政府が力を入れるエンタメ輸出。経済産業省は3月からIP360というプログラムを展開しています。これは「コンテンツ産業成長投資支援事業費補助金」というのが正式名称で日本発のコンテンツ事業を2033年までに20兆円に引き上げるという目標を掲げています。360というのはあらゆる角度からそれを支援するという意味らしいのですが、私どもが現地でビジネスをしている観点からコメントいたします。

赤沢亮正経済産業大臣
以前から何度か申し上げたように少なくともカナダで日本からの正規卸流通ルートで日本のアニメ書籍を販売しているのは弊社以外存じ上げません。アメリカに行くと紀伊国屋さんがBtoCビジネスを展開するほか、メーカーから出版社までセールス活動に力を入れますが、カナダでは非正規ルート販売を除き、ほとんどないと言ってよいかと思います。
皆無なのはもう一つ理由があります。それはアニメイベントに出店するのが至難の業なのです。
通常、アニメのイベントオーガナイザーは既存出店者を最優先します。イベント最終日までに翌年のイベントの「参加権」を更新し、支払いをその場で完了させる仕組みで1年先のイベント出店者がほぼ確定してしまうのです。更新しない出店者とは売り上げが伸びなかったところや大きなブースを確保していたところを小さくするなどの理由でそれらがないと空きが出ません。そして新規のイベント出店申し込み者は極めて多いとされ、あるイベントでは数百とも言われています。つまり、既存出店者は既得権でもあり、絶対に外せないわけです。
我々が先日初参加していたカルガリーの10万人参加する「カルガリーエキスポ」もキャンセル待ちで最後にもう駄目だろうな、と思ったときに「直前ですが、空きがありますがどうしますか」という連絡をもらい入り込めたものです。ラッキーでしたが、新しい商材などは間に合わず、ありあわせのもので参加する羽目になりました。出店ブースは500以上はあったと思いますが、日系はゼロ。(もっともイベントの趣旨がスーパーマンとかスターウォーズといったアメリカン コミック系なので日本のアニメとは一線を画しています。)これで参加権を獲得したので来年以降はプランができるのです。
バンクーバーのアニメ系イベントでも参加申し込みをして何年も待っているものもあります。つまりBtoCに限って言えば日本政府が言うようにお金の力でどうにかなるというわけではなく、よほどの政治的ねじ込みがない限り、我々のように忍耐強くその機会を待つ努力が必要なのです。例えば昨年トロントのアニメイベントにも出店しましたが、イベントオーガナイザーがトロントでの企画が初めてだったこともあり、ずっこけました。ただ、他の都市で成功しているオーガナイザーなので我々は必ず復活すると確信して今年の出場権も確保してあります。
もう1つはアニメの消費に対するポケットの深さは日本政府が思うほど深くはない気がします。主体となる若者にはカネがないのです。アニメイベントの入場料も今や5000円ぐらいするので来場者は通しチケットでアニメの仮装をして開催期間中、ずっと徘徊し、様々なプログラムに参加してその独特の雰囲気で非日常を楽しむのです。日本のイベントと違い、参加意識の濃さが強いとも言えます。
ではアーティスト系(自分で商材を作って売る人たち)を主体としたそのおびただしい出店者はどこから来るのか、と言えば実は多くが「イベント専業業者」。つまりどこかで店舗を構えているのではなく、各都市で行われるイベントだけに参加して稼ぐ業者が多いのです。何故かと言えば販売効率が圧倒的によく、常設の店だと賃料から人件費まで高いのに対してイベントは安いし、短期集中で売り上げを確保できるのです。そのあたりの発想が違うとも言えます。
では日本のアニメが海外で売れる余地はどれほどあるのでしょうか?正直、そのアニメの認知度がネットフリックスなどで上がっていることが一般向け啓蒙として重要です。次に商材です。正直、日本政府がエンタメ輸出とわんわん言いますが、英語の商材なんてほとんどないわけです。我々は原画集など言葉が少ない商品やカナダでは他では絶対に手に入らないマニアックなものを得手としています。人気マンガは版権を得てアメリカで翻訳されたものも仕入れています。つまりアニメヒット作品を生み、言語の壁を取り除けば売り上げは爆上がりする公算は高いのです。
以前も申し上げましたが、日本のアニメ系出版社は版権ビジネスをしたのですが、それが私は絶対的な失敗だったと思うのです。日本のアニメ本は製本技術、紙質、内容を含め総合力で勝負できたのに版権ビジネスにしてしまい、質が劣り読めればよい程度の使い捨てアニメ関連本を生み出したのは失策だったと思います。また書籍事業は返本可能ですが、輸出専用にすれば返本リスクがないので出版社はコストを下げられ、輸出コストがかかっても価格競争力は維持できるはずです。あとは流通を変え、取次を介さない出版社直取引にすれば全く違うビジネスの世界となるでしょう。
こういうのは実際に売っている者が一番よくわかっているのです。政府は大手企業のボイスを聞いて政策策定をするのだと思いますが、必ずしも正しいわけではなく、ましてや日本の大手は多くがBtoBなのですが、実態を知っているのはBtoCを行っている最前線にいる会社であり、それらの声も聞く必要があると言えないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年5月4日の記事より転載させていただきました。







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