AIの哲学入門(7) ニーチェは「ヨーロッパのニヒリズム」を解体した

フリードリヒ・ニーチェを「ニヒリズム」の哲学者だと思っているのは、彼の著作を読んだことのない人である。ニーチェの終生のテーマは、プラトンに始まる「ヨーロッパのニヒリズム」を解体して乗り越えることだった。

その壮大な試みは彼自身の狂気によって挫折したが、現代におけるテクノロジーの最高峰であるAIの進化、特に大規模言語モデル(LLM)に代表される機械学習は、ニーチェが批判したプラトン以来の形而上学を全面的に否定している。

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神はなぜ死んだのか

ニーチェといえば「神は死んだ」という『ツァラトゥストラ』の言葉が有名だが、その意味は明らかではない。無神論は17世紀の啓蒙思想から始まり、ドイツ観念論も神の存在は前提しなかった。しかしカントの「超越論的主観性」やヘーゲルの「絶対精神」は神の同義語だった。

ヘーゲル以降の哲学は、これをいかに解体するかという脱ヘーゲル化の過程だった。ヘーゲルの弁証法を換骨奪胎し、神の位置に人間労働を置いたのがマルクスだったが、ニーチェは弁証法を否定した。

神のような絶対的価値は先験的に存在する本質ではなく、社会を支配するために人々の心に植えつけられたパースペクティブ(先入観)だ、というのがニーチェの批判だった。

世界の価値を剥奪してしまったところのすべての価値は、心理学的に割り出せば、それらが人間の支配形態を維持し上昇せしめるのに有用であるとの特定のパースペクティブの成果であり、しかも事物の本質へと誤って投影されたものにすぎない。(『権力への意志』12B(強調は原文)

かつて神は世界を説明し、人生に意味を与えるパースペクティブだったが、科学の発達でキリスト教のアドホックな世界観は説得力を失い、人間は生きる意味を喪失した。それが「神は死んだ」という言葉の意味である。

ニーチェは1887年に「次の2世紀の歴史、すなわちニヒリズムの到来を書き記す」と予言したが、そのニヒリズムの極北がLLMである。そこには文法も意味もなく、ただ経験的データの膨大な蓄積だけがある。

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