米国では、「キリスト教ナショナリズム」という言葉がますます広く知られるようになってきている。しかし、新たな調査によると、国民の間ではこの現象に対する否定的な見方が一般的であることが明らかになった。バチカンニュースが15日、米国のビュー・リサーチ・センターの最新調査結果を報じた。

米国の国旗、バチカンニュース、2026年5月15日から
アメリカのワシントンD.C.に本部を置く非営利・無党派の世論調査機関(シンクタンク)のピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)は14日、「アメリカ人は宗教が政府と公共生活に与える影響をどのように認識しているか」と題する報告書をオンラインで公開した。この報告書は、4月初旬に3,592人を対象に実施された調査に基づいている。各宗教グループのデータは、米国人口における各グループの割合に合わせて統計的に調整された。
新たなデータによると、米国では「キリスト教ナショナリズム」という言葉に対する認知度が高まっている。約2年前に実施された前回の調査と比較すると、成人における認知度は14%増加した。「しかし、全体として、キリスト教ナショナリズムに対する態度は肯定的よりも否定的である」という。同センターは「キリスト教ナショナリズム」という言葉の定義は示さず、単に肯定的か否定的かを尋ねただけだ。この調査によると、この問題に関して肯定的な見解を示す傾向が最も強いのは白人福音派プロテスタントだ。これらの調査結果は、公共宗教研究所(PRRI)の「アメリカン・バリュー・アトラス2025」の結果とも一致する。
ピュー・リサーチ・センターの報告書によると、例えば、「「政教分離の原則を政府が強制するのをやめることを望むアメリカ人の割合」は増加していない。同様に、「神は他のどの国よりもアメリカ合衆国を優遇していると信じる人の割合」も変化していない。
この研究センターは、米国における宗教と公共生活に関連して調査された多くのテーマにおいて、「顕著な党派間の隔たり」が存在すると指摘している。「共和党員は民主党員よりも、宗教が米国における生活に肯定的な影響を与えていると回答する傾向が著しく高く、宗教が政府や立法において重要な役割を果たすことを支持する傾向も高い」と報告している。
ところで、世界教会協議会(WCC)のハインリヒ・ベドフォード=シュトローム会長は「キリスト教ナショナリズムは民主主義にとって脅威となる。キリスト教は、米国やロシアのような国々における政治的濫用によって脅かされている」と指摘、「米国の福音派の間では、政治指導者たちが教会礼拝を政治的イデオロギーの普及に意図的に利用している」と強調する。
同会長はまた、「トランプ大統領は独自の聖書を出版する一方で、移民・難民を犯罪人扱いし、強制的に送還したりすることで、キリスト教の根本的な隣人愛という教義を平気に踏みにじっている。一方、ロシアではプーチン大統領は自身を聖ウラジーミルの転生(生まれ変わり)だといわんばかりに、ロシア正教会の最高指導者キリル1世と連携して、ウクライナ侵攻を正当化している。その背後に、キリスト教ナショナリズムの政治利用が見られる」というわけだ。

キリスト教会関係者と祈るトランプ氏、ホワイトハウス公式サイトから
神学者でジャーナリストのアルント・ヘンツェ氏は「米国の場合、キリスト教ナショナリズムは、神権政治的な権力主張とホワイトハウスの権力集中が結びついている点で危険である」という。例えば、ピート・ヘグセス米国防長官を中心とする米国のキリスト教ナショナリストの間では、聖書が同性愛者への死刑を規定しているかどうか、女性参政権を廃止すべきかどうかといった議論が交わされているという。
ヘンツェ氏によれば、アメリカのMAGA運動は宗教と権力の融合である。政治における権力が宗教的に高められ、絶対化されると、もはや民主主義的な意味での自己制御は不可能になるという。
ちなみに、キリスト教ナショナリズムを考える上で、参考になる話がある。イスラエル系のドイツ人哲学者オムリ・ベーム氏(現ニューヨーク社会調査ニュー・スクール准教授)は2024年5月7日、ウィーンのユダヤ広場のホロコースト記念碑の前でスピーチし、「人間の尊厳を守りたい者は、そのことを国家主義の枠組みで行うことができない」と語り、イスラエルに「国家主義の克服」を訴えて物議を醸したことがあった。
ベーム氏は著書「急進的な普遍主義、アイデンティティーを越えて」の中で、アイデンティティーに代わって、カントが主張した道徳法則について‘自身の義務と考える自由を有し、それゆえにわれわれは責任を担っているという普遍主義”を主張している。同氏は「プライベートなアイデンティティーを最高の価値に置くのではなく、“わたしたちのアイデンティティー”の世界を越えたところにある法則、われわれは平等に創造された存在であるという絶対的な真理のもとで考えるべきだ。そうなれば、他国を支配したり、植民地化し、奴隷にするといったことはできない」と説明している。
ベーム氏の主張は一部のユダヤ人知識人、政治家には反シオニズムであり、反ユダヤ主義と受け取られた。ユダヤ民族が神の約束の地パレスチナで民族独自の国家を建設する運動はシオニズム運動と呼ばれ、イスラエル建国の神話となってきた。それに対し、ベーム氏の主張はナショナル・ソブリンティの概念から離れなければならないというのだ。それはイスラエルの建国神話の否定を意味する。
ベーム氏は2020年に発表したエッセイ集「イスラエル―ユートピア」の中で、ユダヤ国家と自由主義的民主主義との間に著しい矛盾を感じていると吐露している。同氏は「イスラエルの憲法が最初に考慮すべきは、ユダヤ民族の主権ではなく普遍的な人権であるべきだ」と強調し、それによってシオニズムの運動を克服することが出来ると信じている。
本題に戻る。キリスト教ナショナリズムは、自国の歴史や文化、政治的権力を神の意志と結びつける傾向がある。その結果、「国家の防衛」や「国益の追求」が最優先課題となり、イエスの普遍的な愛や許しの教えが本来の意味からねじ曲げられて利用される。それだけではない。自らの国家や宗教的文化を「神聖なもの」(善)とみなし、それ以外の存在を「悪」や「脅威」として位置づける二元論的思考に陥りやすい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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