政府が皇室典範改正案を閣議決定し、今国会での成立を目指している。その柱は女性皇族が結婚後も皇室に残る制度と、旧11宮家の男系男子を皇族の養子に迎える制度である。
政府案では、15歳以上で配偶者と子どもがいない男系男子を養子に迎えられるようにし、養子本人には皇位継承資格を認めない一方、その子孫が男系男子なら皇位継承資格を持つ内容になっている。
象徴天皇制をくつがえす政治介入
憲法は日本国民統合の象徴たる天皇の地位を「日本国民の総意に基く」と定め、皇位は世襲で継承するとしているが、政府・与党は土壇場でこれに介入し、天皇の後継者を政治が決めようとしている。
国会の与野党協議でまとめられた「立法府の総意」は皇族数の確保が建て前で、政府の有識者会議が示した2案、すなわち女性皇族の婚姻後の身分保持と、旧宮家男系男子の養子案を「了」とする内容であり、皇族数確保と皇位継承を切り離すことが前提だった。
ところが閣議決定された政府案は、養子本人には皇位継承資格を認めないとしながら、その男子には継承資格を認めるという規定を入れた(第38条)。これは皇族数の確保という説明とは異なり、旧宮家による皇位継承への道を制度化するものだ。
「皇族数の確保」が「皇位継承」にすり替わった
これは読売新聞の社説が指摘したように、土壇場で「皇族の確保」が「皇位継承」にすり替えたものだ。この制度が実現すれば、将来、悠仁さまに男子が生まれない場合、皇統が現在の天皇家から旧宮家の系統に移る可能性が出てくる。
その宮家(伏見宮)は、天皇家から南北朝時代にわかれたもので、戦後80年は一般人として暮らしており、天皇になることを国民が自然に受け入れるとは思えない。一般人を皇族にすることは、憲法の禁止する門地による差別にあたる疑いが強い。
麻生副総裁は「令和の藤原道長」になるのか
今回の養子案を強く推進してきたのは、自民党の麻生太郎副総裁だが、彼はこの問題に中立の立場ではない。麻生氏の実妹の信子様は三笠宮家であり、もしその子(2人とも女性)が男系男子の養子と結婚して男子が生まれると、麻生氏は天皇の大叔父になる。

天皇家の系図(宮内庁)
中道改革の野田佳彦氏は「麻生さんは藤原道長になる」と言った。そういうねらいが麻生氏にあるかどうかは知らないが、少なくとも利害関係者が皇室の制度設計に深く関与し、天皇の候補者の人選をおこなうことは、疑惑をまねく政治介入である。
女性皇族は結婚すると「住民基本台帳」に載るが姓はない
さらに奇妙なのは、女性皇族の扱いである。改正案は、女性皇族が結婚後も皇族に残ることを認める一方、夫と子は皇族にしない。妻は皇族、夫と子は一般国民という家族が生まれる。妻には姓がないが、住民基本台帳に載せるという。
今は女性皇族は皇統譜という特別の戸籍に入っているが、このままだと、たとえば愛子様が結婚すると夫も皇統譜に入り、皇位を継承できる可能性がある。その可能性をなくすために、女性皇族を皇統譜から追放しようというのだ。
与党は夫婦別姓問題では「家族の一体性」を強調してきた。ところが皇室典範改正では、女性皇族と夫の身分を分断する。一般国民には同姓を求めながら、女性皇族には家族の一体性を犠牲にさせるのか。制度としての整合性を欠いている。
2年以上の与野党協議を土壇場で「だまし討ち」
立憲民主党の水岡俊一代表は、政府が土壇場で養子の子に皇位継承権を与える内容を盛り込んだことについて、これまで与野党の議論で棚上げした話をくつがえすだまし討ちだと批判している。 少なくとも、国会で十分な議論が尽くされたとは言えない。
皇族数の減少は現実の課題であり、女性皇族が結婚後も公務を担えるようにすることには意義がある。しかしそれを理由に、国民的議論もないまま旧宮家による皇位継承への道を開くなら、これは政府が別の天皇家をつくる入口になりかねない。
天皇が政治に関与せず、政府が天皇家に介入しないことは、象徴天皇制の根幹である。国会最終盤の駆け込みで処理する問題ではない。政府は改正案の提出を見送り、改めて女性天皇・女系天皇の可能性も含めて、正面から議論をやり直すべきである。







コメント
1. 第38条(養子の子孫への継承資格)について
養子本人だけでなくその子孫にも資格を認めなければ、旧宮家復帰は単なる員数合わせに終わり、継承資格者が悠仁親王殿下お一人という根本問題は解決しない。「皇族数確保」と「皇位継承」を完全に切り離すという前提自体、実効性を欠く便宜的整理だったとも言える。また旧宮家は伏見宮を通じた男系の血筋であり、その子孫に資格を認めても男系男子の原則は維持されている。
2. 麻生氏の「利害関係」批判について
「妹の孫が養子と結婚し男子が生まれれば」という何段階もの仮定の積み重ねで、現実の利益相反とは言い難い。この基準なら皇室に縁のある家系を持つ政治家は皆「疑惑」の対象になりうる。決定は皇室会議・有識者会議・13党派協議を経ており、一政治家の意向だけで結論が出る制度でもない。藤原道長の比喩も、天皇に国政権能のない現行憲法下では実権を伴う話ではない。
3. 女性皇族の家族分断と別姓問題の「矛盾」について
夫婦別姓は民法上の一般国民の権利の話であり、皇室典範は憲法が明文で特別視する世襲・象徴天皇制の枠組み。皇族はそもそも姓も戸籍も持たず、一般の家族法の論理をそのまま持ち込める制度ではない。夫と子を皇族としないことは、彼らが公務や皇室の制約を負わない生活を保てるという見方もできる。
4. 「だまし討ち」批判について
2021年の有識者会議報告の時点で、養子に継承資格がなければ制度の実効性が乏しいという指摘は既にあった。条文化は法制局の作業段階で具体化するのが通常の立法プロセスであり、法案提出は審議の始まりであって押し切りではない。
5. 「撤回して女系天皇も含め議論をやり直すべき」について
女系・女性天皇の容認は、男系で続いてきた継承原則そのものを転換する、はるかに大きな変更である。旧宮家養子案はその原則を維持したまま選択肢を広げる相対的に保守的な策とも言える。継承資格者が事実上一人という状況で議論をゼロからやり直せば、その間の空白のリスクも無視できない。