ウィーン国際経済研究所(WIIW)は29日、中・東・南東欧諸国23カ国を対象とした新たな春季経済予測を発表した。それによると、イラン戦争によるエネルギー価格ショックにもかかわらず、経済成長は鈍化しているものの、大半の国で依然として堅調だ。しかし、中東での戦争が長期化し、原油価格の高騰が続く深刻なエネルギー危機に陥れば、東欧はより深刻な打撃を受ける可能性が高いという。以下、WIIWのプレスリリースの概要を紹介する。

訪日したポーランドのドナルド・トゥスク首相と会見する高市早苗首相、2026年4月15日、首相官邸公式サイトから
WIIW副所長であり、春季経済予測の主執筆者であるリチャード・グリーブソン氏は「今のところ、イラン戦争が東欧のEU加盟国に与える影響は、まだ対処可能な範囲にとどまっている。イラン戦争に端を発したエネルギー危機にもかかわらず、東欧諸国の経済は依然として堅調に推移している。2026年の東欧のEU加盟国の平均経済成長率を2.3%と予測している。これは、ユーロ圏(0.9%)を引き続き上回る成長率となることを意味する」と指摘。
一方、中・東欧諸国が西側産業企業にとって有利な生産拠点であったモデルは、圧力にさらされている。WIIWによると、これは労働コストの急激な上昇が生産性向上によって相殺されないため、競争力が低下していることが原因だ。インフレの上昇、輸出需要の減少、サプライチェーンの混乱、そして直接投資のさらなる減少は、深刻な影響を及ぼす可能性がある。このことは、1990年代初頭以来初めて、この地域の防衛費がGDPに占める割合が、これまで支配的だった海外直接投資と同等、あるいはそれ以上になったという事実からも明らかであるという。
WIIWは2026年の東欧のEU加盟国の平均成長率を2.3%と予測しており、これは冬期予測から0.3ポイント下方修正された。2027年の成長率も2.3%と予測されており、冬期予測から0.4ポイント下方修正されている。にもかかわらず、これらの国々は今年と来年ともにユーロ圏の2倍以上の成長率を達成する可能性が高い。ただし、グリーブソン氏は「中東で戦争が長期化する最悪のシナリオでは、この地域の一部の国では成長率が1~1.5ポイント低下する可能性がある」と警告した。
国別を見ると、2026年も東欧のEU加盟国の中でポーランドが3.6%の成長率で再び首位に立つと予測されている。しかし、2027年にはエストニア(2.8%)はポーランド(2.6%)をわずかに上回る成長率を記録すると予想されている。
ハンガリー経済は転換期を迎えている。オルバン氏の16年間の統治により、ハンガリーは近隣諸国のポーランド、チェコ、スロバキアに後れを取っている。近年は経済停滞、地域で最も高いインフレ率、巨額の財政赤字、蔓延する汚職、EUからの資金凍結、そして自動車とバッテリー生産に偏重した不均衡な産業政策が特徴的だった。
新首相に指名されたペーテル・マジャール氏は、野心的な経済プログラムを発表し、ユーロ導入を目指している。しかし、巨額の財政赤字を抱えるハンガリーにとって、必要な財政余地を確保するのは容易ではない。いずれにせよ、ハンガリーの景気回復には時間がかかる。、WIIWによれば、2026年のハンガリー経済成長率を1.6%、2027年には1.8%と予測されている。これは、冬期予測と比較すると、2026年は0.6ポイント、2027年は0.7ポイントの下方修正となる。イラン戦争が、ハンガリーの脆弱な景気回復を再び脅かしているためだ。
中東の戦争はウクライナに深刻な打撃を与え、状況をはるかに困難なものにしている。ロシアによるウクライナのエネルギーインフラに対する大規模な空爆作戦は、冬期に広範囲にわたる停電を引き起こし、経済活動は依然として電力不足によって深刻な影響を受けている。さらに、イラン戦争の影響で燃料と肥料の価格が急騰し、インフレ率も上昇している。
WIIWは、通年の成長率を1%と予測しており、2027年には2.5%まで上昇する可能性がある(ただし、これは依然として非常に不確実である)。これは、冬期の予測と比較すると、2026年の成長率を1.5ポイント、2027年の成長率を1ポイント下方修正したことになる。ロシアの侵略戦争による生産施設への甚大な被害に加え、経済の低迷は、中東戦争の影響とウクライナの深刻な労働力不足も反映している。
WIIWのウクライナ専門家であるオルガ・ピンデュク氏は「ウクライナは農業部門の生命線である燃料と肥料の輸入に大きく依存しているため、イランでの戦争はウクライナに特に大きな打撃を与えている。近隣諸国がウクライナへの燃料輸出を制限しているのを既に目にしている。この傾向が強まれば、ウクライナは深刻な困難に直面する可能性がある」と主張。同氏によれば、中東での戦争が長期化し、原油価格が高止まりするという最悪のシナリオでは、ウクライナは景気後退に陥る可能性があるという。
一方、モスクワにとっては、ホルムズ海峡の封鎖によって、原油・天然ガス価格の高騰による予想外の追加収入がもたらされた。ロシアの視点からすれば、これは財政難を緩和する上でまさに好都合なタイミングだった。昨年の財政赤字はGDP比3.9%と、ロシアの基準からするとかなり高い水準だった。イランとの戦争が始まるまでは、今年の財政赤字は制御不能に陥る恐れがあり、政府は軍事費と社会保障費を除くあらゆる支出を10%削減することを検討していた。
WIIWのロシア専門家、ワシリー・アストロフ氏は「イランとの戦争はロシアの財政安定化に貢献している。戦争が長引けば長引くほど、そして原油価格が高止まり、あるいはさらに上昇すればするほど、ロシアにとってプラスの効果は大きくなるだろう。原油価格が1ドル上昇するごとに、ロシアの国庫には58セントが流入する」と予測する。しかし、この追加収入は支出の増加には回されず、政府の借入金削減とエネルギー企業の負債返済に充てられるため、ロシアの経済生産への恩恵はごくわずかだろうという。
WIIWは、2026年のロシアのGDP成長率をわずか0.9%と予測しており、2027年には1.5%に加速すると見込んでいる。実際、今年最初の2か月間、ロシア経済は1月に前年同月比2.1%、2月に1.5%のマイナス成長を記録した。アストロフ氏は「ロシアの低成長の主な原因は、依然として15%という高水準の政策金利、新規生産能力への投資不足、そして労働力不足にある。イラン戦争によるエネルギー価格の高騰も、こうした状況を大きく変えることはないだろう」と述べている。
ロシアにとって最良のシナリオ、つまり中東での長期にわたる戦争と原油価格の高止まりが続く場合、経済成長率は2026年にさらに0.3パーセントポイント上昇し、1.2パーセントになる可能性がある。アストロフ氏は「イラン戦争はプーチン大統領にさらなる収入とより大きな政治的自由度を与えているため、ウクライナに対する侵略戦争を継続するのに役立っていることは間違いない」と説明する。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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