5月30日、シンガポールで開催されたシャングリラ・ダイアローグにおいて、ピート・ヘグセス米戦争長官は、インド太平洋戦略に関する包括的な演説を行った。その内容は、対中政策、同盟国への要求、そして欧州への辛辣な批判を含む、極めて率直なものだった。

ヘグセス国防長官とトランプ大統領 ホワイトハウスHPより
セオドア・ローズヴェルト流「棍棒外交」の復活
演説で最も印象的だったのは、「静かに語り、大きな棍棒を携えよ」というセオドア・ローズヴェルトの言葉を明示的に引用した点だ。ヘグセス長官はこの哲学を「強く、静かに、明確に(Strong, quiet, clear)」というフレーズで繰り返し強調し、「パフォーマンス的な憤慨の時代は終わった」と宣言した。米国が外交的抗議で美徳を示しながら実際の能力を投射しないやり方は過去のものだ、と断じたのだ。これは明らかに、バイデン政権やオバマ政権的な「言葉重視」外交への批判であり、実力行使を前提とした現実主義外交への回帰宣言と読める。
西欧諸国への批判
演説の中で最も注目すべきは、欧州・NATOへの痛烈な批判だ。アジアのパートナーはアメリカとの関係を「理想的な価値観」ではなく「国益の具体的な一致」に基づいて捉えており、「ドラマや道徳的説教なしに実用的に対応する」というアジア的プラグマティズムを称賛したうえで、「西欧はそれを見習うべきだ」と述べた。
さらに、欧州諸国は長年、礼儀正しい訴えにもかかわらず防衛費増額に耳を傾けず、「空虚なグローバリズムの修辞」に惑わされ、国境を開放しながら軍を空洞化させた、と厳しく批判した。「ルールに基づく国際秩序」について、ルールはあっても実力で裏付けられなければ紙切れに過ぎないと言い切った。
日本への期待と要求
日本に関しては、防衛変革の加速に向けた具体的な措置を評価しつつも、「まだゴールラインには達していない」「重い作業が残っている」と指摘し、日本への高い期待を明示した。同盟国に対してはGDP比3.5%の防衛費を要求しており、それに応じる「模範的な同盟国」には武器売却の優先、産業基盤協力、情報共有の拡大など具体的な便益を与える一方、「フリーライド」を続ける国には取引のやり方を明確に変えると警告した。
棍棒外交の復活が日本に突きつけるもの
この演説は、アメリカの対外政策が「価値観外交」から「利益外交」へ本格的に転換したことを象徴しており、トランプ政権が国際社会に対して何を発信しようとしているかは明白だ。日本にとっては、防衛費増額・自立化の圧力が一層強まることを意味する。棍棒外交の復活は、日本が「保護国」から「真のパートナー」へと脱皮することを迫られている現実を、これ以上なく直截に示した演説だった。







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