
Zoeysmith/iStock
「スタートアップこそ、ファーストペンギンを目指せ」とよく言われます。しかしこの数回、当コラムで書き続けている通り、ファーストペンギンはシャチに食べられてしまうことが多く、現実には成功するのはセカンドペンギンです。
一方でファーストペンギンが失敗するとは限りません。大成功するファーストペンギンもいます。
しかし多くの場合、成功するファーストペンギンは、スタートアップではなく、大企業が多いのです。
「まさか。大企業ができないような斬新な挑戦は、スタートアップだからこそでしょ?」と思われるかもしれませんね。
そこで、具体的な事例を挙げてみましょう。
【TOTO ウォシュレット】
1900年代初頭、前身の東洋陶器の時代からトイレに取り組んできました。1967年には付加価値をつけようと暖房機能を付けたシート型洗浄便座を開発したりしています。
1978年、消費者調査で「紙を使わず、臭わないトイレ」を望む声が多いことに気づいたTOTOは、「トイレに快適空間にしよう」と考え、洗浄便座の開発を始めました。
しかし「お湯の温度、便座の温度、お湯を当てる角度」の最適解がどこにもありません。そこで社員300人以上を対象に、便座に針金を張って肛門の位置を測定するなどしてデータを収集。「お湯の温度38度、便座の温度36度、ノズル角度43度」という黄金律を導き出しました。
製品開発は苦労の連続でしたが、TOTOは温水洗浄便座市場を創出。ウォシュレットは同社の中核事業となり、国内シェア5割を超えました。
【トヨタ・プリウス】
最初の挑戦は1968年。ガスタービンエンジンによるハイブリッドシステムに挑戦しましたが、電池性能が低く失敗しました。
1993年には21世紀のクルマを考える「G21プロジェクト」が発足。ガソリンエンジン前提で燃費を従来の1.5倍にする目標を設定しました。
その後G21チームは「1995年の東京モーターショー用にハイブリッドのコンセプトカーを1年以内に制作せよ」という課題が、さらに1994年11月には副社長から「ハイブリッドカーを商用化せよ。燃費改善目標は2倍。できなければプロジェクト解散」という目標が与えられました。
当時「ハイブリッドカーは量産不可能」といわれる中で開発が進みました。
初号試作車は動くまで49日間かかりましたが、膨大な技術的課題を一つずつ乗り越え、1997年に量産化成功。プリウスは「21世紀に間に合いました」というCMで登場し、ハイブリッドカーはトヨタの屋台骨を支えています。
【3M ポストイット】
1968年、3Mの科学者スペンサー・シルバーは、強い接着剤を開発しようとしたら、粘着力が弱く簡単に剥がれる接着剤ができました。
接着剤の使い道を社内の様々な部門に聞き回りましたが、見つりません。
5年後、教会の聖歌隊で歌っていた3Mの科学者アート・フライは、讃美歌のページに挟んだしおりが落ちるのを見て「この接着剤で、剥がせるしおりができる」と閃きました。
製品開発を始めた二人は「これは全く新しいメモになる」と気づき、3M本社でサンプルを配布したところ、大好評。
しかし米国4都市でテスト販売を実施しても期待に反して人気が出ません。そこでマーケティング担当者が直接消費者に大量のサンプルを提供して調査すると、9割の人が「製品を購入したい」と回答。
1980年、全米で発売を始めたポストイットは大ヒット商品となりました。
ポストイットも12年間の試行錯誤を経た産物だったのです。
このようにファーストペンギンの大企業は、社内の豊富な経験と潤沢なリソース、さらに資金力を活かすことで、10年単位の期間をかけて息長く挑戦を続けて、勝ちをもぎ取ります。
では、スタートアップはどうでしょうか?
潤沢な資金がある大企業と違って、スタートアップは常に資金の問題があります。
特に誰も挑戦していないディープテックのスタートアップは収益化の時期が見えません。資金調達ができなければ、そこで終わりです。
ではどうすればいいのでしょうか?
ここでも、具体的な事例をみてみましょう。
【Airbnb】
創業の1年前。お金がなく家賃が払えなかった創業者たちは、ウェブで「アパートの寝室を朝食付きで貸し出します」と宣伝すると、すぐ予約が入りました。
「知らない人の家にお金を払って泊まる人がいる」という誰も知らないビッグチャンスを見つけた彼らはAirbnbを創業しました。
しかしユーザー数は100人程度から、なかなか伸びません。
ほとんどのユーザーはニューヨーク市にいたので、全てのユーザーを訪問して泊まり、弱点に気づきました。
まず宿泊料をいくらに設定するかわからない人が多くいました。
また素敵な部屋なのに、サイトに掲載する写真では部屋が暗く薄汚れて見えました。そこでプロの写真家を無料で送り込んでホストの部屋を撮影する仕組みにしました。
Airbnbはこうした数多くの地道な改善を繰り返して宿泊数は激増。時価総額は800億ドルになりました。
スタートアップは、大企業のような体力勝負はムリ。そこでAirbnbのように、誰もやらないニッチな分野に絞り込んで、身軽さを活かし、迅速できめ細かい試行錯誤で種を育てていくのが、数少ない勝ちパターンです。
10人に聞いたらほぼ全員が「そんなの上手くいくわけないじゃん。頭大丈夫?」と言われるくらいの挑戦が、ちょうどいいのです。
大企業とスタートアップのファーストペンギン事例を紹介しましたが、共通するのは、成長期になるまで頑張れるか否か、です。
困難も多いですが、ライバルもいません。だから市場が成長すれば、圧倒的な先行者優位を獲得できるのです。
【参考文献】
『ウォシュレット』公益社団法人 発明協会
『連載「ミライを変える革新力」③ 進化するウォシュレットでグローバル展開加速 TOTO』公益財団法人 日本生産性本部
『プリウスの開発とハイブリッド戦略』トヨタ自動車75年史
『<プリウス誕生秘話>第1回 21世紀のクルマを提案せよ (1993年9月~1994年11月)』Gazoo 2015.12.11
『<プリウス誕生秘話>第2回 想定外の“ハイブリッド指令” (1994年12月~1995年8月)』Gazoo 2015.12.25
『<プリウス誕生秘話>第3回 49日間の苦闘 (1995年11月~1996年12月)』Gazoo 2016.1.1
『ポスト・イット® ブランドについて』3M
『Airbnb Story 大胆なアイデアを生み、困難を乗り越え、超人気サービスをつくる方法』リー・ギャラガー著/日経BP社
編集部より:この記事はマーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏のオフィシャルサイト(2026年6月2日のエントリー)より転載させていただきました。永井孝尚氏のメルマガのご登録はこちらから。







コメント