ホロライブとにじさんじは失速したのか?減益予想にみる物販ビジネスへの転換点(濵口 誠一)

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VTuberグループ「ホロライブ」を運営するカバーと、「にじさんじ」を運営するANYCOLORが、直近決算にて翌期の営業利益の減益予想を発表した。普通に考えれば、ホロライブやにじさんじの人気が落ちたと思えるかもしれない。しかし、このことを単純な失速と見るのは早い。

今回の減益予想は、単に勢いが弱くなったというより、急成長してきた会社が、これまでの勢いだけでは回らなくなり、会社の土台を作り直す段階に入ったことを示しているからだ。もっといえば、これまでのタレント事務所的な経営から、小売で稼ぐIP企業としての経営へと、勝つための方程式が変わったサインである。

企業の経営管理を専門とする中小企業診断士として、今回の減益予想が、VTuber事務所の次の成長段階に入るサインだといえる理由について、VTuber事務所の特殊なビジネスモデルを紐解きながら考えてみたい。

小売業化するVTuber事務所

カバーとANYCOLORは単なるVTuber事務所ではない。直近決算実績では、ANYCOLORは売上の68%、カバーは48%が物販であり、配信による収入を大きく上回っている。

物販が大きくなるのは、成長したVTuber事務所にとって自然な流れだ。配信やイベントは、タレント本人の稼働に強く依存する。タレントが配信し、企画に出て、イベントに参加しなければならない。

一方で、グッズやカード、ライセンス商品は違う。過去の配信で生まれた名場面、ファンの記憶、キャラクター性、記念日、イベントの余韻を商品に変えれば、タレント本人が常に動き続けなくても収益になる。

これはタレントを軽く見る話ではない。むしろ、タレント人気を一回きりで終わらせず、長く売上に変える仕組みである。会社が大きくなるほど、タレント本人の稼働だけに頼らない売上源が必要になる。だから物販は、急成長したVTuber事務所にとって、必然的に中心へ近づいていくのである。

ただし、物販が中心になると、会社に求められる能力は変わる。タレントの知名度を上げ、人気グッズを作るだけでは足りない。

人気があっても、作りすぎれば在庫は余る。少なく作りすぎれば、売れるチャンスを逃す。販売時期を間違えれば、ファンの熱量が高いタイミングを逃す。つまり物販を中心にする会社では、人気を読む力だけでなく、需要予測と在庫管理の力が必要になるのである。

実際に直近決算で、カバーは約18億円、ANYCOLORは約10億円の在庫評価減を計上した。過去に作ったグッズの販売が見込めない、需要予測と在庫管理が失敗したという判断だ。

在庫評価減は重要なサインである。カバーとANYCOLORが、タレント事務所から、物販で稼ぐ会社へ進み、さらに小売業的な管理能力まで必要な会社になったことを示しているからだ。成長した結果、勝つためのルールが変わっている。

今後のVTuber事務所経営に求められるもの

カバーとANYCOLORのビジネスモデルで重要なのは、入口と出口が違うことだ。

入口は、人気づくりである。配信、コメント、切り抜き、SNSでの会話、ファン同士の盛り上がり、タレントマネジメントによって、ホロライブやにじさんじへの熱量が生まれる。

出口は小売である。グッズ、カード、イベント、ライセンス商品として売ることで、ファンの熱量が売上と利益に変わる。

つまり両社は、人気を作る会社であると同時に、人気を商品として売り切る会社でもある。入口である熱量づくりが弱くなれば、出口である物販も弱くなる。逆に、出口の小売管理が弱ければ、せっかくの人気を利益に変えきれないのである。

このビジネスモデルが難しいのは、入口と出口がいつも同じ方向を向くわけではない点だ。

物販を増やせば、短期的な売上は伸びやすい。だが、グッズが多すぎれば、ファンは追いきれなくなる。応援しているはずなのに、いつの間にか買わなければならないという負担に変わることもある。

イベントや商品企画を増やせば、話題は作れる。だが、タレントの稼働や制作現場の負担が増えれば、入口である配信やファンとの関係が細る可能性もある。

つまり、出口である小売を強くしすぎると、入口である熱量を傷つけることがある。反対に、入口の熱量づくりだけを重視しても、物販として売り切る力が弱ければ利益は残らない。ここに、小売で稼ぐIP企業ならではの難しさがある。

今回の減益予想は、この入口と出口の難しさに両社が向き合い始めたサインである。

人気を作る入口を強くするには、配信や企画を支えるスタジオ投資、制作体制の強化、タレントが長く活動できる環境づくりが必要になる。これは短期的には費用であり、利益を押し下げる。

同時に、出口である小売を強くするには、商品数、販売時期、生産量、在庫、需要予測を管理する体制も必要になる。今期の在庫評価減は、物販を成長の柱にした企業が、小売管理の精度を高めなければならないことを示している。

実際に直近の決算資料によると、カバーは翌期予想で約32億の投資、ANYCOLORは今後3年間で70億の投資の予定だ。

減益予想の本質は、人気が落ちたという単純な話ではない。小売で稼ぐIP企業になった結果、入口と出口を同時に整えるためのコストがかかる段階に入ったということなのである。

成長により変化する経営者の資質

では、なぜカバーとANYCOLORは、勝ち方が変わったことに気づきにくかったのか。両社は小売業になるために成長してきたわけではない。出発点にあったのは、ホロライブやにじさんじのタレント人気であり、配信の盛り上がりであり、ファンの熱量だった。その熱量をグッズやイベントに変えていくうちに、物販が自然と大きくなっていった。

つまり、物販は最初から独立した小売事業として設計されたというより、タレント人気を収益化する手段として広がったのである。だから経営者も投資家も、物販を人気の結果と見やすい。売上の大きな柱になっていても、会社の中身が小売で稼ぐIP企業へ変わったことに気づきにくい。

在庫評価減は、その遅れが数字として表れたものだ。人気がないから売れなかった、という単純な話ではない。物販を中心事業として扱う管理体制が、事業の大きさに追いついていなかったのである。

だから、今後問われる経営者の資質は一段上がる。

カバーとANYCOLORは、無意識に進んだ多角化を、意識的に管理する段階に入った。これから必要なのは、勢いのあるタレント事務所の経営ではない。小売で稼ぐIP企業として、入口と出口を同時に管理する経営である。減益予想は、その難しい経営に移るための痛みなのである。

濵口 誠一 中小企業診断士
従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。
公式サイト:https://billion-break.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年6月22日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。