
「新市場では、先行者が優位」と考える人、多いですよね。
前回紹介したクロネコヤマトも、先行者で勝った事例です。
しかし後発が勝った事例も数多くあります。
■ CTスキャナー
世界初のCTスキャナーはEMIが開発しましたが、その後、GEなどの医療ビジネス大手が参入して市場を押さえ、EMIは撤退しました※1)。
■ ポカリスエットとアクエリアス
1980年、大塚製薬がポカリスエットを発売し、一気に売れ始めました。
1983年、飲料業界の王者・日本コカ・コーラは、後発でアクエリアスを発売。ポカリと並ぶブランドになりました。
■ SNS
1997年のSixDegrees.com、2002年のFriendster、2003年のMySpaceなどが先行しましたが、SNS市場を押さえたのは2004年にハーバード大学向けに開発された後発のFacebookでした。
■ ネット検索
1994年創業のYahoo!はネット検索の最大手でしたが、1995年にAltaVistaやExcite、1996年にInktomiが登場。そして1998年、後発のGoogle一気にネット検索市場を制覇しました。
後発者優位で勝っている事例も意外と多いですよね。
経営学の世界でも長らく「先行者が有利」と思われてきましたが、’80年代から’00年代にかけて「本当に先行者優位なんてあるの?」という研究が行われ、後発者が勝つ仕組みもわかってきました。
ここで、主な研究をいくつか紹介します。
【1988年:先行者には、メリットとデメリットがあるよね】
LiebermanとMontgomeryは論文※2)で、先行者にはメリットがあるけど、デメリットもあることを明らかにしました。
■ 先行者のメリット:先行者は学習曲線によりコスト優位性が得られる。研究開発と特許で先行したり、顧客も囲い込める。ただ技術だけだと、数年で模倣されることも多い。(ちなみに学習曲線とは、経験を積めば、より効率よくできるようになる現象のことです)
■ 先行者のデメリット:後発者に「ただ乗り」されてしまう。具体的には、後発者は先行者を簡単にマネして、成功の確実性を増せる。また先行者がリーダーになると業界の「定番デザイン」を決めてくれるので、それをマネして安く作って、価格競争を仕掛けることもできる。さらに技術や顧客はどんどん変化するので、後発者だと対応しやすい。これらはすべて後発者に有利に働く
【1998年:先行者優位性って、ホントにあるの?】
10年後の1998年、同じ著者らはバーニーのRBV(「競争優位性は企業の強み次第」という理論)と、自分たちの先行者優位性の理論を結びつけた論文※3で、こんなことを言いました。
「現実には、マーケティングや生産能力に優れた後発者が市場を押さえていることも多いので、適切な参入時期と戦略については、さらなる研究が必要ですね」
このあたりで「先行者優位って危うくない?」という流れになりました。
【2003年:新市場は先行者でなく、「統合者」が制する】
MarkidesとGeroskiは、2003年の論文※4)で、新市場ができる仕組みを示しました。こんな感じです。
- まず新市場が生まれると、数百の企業が殺到する。
- 激しい競争の末、次第に市場で誰もが受け入れるような「定番デザイン」が確立するようになる。定番デザインでない多数の先行者は淘汰され、定番デザインを採用した少数の企業だけが生き残る。
- こうして定番デザインが決まりかける時点で、市場の不確実性は少し減る。この時に、「定番デザイン」に、生産力・販売力・サポート力・ブランド力・投資余力といった自社の「補完的資産」(「新製品を補完する資産」という意味)を組み合わせて、全体を統合する「統合者」が現れて、市場をゴッソリさらう。
- つまり市場を制覇するのは、最初に殺到した先行者ではなく、最後に現れる「統合者」である。
そして「先行者だからといって、市場を制する考え方は間違っています」と言いました。
以上の3つの論文をまとめると…
- 現実には、後発者が勝つケースが多い
- 市場に先行して参入した企業でなく、市場が混沌とした時点で、定番デザインと自社が持つ補完的資産も確保した企業(=統合者)が、市場を制覇する
- つまり重要なのは、先発か後発かではなく「統合すること」である
ということです。
冒頭で紹介した事例は、こうなっています。
■ CTスキャナー
EMIは先行者としてCTスキャナー市場を開拓しましたが、医療ビジネスは未体験ゾーン。医療ビジネスに必要な様々なサポートやサービス(補完的資産)を幅広く提供できる後発者=統合者のGEは、EMIから学んで、サポート力を活かして後発で参入し、市場を制覇しました。
■ ポカリスエットとアクエリアス
ポカリスエットは先行者として「電解質補給飲料」という新カテゴリーを生み出しました。その後、日本コカ・コーラはアクエリアスを開発。当時の清涼飲料水の主な販売経路は自動販売機で、自動販売機設置シェアトップは、日本コカ・コーラ。結果、こうなりました。
「ポカリ飲みたいけど、この自販機はアクエリアスしかないね。じゃぁ、アクエリアスにしようか」
こうしてアクエリアスは自販機網という自社の補完的資産を活かし、後発者=統合者として先行者のポカリスエットに並びました。(ただしポカリも市場リーダーとして、先行者利益を享受しています)
■ SNS
先行各社は、「人が繋がる価値」を示した先行者としてSNS市場を開拓しました。しかし彼らは、ユーザー増にサーバーが耐えられなかったり、スパム蔓延などの問題を抱えていました。Facebookは彼らから学び、後発者=統合者として、シンプルなユーザーデザインと実名性による信頼性という、その後のSNSの定番デザインを確立しました。さらに閉鎖的なハーバード大学というコミュニティで熱狂的ファンを獲得して、まず小さな市場を独占。その後、徐々に市場を広げ、最後は世界最大級のSNSとなりました。
■ ネット検索
先行者のYahoo!は、まだホームページ数が少ない時代だったので、ホームページを人力で分類していました。さらに検索画面にニュースや天気予報などのメニューも用意しました。その後、AltaVistaは人手を介さずにホームページを自動で分類する技術を開発し世間を驚かせましたが、技術的な問題で検索精度が急速に落ちました。そんな彼らからGoogleは学んで、検索のみのシンプルなユーザーインターフェイスと、圧倒的な検索精度の高さという定番デザインを確立しました。さらに膨大な数のサーバーに巨額投資を続けてパフォーマンスを維持し、検索連動広告でユーザーインターフェイスを汚さずに収益化するビジネスモデルも組み合わせて、後発者=統合者として市場を押さえました。
また新市場では、市場制覇のための「参入タイミング」があります。それはモヤモヤした濃い霧が徐々に薄くなり、顧客ニーズや技術の方向性が見え始めたけど、定番デザインが未確定の時期です。
このタイミングに「定番デザイン」を確立しつつ、自社の「補完的資産」(生産力・販売力・サポート力・ブランド力・投資余力など)を活かして、「統合者」となれば、市場を押さえることができます。これができれば後発者でも市場を押さえられるのです(先行者でも、定番デザインを確立し、補完的資産を活かして統合者になれば、市場リーダーになれます)。
定番デザイン確立後に市場に参入することも可能ですが、これはフォロワー戦略であって、この方法で市場リーダーになるのは恐らく難しいでしょう。
後発者が市場リーダーになるには、参入タイミングと定番デザインの確立、そして統合がカギなのです。
あなたの業界では、『新しい市場』は何ですか?
そして、その市場の『定番デザイン』は、どんな形になるでしょうか?
【参考文献】
※1)”Profiting from technological innovation: Implications for integration, collaboration, licensing and public policy” David J. Teece, 1986
※2)”First-Mover Advantages” Marvin B. Lieberman, David B. Montgomery, 1988
※3)”FIRST-MOVER (DIS)ADVANTAGES” Marvin B. Lieberman, David B. Montgomery, 1998
※4)”Colonizers and Consolidators: The Two Cultures of Corporate Strategy”, Constantinos C. Markides and Paul Geroski, 2003







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