人権NGOが人権を守れない? ハラスメントに揺れるアムネスティの本当の問題

西村 健

CribbVisuals/iStock

おまいう(おまえが言うな!)
天つば(天に唾する)。

こういった言葉が示すように、正義を主張するには資格がいる。言論の自由はあるものの、厳しく自分を律しているからこそ、その主張が人々の心に届き、受け入れられるのだ。

SNS時代の現在、「言っていることとやっていることが違う」、つまり、発言と行動が食い違ったり、齟齬があったり、一貫していなかったりすると、批判され、炎上し、信用を失ってしまう。特に、社会や人々に対して、偉そうに上から「あるべき姿」を主張する団体・組織・人は注意が必要なのは言うまでもない。

正義と人権を象徴する人権団体、アムネスティ・インターナショナル日本が、パワハラ疑惑で揺れている。筆者は過去にアムネスティのCSRチームでボランティアとして活動していた人間だ。ここは何か言わないといけないと思い、筆をとった。

アムネスティ・インターナショナルとは?

アムネスティ・インターナショナルは、1961年に発足した世界最大級の国際人権NGOである。世界200カ国で1000万人以上がアムネスティの運動に参加しているという。国境を超えた自発的な市民運動を推進し、「自由、正義、そして平和の礎をもたらした」功績で、1977年にはノーベル平和賞を受賞し、1978年には国連人権賞を受賞した。

アムネスティ・インターナショナル日本は、その日本支部として1970年に設立され、その後、社団法人を経て、公益社団法人となった。世界中のさまざまな場所で起こっている人権侵害を国内に広く伝えている団体だが、特に知られているのが「死刑廃止」のアドボカシー活動である。

組織は、正規職員だけでなく、ボランティアを巻き込み、チームやグループとして組織化し、活動を行っている。抗議活動をしたり、署名活動をしたり、勉強会をしたり、映画祭を開いたりと、ボランティアの活動はさまざまで、まさに「草の根」の人権活動をしてきた団体である。

アムネスティは多くの社会起業家を輩出しており、新外交イニシアティブの代表としてメディアでも活躍する猿田佐世さん(弁護士)などもOB・OGだったりする。

アムネスティ・インターナショナル日本のパワハラ疑惑

最近、アムネスティ日本で事務局長によるパワハラ疑惑が明らかになった。複数の職員・労組が告発し、現在、第三者調査と労使交渉が進行中である。

報道によると、事務局長は2025年1月に就任。その後、職員に対して声を荒らげたり、にらんだり、意見を一方的に切り捨てたり、無視したりと、コミュニケーションとして問題のある言動を繰り返したとされている。東京事務所職員10人のうち6人がパワハラ被害を訴え、1人が退職、2人が休職に至ったという。

労組は、厚生労働省指針上の「精神的攻撃」「過大な要求」に該当すると主張している。そして、勇気ある職員が、パワハラを受けてきたことや、理事会が長期間対応を怠ったことなどをnoteで告発した。

そもそも、職員で構成される労働組合は、理事会に対し、パワハラ対応と事務局長の交代などを繰り返し要請してきたという。実際に業務をボイコットする事態となっており、会員が集まる総会でも問題提起がされている。

これに対してアムネスティ日本の理事会は、SNSでの告発に対し、弁護士による調査や職員労組との団体交渉を継続すると公式サイトで明言している。

NGO・NPOのマネジメントは大変

アムネスティ日本のような組織のマネジメントは難しい。大きく3つの問題がある。

問題① アドボカシー団体の組織目標のジレンマ

正義を主張するこうした団体は、えてしてマネジメントが非常に大変である。社会に影響を及ぼすには限界があるし、そもそも社会の関心が低いテーマに対してアプローチするので、組織目標は曖昧になり、「どれだけ活動したか」が目標になりやすい。

仮に「人権〇〇法設立」という明確な目標を掲げても、相手を動かして行動変容を期待する目標の場合、影響を及ぼすには限界があるため、目標自体が意味のないものになってしまうこともある。したがって、どうしても「頑張ります!」といった目標になり、「社会がこう変わる」に向けて少しでも貢献すればいいという形の「活動目標」になるのは仕方ないことだ。

「社会にどれだけ影響を及ぼしたのかを測定するインパクト評価が必要」という専門家もいるが、測定自体も現実的ではない。

そして、会員は非常に多様なバックグラウンドや価値観を持っており、そこから選出された理事も同様である。そうなると、事務局はどこを向いて、何を目指せばいいのか、非常に難しくなるのだ。

問題② ガバナンスが効きにくい

運営をしていくのは、あくまで事務局長である。事務局長をコントロールするのが、会員から選出される理事会である。理事は社員から選ばれ、社員は会員から選ばれる。そして理事は無償だったと記憶している。理事には、事務局長の採用にあたって面接をしたり、人事任命責任を負ったりする役割があるのだが、無給の人が責任を持つというのは、一般的に難しいものだ。

さらに、海外団体の支部のような位置づけもあり、そうでない面もあり、外資系企業のような雰囲気もある。寄付ベースで運営しているので、フィランソロピー団体でもある。こうした構造なので、普通の企業団体とは少し違うわけだ。

特に、事務局長は外部から招くことが多かった組織でもある。内部から昇格させてこないため、よく知らないボスがいきなり外部から経営層としてやってくる。外部から業務をよく知らない人が事務局長としてやってくるわけで、職員としては納得できないことも多いし、事務局長にとってもマネジメントは難しいだろう。ちなみに、事務局長、マネージャー、職員という階層があるのだが、内部は中小企業ともいえない小さな事務所規模である。

問題③ ミッションに基づく活動の停滞

世界の人権状況を網羅した「アムネスティ・レポート」の発行もなくなったようで、ニューズレターの発行なども激減している。外から見ていても、人権活動自体が停滞しているといってよい。世界に誇った「アムネスティ」の人権活動が目立たなくなっている状況なのだ。

ミッションに基づく活動が停滞する。寄付が減る。組織運営が困難になる。外部コンサルを入れたりしてテコ入れするが、特殊な形態なので難しい。内部に余裕がないため、活動がさらに減る……。こうした「停滞」「先細り」のサイクルを止められなくなってしまったのだろうか。

こうした背景には、日本のメディアで国際的な人権問題が大きく報じられにくくなったことや、「リベラル勢力」への世間の冷たい目線が増えたことなど、外部環境の影響もある。

上記のように、組織としての問題解決は非常に難しい。過去に事務局長を解任したこともあり、私の知る限りでもいろいろあったと記憶している。

原点回帰で再生を

ハラスメント疑惑については、人権を標榜する団体が人権上の問題を抱えているという、なんとも皮肉な事態である。公開されている定款・諸規定集には「ハラスメント防止規程」が存在しているし、ハラスメント相談員という役職も存在する。さらに、2名の理事が担当しているので、このルールが運用できていなかったということである。そして、総会では次のような資料も配られている。

出典:職員のnoteより、総会で配布された資料

あるボランティアの人はこう言った。「いつの日からか、会員を集めて会員を増やすことが活動になってきたように感じた」。ある元職員は言う。「テレビや新聞でアムネスティの名前をまったく見なくなってしまった」と。組織運営よりも、やはりミッションに基づく活動をすること、原点回帰が必要なのではないだろうか。

筆者がボランティアをしていた時は、事務局長や職員がとても優しい人たちで、本当に活動が楽しかったことを思い出す。それは10年以上も前の話ではある。今回の「言行不一致」は、ブランドと信頼を一気に毀損してしまった。過去にかかわった人間としても、自分が所属し、貢献した団体がこうなるのは悲しすぎる。組織再生を期待したい。

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