
jpa1999/iStock
正直に書くと、「思考が現実化する」というフレーズを聞いたとき、私はだいたい身構える。この手の言葉に出会う頻度はかなり高い。書店の自己啓発コーナーに行けば、似たようなタイトルが棚一段ぶん並んでいる。
『わたしを変える魔法 フラクタル心理学でもっと幸せな未来をつくる』(白石美帆 著)同文舘出版
「願えば叶う」「引き寄せの法則」「あなたの人生はあなたの思考次第」——どれも一見耳ざわりがいいが、突き詰めて考えると「うまくいかないのはあなたの思考が足りないからだ」と、被害者を二度殴るような構造になっていることが少なくない。だから身構える。
ところが、フラクタル心理学という枠組みは、よくあるこの手の本とはちょっと様子が違った。
フラクタルという言葉自体は、もともと数学・自然科学のものだ。「相似形」——小さなものと大きなものが、同じ構造を縮小・拡大して存在している現象を指す。一滴の水と大海。暖炉の火と山火事。ブロッコリーの一房と全体。これは比喩ではなく、自然界に普通にある構造である。
この発想を心に応用すると、こうなる。心のなかの小さな葛藤と、外で起こっている大きな対立は、同じ構造をしている可能性がある。家庭での口論と、国家間の紛争のロジックが、サイズだけ違って実は同じ。そう言われると、急に違う絵が見えてくる。
例えば、私自身、ある時期に職場で同じパターンの人間関係トラブルを繰り返していたことがある。相手が変わるのに、なぜか起きることがいつも似ている。
当時は「運が悪い」と思っていた。だが今になって振り返ると、自分の心のなかにあった同じ葛藤が、相手を変えながら同じ形で現れていただけのことだったのかもしれない、と思う。
それを「思考が現実化する」と言われると軽く感じるが、「同じ構造が拡大されて環境に出ている」と言われると、急に納得できる。要するに、フラクタル心理学の核心は精神論ではなく、構造論なのだ。
もちろん、すべてが心の投影である、という主張をどこまで信じるかは読者に委ねたい。私自身も完全には信じていない。世の中には、本人の心と関係なくふりかかってくる理不尽もある。それを「あなたの心の投影です」と片付けられたら、こちらも腹が立つ。
ただ、自分でコントロールできる範囲だけでも「私の心の状態が、私の世界のかなりの部分をつくっている」と仮に置いてみる——この仮置きをするだけで、見え方は確実に変わる。少なくとも、私はそう感じた。
これは、自己啓発というより、思考実験の本である。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
■
23冊目の本を出版しました。日本初のClaude実用書です。
『3時間で身につくClaude活用術』(WAVE出版)









コメント