映画「スポットライト」を思い出す米教会の未成年者への性的虐待問題

米国ローマ・カトリック教会の聖職者の未成年者への性的虐待問題と言えば、ボストンのカトリック教会聖職者による未成年者性的虐待の実態を暴露した米紙ボストン・グローブの取材実話を描いた映画「スポットライト」(トム・マッカーシー監督)を思い出す人が多いだろう。第88回アカデミー賞作品賞、脚本賞を受賞した映画で、教会関係者による未成年者への性的犯罪が米国社会で大きな衝撃を投じたことが分かる。

バチカン・ニュースが報じたところによると、米教会のニューヨーク州8司教区の中で、聖職者の性的虐待で犠牲者に支払う賠償金の工面に追われ、債務超過状況に陥る司教区が出てきた。米教会の司教区が破産するという前代未聞の状況が生まれてきたのだ。

債務超過の直接の原因は、法改正の実施により犠牲者は十数年前の過去の性的スキャンダルに対しても賠償金を請求できるようになったからだ。その結果、同州8司教区で新たに400件以上の賠償請求要求が出てきた。ニューヨーク州の教会だけではない。シカゴ大司教区では2000年以来、聖職者の未成年者への性的虐待問題で犠牲者に約2億ドルを支払っている。

また、前教皇フランシスコの友人でもあった米ワシントン大司教区のテオドール・マカーリック前枢機卿に対し、バチカン教理省は2019年2月16日、未成年者への性的虐待容疑が明確になったとして、教会法に基づき還俗させる除名処分を決定している。2001年から06年までワシントン大司教だったマカーリック前枢機卿は、神父候補者を誘惑したほか、少なくとも2人の未成年者に性的虐待を行ってきたことが明らかになった。

なぜ、米教会の聖職者の性犯罪について再度報じるかというと、米国司教協議会(USCCB)が6月10日から12日までフロリダ州オーランドで総会を開催するが、同会議では、米国独立250周年を記念して国をイエス・キリストの聖心に奉献することについて議論するほか、聖職者の性的虐待への対応について話し合う予定だからだ。

USCCB総会は、6月10日と11日に公開セッションを開催し、ライブ配信される。オクラホマシティ大司教のポール・コークリー大司教が、総会の公開セッションの冒頭で演説を行う。これは、コークリー大司教が司教協議会会長として初めて行う演説だ。駐米教皇大使のガブリエレ・ジョルダーノ・カッチャ大司教による講演も予定されている。

同総会は、米国カトリック教会にとって重要な時期に開催される。レオ14世が昨年5月、世界のローマ・カトリック教会の最初のアメリカ人教皇として就任した直後だからだ。それだけに、教皇出身の米教会の司教会議の動向が一層注目されるわけだ。

バチカンニュースが今月19日報じたところによると、司教たちは、子どもと若者の保護に関する憲章の改訂について協議する。特に、保護措置を強化し、改訂された教会法典第6巻および教理省の手引き書に合致させるための側面について重点的に検討する。この改訂は、虐待の防止と保護に対する司教たちの継続的な取り組みを強調する目的のためだ。

「子どもと若者の保護委員会」は、「今回の変更はバランスを取ることを目的としている。一方では、被害者と生存者への配慮を維持する必要があり、他方では、適正手続きへの意識を保つ必要がある。被疑者の権利と教会法は尊重されなければならないからだ」と説明している。

ところで、前教皇フランシスコ時代では、聖職者の未成年者への性的虐待問題が大きな問題であり、バチカン側もその対応に追われてきたが、レオ14世に入って、聖職者の犯罪問題は脇に置かれた感じがするのだ。

レオ14世は昨年12月10日、サン・ピエトロ広場での一般謁見で‘トランスヒューマニズム‘の思想に言及し、テクノロジーによって永遠の命を得ようとする一部の裕福なアメリカ人の考えを批判した。トランスヒューマニズムは普段聞きなれない言葉だ。テクノロジーを駆使して現在の人間(ホモ・サピエンス)の限界を超え、新しい存在形態(ポストヒューマン)へと進化することを最終目標としている。日本語では「超人間主義」と訳される。

ちなみに、どれだけの信者たちがトランスヒューマニズムについて知っているだろうか(「新教皇、トランスヒューマニズムを批判」2025年12月13日参考)。米国人教皇は「人工知能(AI)と倫理問題」やキリスト教ナショナリズムなど哲学的なテーマ好んで話題にする傾向がある。しかし、聖職者の性犯罪問題は解決しているどころか、拡散しているのだ。教会や聖職者が実生活で直面している問題についてはレオ14世は少々消極的だ。

いずれにしても、教皇出身国の米教会の司教協議会が聖職者の性犯罪問題にどのような対応を提示するか注目される。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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