出口里佐です。
5月15日金曜日。
リヨンからブリティッシュ・エアウェイズで、ロンドン・ヒースロー空港へ到着しました。

ヒースロー空港
alxpin/iStock
午後6時過ぎ。入国審査は驚くほどスムーズでした。
いつもは自動化ゲートでなぜか弾かれ、有人窓口へ案内されることが多い私のパスポートが、その日は一度で通ったのです。
「今日は運が良いのかも」
その時は、そんなふうに思っていました。
しかし、その数十分後から、私はターミナル5のバゲージクレームで、長い夜を過ごすことになります。
本当は今回のヨーロッパ旅行でも、絶対にヒースロー空港への到着便ではスーツケースを預けないと決めていました。フランクフルトやヒースローでは、荷物トラブルの話を何度も聞いていたからです。
ところがパリで友人から液体の素敵なお土産をいただき、そこから少し気が緩みました。ラファイエット・グルメでジャムや黒トリュフの瓶詰め、モノポリで日本では入手が難しいオレンジフラワーウォーター200ml入りまで買ってしまい、「これは預けるしかない」と観念したのです。
入国審査通過後、ベルトコンベア前へ向かうと、すぐに妙な空気に気づきました。
人はたくさんいるのに、荷物がまったく流れてこない。別のレーンには大量のスーツケースが放置されたままで、持ち主らしき人影が見当たりません。

スーツケースが沢山並んでいるけれど、人は待っていないベルト
とりあえず、すぐには出てこないだろうと思い、先にトイレへ行きました。
その時点で午後6時40分頃だったと思います。
私の乗っていたリヨン便は「7番」と表示されていましたが、待っていても何も始まる気配がありません。やがて空港アナウンスが流れました。

リヨン便は7番
「本日、空港のバゲージシステムに障害が発生しており、復旧まであと100分程度かかる見込みです」そんな内容だったと思います。ただ、早口のイギリス英語なので、完全に聞き取れたわけではありません。
そういえば、リヨンで搭乗前に、ブリティッシュ・エアウェイズから「機内サービスが一部制限される」というメールは届いていました。飲み物などが通常通り提供できない、という案内です。しかし、本当に重要な「空港全体のバゲージシステム障害」については、1時間以上経っても連絡が来ませんでした。
ベンチに座りながら待っているうちに、またアナウンスが流れます。
「空港で待たなくても、バゲージ遅延フォームを提出すれば、後日ホテルや自宅へ配送できます」
もうこの日は受け取れないかもしれない。そう思い、スマートフォンからフォーム入力を始めました。
宿泊ホテルの住所。
チェックアウト日。
さらに、もし間に合わない場合は日本の自宅住所。

BAからのショートメッセージ
入力を終え、送信しようとしたその瞬間、ようやくブリティッシュ・エアウェイズからショートメッセージとメールが届きました。状況説明と、フォーム入力を促す内容でした。
「遅いよ……」思わず笑ってしまいました。
念のため、もう一度スクリーンを確認しに行くと、リヨン便そのものが表示から消えていました。
「今日はもう待たないでください」
そう言われたような気がしました。
同じリヨン便の乗客たちも、いつの間にか姿を消していました。みんな、諦めたのでしょう。フォームを送信したのは、午後9時過ぎでした。ただ、今回は少しだけ希望がありました。スーツケースにAirTagを入れていたからです。

19:15のAirTagによるiPhone「探す」の表示。私がいるのはスマイルマークのT5建物、スーツケースは、右に何キロか離れています。
iPhoneの「探す」を見ると、荷物はずっとターミナル5の敷地奥に止まっていました。
リヨン便は到着後、飛行機から私達乗客をバスで15分ほど移動してターミナルへ向かったので、おそらく荷物だけが取り残されていたのでしょう。ホテルへ戻って寝る直前まで、AirTagの位置は動きませんでした。
ところが翌朝、再び「探す」を開くと、スーツケースはターミナル5の建物内へ少し移動していました。たったそれだけなのに、嬉しかったです。

翌朝のAirTag「探す」画面。スーツケースがT5建物内に!!
ロンドンでは2泊した後、湖水地方へ1泊し、その後また同じホテルへ戻って2泊する予定でした。ホテルのスタッフに事情を説明し、「不在中に荷物が届いたら預かってもらえますか?」と聞くと、「ノープロブレム!」と明るく答えてくれました。その言葉にも、少し救われました。
以前、2005年にベルリンで一度だけバゲージ遅延を経験したことがあります。
あの時は翌朝5時にホテルへ配送されました。
しかし今回は、ヒースロー空港ターミナル全体のシステム障害です。何日かかるのか、まったく読めません。
しかも今回は、ロイヤルバレエ「マイヤーリンク」と、もうひとつオペラを観るためのロンドン滞在です。本当は少しおしゃれをして劇場へ向かいたかったですが、飛行機の移動時にふさわしい服装、ジーンズと長袖Tシャツ、スニーカーという超カジュアルなスタイルで何日か過ごさないといけません。
それでも、あの長い待ち時間の中で、少しだけ救いもありました。隣のベンチに座っていた女性たちと、自然に会話が始まったのです。
「どこから来たの?」
「何時間待ってるの?」
彼女たちはギリシャの小さな島での休暇から帰ってきたところで、私よりもっと長い3時間以上待っていました。それなら今日は無理かもしれないなと、そう諦めがついた頃、ついに彼女たちのスーツケースが出てきました。思わず私は「Congratulations!」と叫んでいました。
すると彼女たちは笑いながら、
「Next is you!」
「Good luck!」
と返してくれました。
ギリシャは真夏のように暑かったそうです。
一方のリヨンは、冬のように寒く、私は何枚も重ね着していました。リヨンでは美味しいものを食べましたか?と聞いてくれた彼女の笑顔をいまでも覚えています。一瞬、私達のおかれた、ネガティブな状況をおしゃべりで忘れられました。
ほんの数時間前まで、別々の国にいた人たちと、ヒースロー空港のベンチで励まし合っている。旅のトラブルというのは、本当に不思議な連帯感を生むものですね。
しかし2日以上経ち、湖水地方のホテルに到着し、月曜の朝になった今も、まだスーツケース到着の連絡はありません。AirTagはターミナル5の建物で止まったままです。ここまできたら日本の自宅まで送ってくれれば、良しとしようと思っています。明日の火曜日、帰国前日のロンドンで観るオペラ、「サムソンとデリラ」も同じ超カジュアルスタイルで行くことになりそうです。
そういえば、ヘアアイロンもスーツケースのなかだったので、カジュアルスタイル、プラス爆発ヘアという、場違いなおばさんが、オペラハウスのエントランスのセキュリティスタッフに、何しにきたの?と馬鹿にされないか心配です。BAのメールには、今回の荷物の遅延に伴う必需品(essential items)の購入費用は請求することができますとありましたが、シックなワンピースと靴はきっと認められませんね。

こんな風になるのかしらという、あくまでイメージです。
実際はもっと優しいと思いますが。まともな恰好していきたいです。
リヨン便の後に到着した、JAL(BAとのコードシェア便)の羽田からの便も同じ7番の様でしたが、そちらは私が諦めて帰ろうとしたときに荷物が流れてきたようでした。長距離便のほうが、EUの規定では補償する金額が大きくなるので、なるべく優先して荷物を流してくれたのでしょう。
これからは、ヒースロー空港、フランクフルト空港で降りるときは、液体、ジャム、瓶詰のお土産は買わない、荷物は預けないを今まで以上に徹底していこうと思います。どうしても欲しいときは、帰国便に乗る直前にするを鉄則にして、今回のようなことにならないように心掛けていくつもりです。
でも、いったい私のスーツケース、いつ受け取れるのでしょうね。







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