旅の勲章になったスーツケース

出口里佐です。

先日の記事でお伝えしたヒースロー空港でのバゲージ遅延。その後、私のスーツケースは帰国から2日後、ようやく自宅に到着しました。

ヒースロー空港のバゲージシステム障害。ロンドンの長い待ち時間
出口里佐です。5月15日金曜日。リヨンからブリティッシュ・エアウェイズで、ロンドン・ヒースロー空港へ到着しました。午後6時過ぎ。入国審査は驚くほどスムーズでした。いつもは自動化ゲートでなぜか弾かれ、有人窓口へ案内されることが多い私のパスポー...

ただし、まるで長旅をしてきた証しのように、上部の角に大きな凹みをひとつ付けて。

5月15日、リヨン空港からロンドン・ヒースロー空港ターミナル5に到着した私は、ターンテーブルの前でスーツケースを待っていました。しかし、いくら待っても荷物は出てきません。

その日はターミナル5全体でバゲージシステムのトラブルが発生しており、多くの利用客が同じ状況に置かれていました。

やがてBA(ブリティッシュ・エアウェイズ)から、空港で待たずに宿泊先や自宅で受け取れるので遅延報告書を提出してほしいという連絡が届きました。私は空港でスマホで手続きを済ませ、スーツケースのないままロンドン市内のホテルへ向かいました。

地下鉄の乗り換えも身軽で、これはこれで悪くありません。

ホテルに着いたのは23時過ぎ。近くのスーパー、Sainsbury’sでチキン入りのシーザーサラダとオレンジを買い、遅い夕食を済ませました。ロンドンのホテル代は高いですが、スーパーの食べ物は安くて、そこそこ美味しくて助かりました。

その後数日間、私はAirTagを頼りにスーツケースの行方を追うことになります。

最初はヒースロー空港の奥まった場所にあった荷物が、翌日には空港建物内へ移動し、その後は倉庫らしき場所へ。さらに数日後には再び空港へ戻ってきました。

まるで私とは別に、スーツケース自身が旅を続けているようでした。

その間、私は友人とロイヤルバレエの「マイヤーリンク」を鑑賞し、翌日ひとりでピーターラビットの故郷として知られる湖水地方へ一泊旅行にも出かけました。

湖水地方は、ウィンダミアに日曜から一泊して、月曜午後の半日バスツアーに参加。

皮肉なことに、スーツケースがないおかげで移動は驚くほど楽でした。

私が湖水地方を観光していた5/18には、スーツケースはロンドン郊外の倉庫で待機。

結局、スーツケースは私よりも10時間早い便で日本へ帰国し、羽田空港の保税倉庫を経て、帰宅から2日後の土曜日に自宅へ届けられました。

ようやく再会できた。

そう思ったのも束の間でした。上部の角に、かなり目立つ凹みができていたのです。

ようやく自宅に到着したものの、かなり大きく凹んでました。
私の気持ちも凹みました。

それまで一週間近く、「そのうち届くだろう」と自分を励ましながら過ごしてきた緊張の糸が、そこでぷつりと切れた気がしました。

私はすぐにBAへ修理費用について問い合わせのメールを送りました。

さらに保険会社やスーツケース販売代理店のサイトを開き、修理や補償の手続きについて調べ始めました。しかし、あちこちの説明を読んでいるうちに1時間ほどが過ぎ、だんだん疲れてきました。

ここまで来たら、もう自分で何とかしてみよう。そう思い、自宅にあった金槌を手に取りました。スーツケースの内側から凹み部分をかなり強めに何度も叩いてみると、驚いたことに9割ほど元の形に戻ったのです。もちろん新品同様ではありません。

それでも眺めているうちに、「これくらいなら悪くないかもしれない」と思えてきました。少しだけ残った凹みも、見方によっては旅慣れたスーツケースらしい風格です。

スーツケースの内側から金槌でかなり強めにたたいてみました。為せば成る。自分でも直せたことに驚きました。

もうこれでいい。

自分で金槌でたたいた後。
写真では、凹みがほとんどわかりません。

そう思えた瞬間、修理代請求や保険申請のために、さらに時間と労力を費やさずに済むことが何よりもありがたく感じられました。

その後、BAから返信が届きました。着払いでスーツケースを送れば修理費用はこちらで負担する、という丁寧な内容でした。私はお礼とともに、自分で修理したこと、完全ではないけれど旅の思い出として受け入れることにしたことを書いて返信しました。

すると担当者から、「その考えに救われる思いです」という返事が届きました。

考えてみれば、今回の件はBA自身の問題というより、ヒースロー空港全体のシステム障害によるものでした。もちろん利用者としては困りましたが、BAもまた対応に追われる立場だったのでしょう。私は今後もヨーロッパ旅行ではBAを利用すると思いますし、ヒースロー空港には再発防止を期待したいと思います。

BAラウンジの焼きたてスコーンと、贅沢な山盛りクロテッドクリーム(手前左手)、イチゴジャム。

実際、帰国直前に利用したヒースロー空港T3のBAラウンジ(ラウンジF)では、とても気持ちの良い時間を過ごしました。焼きたてのスコーンにクロテッドクリームとジャム。香りの良い紅茶。そしてしっとりとしたキャロットケーキ。イギリス料理に強い思い入れはありませんが、お茶の時間の豊かさはさすがだと感じます。

また、パリで購入したチョコレートが無事だったことにも胸をなで下ろしました。ヤニック・アレノの樹液を使ったチョコレートも、ジャッド・ジュナンのピラミッド型のチョコレートも、東京の真夏のような暑さとすれ違いの時間差の到着で無傷でした。

もっとも、本当に反省したのは別のことです。処方薬をスーツケースに入れてしまい、5日間飲めなくなってしまいました。幸い大事には至りませんでしたが、これは次回への大きな教訓です。

今回の経験から学んだことは三つあります。

まず、ヒースロー空港やフランクフルト空港を到着地として利用する際は、可能な限り荷物を預けないこと。

次に、そのためにも荷物を減らすこと。本はKindleで読み、劇場のプログラムは必要なページだけ写真に残す。

そして最後に、やむを得ず預ける場合でも、処方薬や下着、最低限の着替えは必ず機内持ち込みにすることです。

ここ数年、ヨーロッパでは列車移動が増えたこともあり、私は中型スーツケースから機内持ち込みサイズへと荷物を減らしてきました。それでも今回は、美味しいジャムやオレンジフラワーウォーター、黒トリュフの瓶詰めの誘惑に負けてしまいました。

次回からは、パリで液体のお土産を買うのは、ユーロスターでロンドンへ移動し、そのまま日本へ帰国するときだけにしようと思います。

旅は思い通りにならないから面白い。スーツケースの角に残った小さな凹みを見るたびに、私は今回の騒動を思い出すのでしょう。そして、その凹みはいつの間にか、少し誇らしい旅の勲章になっている気がします。

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