮抗する。宣伝効果を認める人が22.7%、認めない人が21.9%であり、ファンサブの宣伝効果については意見が分かれている。

続いて批判派の論拠の3を見よう。3の「ファンサブは海賊版であり、それを読むことは窃盗犯と同じである」は批判派が最も強くあげた論拠である。これに同意する人は30%であり、同意しない人の15.9%の約2倍である。海賊版を窃盗と見なして批判する人はX上に多くあらわれており、確かに優勢な意見であることがわかる

全体を振り返ってみると、1、3で批判派がやや優勢なので、どちらかと言えば批判派が多い。ただ、はっきりした多数派が形成されているとは言い難い。

ネット上の論争では海外勢を前にして、「外国人と異なり、日本人は〇〇と思うのだ」という論調で述べる例が見られるが、日本人としてひとまとめにできるほどには意見はまとまっていない。主語は日本人ではなく、私として、「私は○○と思う」と述べるべきであろう。

次節では、属性別に分け、特に海賊版問題に詳しい人の見解がどうなるかを見てみる。すると批判派がやや優勢といういま述べた解釈には注釈をつける必要が出てくる。

2. 属性別の賛否

人々をいろいろな属性別に分けてみよう。以下に12個の属性を用意し、あてはまるものをすべて選んでもらった。カッコ内は回答者5000人のなかの該当者の数である。

1.大学卒である(1643)
2.法学部またはロースクール出身(あるいは在学中)である(187)
3.欧米圏の海外に1年以上の滞在経験がある(158)
4.非欧米圏の海外に1年以上の滞在経験がある(128)
5.出版社に勤めている(50)
6.音楽・映画・ゲーム・アニメなどの制作会社に勤めている(127)
7.自分はアマチュアのクリエイターである(161)
8.自分はプロのクリエイターである(79)
9.漫画を描いている(プロ・アマどちらかで)(107)
10. 中学・高校で著作権の授業を受けたことがある(219)
11. 勤務先で著作権についての研修を受けたことがある(206)
12. ネット上で著作権についての解説を読んだことがある(433)

1の大卒かどうかは教育水準の効果である。2では法学部の卒業生だけを取り出して、法学の素養のある人の意見を聞いてみる。法学部出身者は、そうでない人に比べて著作権法に詳しいと考えられる。

3と4は回答者の海外経験である。海外での滞在経験があればファンサブなどの海賊版の実態を知っているはずである。海賊版の害を知って批判的になるか、それとも宣伝効果を評価して擁護的になるかのどちらであるかを見ることができる。

5から9までは業界関係者の意見を聞くための属性である。5は出版社勤務かどうか、6は音楽・映画・ゲーム・アニメなどの制作会社勤務かどうかを聞いている。7から9まではクリエイターかどうかを尋ねた。漫画の調査であるので、5の出版社と9の漫画家だけを別項目として取り出してある。

10から12までは著作権教育を受けた経験である。なお、今の20代~30代は中学高校で著作権学習が必修に組み込まれているので、10の学校での教育は、彼らは全員習ったことがあるはずである。ここで聞いているのはそれを自覚しているかどうかであり、いわば回答者の記憶に残るほど著作権を学んだかどうかの指標である。

3つの意見についての結果を順に見て行こう。図2は正規版がない時にファンサブで読むのは仕方がないという意見に同意するかどうかである。一番上のバーは、全体の結果で仕方がないに同意する人は15%、同意しない人は31%でダブルスコアで同意しない人が多い。これは図1の再現である。

図2

しかし、属性を絞ってみるとファンサブで読むしかないに同意する人が増えてくる。2の法学部出身者では、同意する人が30%、同意しない人は40%であり、ダブルスコアではなくなる。法学部出身者は一般人より著作権に詳しいはずであるが、一般人よりはファンサブに擁護的になる。

3と4の海外経験のある人ではさらにそれが強まり、欧米圏に滞在経験のある人では賛否が35%程度でほぼ拮抗する。欧米に滞在経験があればファンサブの実態に詳しいはずで、彼らはファンサブの実態を知ってファンサブに批判的になるより擁護的になっていることになる。

5から9までは業界関係者で、ここでも擁護派が多い。特に5の出版社に勤めている人では、ファンサブで読むことは仕方がないという意見に同意する人が56%と半分を越え、同意しないの30%のほぼ2倍に近くなっている。出版社は漫画の海賊版で被害を受ける企業であるのに、そこに勤務する人ではファンサブを容認する人の方が2倍も多い。

それ以外でも、ゲーム・アニメ・映画産業にいる人、ならびにプロ・アマのクリエイターでは、正規版が無いなら仕方ないと考える人が、そう考えない人に迫っている

一方、10から12までの著作権教育を受けた人では、ファンサブに批判的な人が多い。比率は全体平均と同じダブルカウントになっており、批判派が擁護派の2倍になる。ファンサブへの批判は業界関係者ではなく、一般の人、特に著作権教育を受けた記憶のある人に強いことになる。

この傾向、すなわち業界関係者と著作権の専門家にファンサブの擁護論が強く、一般人にファンサブ批判派が多いという傾向は他の意見についても観察できる。

図3は無許諾のファンサブに宣伝効果があったと思うかどうかの場合である。一番上のバーの全体平均では23%対22%で賛否は拮抗する。しかし、2の法学部出身者では、宣伝効果があると思う人が42%で思わない人27%より多い。3、4で海外経験のある人でも宣伝効果を認める人の方が1.5倍程度多い。5から9までの業界関係者でも賛否は拮抗するかあるいは宣伝効果を認める人の方が1.2倍程度多くなっている。

図3

図4は無許諾の海賊版を読むことは窃盗犯と同じという意見への賛否である。全体平均ではそう思う人が30%、思わない人が16%でダブルスコアで賛同者が多い。この場合、法学部出身者ではさらに賛同者増え、トリプルスコアになっている。

しかし、4の非欧米圏への滞在経験がある人でと、窃盗犯と思わない人がかなり増えてきてダブルスコアを割り込んでいる。さらに5の出版社勤務の人では窃盗犯と思う人が42%、思わない人が44%でほぼ拮抗する。

映画・ゲーム・アニメなどの制作会社の人では逆転して、窃盗犯と思わない人が43%で、思う人の35%より多い。7から9のクリエイターでも差はわずかであり、窃盗と思わない人がかなり多い。

窃盗犯と思う人が多いのは、著作権教育を受けた人の場合である。10から12の著作権教育を受けたと答えた人では、無許諾ファンサブを窃盗犯と考える人が思わない人の3倍にもなっており、圧倒的である。

今回の海賊版論争で日本側の主役になったのは、業界人ではない一般人、特に著作権教育を受けた人たちだったと考えられる。

図4

3. 考察:業界人と一般人の意識のずれはどこから来たか

一般人(特に著作権教育を受けた人)が無許諾ファンサブに批判的であるのに対し、業界人(出版社勤務の人、クリエイターなど)はファンサブに擁護的である。これは直感的には奇妙な結果である。

海賊版の被害を直接受けるのは、一般人ではなく出版社、制作会社、クリエイター、すなわち業界人である。その業界人が一般人より海賊版に擁護的であるのは理屈に合わない。一般人が、出版社あるいはクリエイターの利益を守るためにわざわざ批判の論陣を張っているのに対し、肝心の出版社・クリエイターはそれにもろ手をあげては賛同していないことになる。これはなぜであろうか?

仮説的な説明はいくつか考えられる。ここでは二つあげておく。

第一に、一般人に無許諾ファンサブの実態が知られていない可能性が考えられる。無許諾ファンサブにはさまざまな背景がある。高価すぎる正規版、不出来な翻訳、マイナー漫画の無視などで読みたい漫画が読めない海外の漫画ファンが自発的に始めたのがファンサブである。好きな漫画を読みたい、またそれを多くの人に読んでほしいという純粋な気持ちからはじまっており、同人活動のようなファン活動の一貫としてとらえられている。

業界関係者はその実態を良く知っており、知っているがゆえにファンサブに擁護的になる。しかし、一般人はこの実態をよく知らないため、海賊版すなわち悪という認識になりやすい。実態を知っているかどうかの差が出ているというのがこの説明である。

第二に、日本での著作権教育の偏り、あるいは反海賊版キャンペーンの影響が考えられる。日本の著作権教育は著作権者の権利保護を強調しており、著作物が広く利用されることの意義をあまり教えない。著作物は物財と異なっていくらでもコピーして共有できるという特性があり、この特性を生かして利用を促進するために、権利制限による無許諾利用(アメリカで言えばフェアユース)が行われている。

しかし、日本の著作権教育ではこのような無許諾利用の意義をほとんど教えず、著作権者の権利が強調される。また、著作権団体の反海賊版キャンペーンでは、海賊版の利用は犯罪行為であるという言い方が映画などで何度も行われており、それが人々の認識になった面もあるだろう。

かくして一般には、海賊版すなわち絶対の悪という構図ができあがっており、それゆえ一般人は無許諾ファンサブを悪と断じやすいという仮説を考えることができる。どちらの仮説がどれくらい正しいのかはこれからの課題である。

最後に振り返って私見を述べると、今回の海賊版騒動は少々日本側がやりすぎた感がある。一般の人が、業界人が考える以上に海賊版を悪と断じ、批判を加えたからである。著作権法は親告罪であり、権利の行使は権利者に任される。権利を持たない第三者が、出版社・クリエイターなど権利を持つ者の意思を越えて権利行使するることが適切かどうかは議論の余地があろう。


編集部より:この記事は田中辰雄氏のnote 2026年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は田中辰雄氏のnoteをご覧ください。

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