黒坂岳央です。
「社会人になったら実家を出て一人暮らしをするのが当たり前」このような考えが、長らく日本社会には根強かった。実家に残る者は「自立できていない」「甘えている」というレッテルを貼られてきた。
人によっては思考停止で信仰しているこの考え方だが、平成から大きく時代が変わった今、冷静に問い直す必要がある。
元々は高度経済成長期に不動産業界やメディアが「一人暮らしして一人前」をマーケティングとして広めたとされ、つまりはバレンタインチョコを売りたいお菓子メーカーと同じ踊りである。
結論から言うと、この意見は時代の変化で変わったと思っている。高度経済成長期という特殊な環境下で合理的だった選択ではないだろうか。令和の今、「実家暮らしが出来る人は勝ち組」という構図も全てではないにせよ、あり得ると思っている。

平成はうまくいった一人暮らし
高度経済成長期からバブル期にかけて、給与は右肩上がりで、家賃負担は所得に対して相対的に軽く、20代での結婚が一般的で、終身雇用が生活設計の前提だった。
つまり、一人暮らしは結婚するまでの「親元を離れての一時的な修行期間」であり、数年間、家計管理や家事を学んで多くの人がその後結婚をしていった。
ところが現在、この前提はことごとく崩れている。実質賃金は伸び悩み、家賃と住宅価格は高騰し、生涯未婚率も上がり続けている。かつて数年で終わっていたはずの一人暮らし期間は、数十年以上続くケースが珍しくなくなった。
バブルや平成の時代と、何もかも全てが異なる令和の時代を一緒の戦略で乗り切れるわけがない。「一人暮らしして一人前」という古い価値観に縛られず、場合によっては合理的な生存戦略として実家暮らしを選ぶのも一つの選択ではないだろうか。
実家暮らしは10年で1700万の得
実家暮らしの経済的メリットは想像以上に大きい。
まずは経済面だ。家賃と光熱費だけで月10万円から15万円が消える生活を10年続ければ、失われる資金は1200万円から1800万円に達する。これを実家暮らしのまま投資に回していた場合との差は、複利運用を考慮すればさらに開く。
仮に月10万円を年利7%で10年回せば、ざっくり1,700万円になる(元本1,200万円+運用益約500万円)。実際は東京での一人暮らしと地方実家暮らしの手残り金額の差は10万円どころではないので、さらに差は大きいはずだ。
中年になってからの10年と若いうちの10年ではまったく時間価値がケタ違いなので、若い時期に実家暮らしでコストを節約して蓄財できれば人生を変えるほどの差になる。「人の目が気になるから早く実家を出よう」と人目を気にして得られる精神的安寧と天秤にかけたら、経済的メリットは計り知れない。
「実家は田舎にあり、地方には仕事がない」という人もいるかも知れないが、今はもう時代が違う。無理に東京へいっても、よほど高度専門職で高収入を得られない人は逆に貧しくなる。
それなら親元で安く暮らして人手不足産業で働く方が遥かに合理的だ。ITスキルを持つ人ならリモートワークをしてもいい。筆者は独立してずっとリモートワークだが、安い地方に住んで東京や海外企業から報酬を得ている。
「お金が全て」などとは言わないが、人生前半にお金の不安をクリアしておけばその後の人生選択は大きく広がる。年を取ってから大金を得ても人生は大して変わらないが、若い内にコストを減らして経済的問題をクリアしておけば、そのインパクトは計り知れない価値がある。
お金だけではない実家暮らしのメリット
筆者は27歳まで親元で生活させてもらい、そこで派遣社員や学生をさせてもらった。周囲から見たらアラサー男が母親の世話になるのはみっともないかもしれないが、遅れて大学生になった事情もあり、無理に背伸びしたら生活は破綻していたので実家暮らしは大変ありがたかった。
途中、アメリカ留学期間を除けば、アラサーまで実家暮らしをしてきた筆者の立場からすると、実家暮らしのメリットはお金だけではないといえる。
まずは時間だ。仕事をしながら家事をするのは正直、大変である。一人暮らしで腐らせない料理をするとなると、小ロットを回数多く調理が必要になる。
だが、3人、4人で暮らすなら大鍋にまとめて作っても消費できる。料理は交代制にすれば、料理の腕も磨かれるし、自炊なので野菜などもたくさん食べられる。「仕込みまでやったので、続きはお願い」と家族に託すことも出来る。
そして毎日シャワーだと疲れも取れないが、家族で暮らせばお風呂に入るようになる。これが疲れを癒してくれる。筆者は毎日お風呂に入っているが、久しぶりにビジネスホテルでシャワーを浴びると全然違うので驚くことがある。
加えて集団生活はある程度の規律や気遣いもいる。「気遣いしたくないから一人暮らしへ」と言う反論がありそうだが、これが続けば結婚も遠ざかる因子になる。「全員結婚するべき」などと押し付ける気はまったくないが、一人暮らしがあまりに長いと、集団生活が出来ない体質になるデメリットは確実にあると思っている。
筆者は上京して1年くらいで妻と知り合って同棲し、結婚したのであまり一人暮らし期間がなかった。なので、誰かと気を遣いながら生活はまったく苦にならない。思っていることは本音で言い合えばストレスもたまらない。
同棲期間は元々、彼女が住んでいた1Kの洋室7.8畳のマンションに転がり込んだので激狭物件に二人暮らしだが、まったく苦ではなかった(むしろ、創意工夫が大変楽しい)。だが一人暮らし10年やってからだと難しかったかもしれない。
◇
思考停止で「実家暮らし=子供部屋おじさん・おばさん」と決めつけるのは古い発想だ。問うべきは実家暮らしか一人暮らしかではなく、自立できているかどうかである。
自分は実家暮らしが長かったが、料理もやっていたし家事は何でもできた。むしろ「誰にも縛られたくない」と個人主義を爆発させて東京で苦しい貧乏ぐらしになれば、何のための一人暮らしか分からない。実家とうまくいっていないなど、人によって事情は異なるかもしれないが、許されるなら実家暮らしは選択肢として合理的な時代になったと思うのだ。
■
2026年7月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

「Z世代を甘やかすな」(著:黒坂岳央)







コメント